『オーシャンズ~』シリーズや、最近だと何といっても『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』のウォーマシン役でお馴染みのドン・チードルが監督・製作・共同脚本・主演を努め、クラウドファンディングで製作資金を募ったという、ジャズの帝王マイルス・デイヴィスの伝記映画…風の物語『MILES AHEAD/マイルス・デイヴィス空白の5年間』について書いてみました。
ある意味モノマネ映画
ジャズは全く聴かないという人であっても、おそらく名前だけは知っているであろうジャズ・ジャイアンツのひとり、マイルス・デイビス。
あのしゃがれ声と、独特の抑揚のつけ方を見事なモノマネで演じていて、ちょっとニヤつきながら見てたりしました。顔ははっきり言って似てないんだけど、例のデカいサングラスをしているシーンが多く、グラサン姿だと結構いけてたような。
共演はローリング・ストーン誌の記者役でユアン・マクレガー。この人はSF大作からコメディ、ヒューマンドラマ系の作品まで、ほんといろんなジャンルの作品に出ていますね。あるときは冴えない青年、またあるときはローマ教皇の秘書、そしてあるときは頭から便器に突っ込む小汚いヤク中だったりと芸の幅が広くて好きな役者です。個人的には『ブラス!』や『リトル・ヴォイス』などの音楽がらみの映画に出ているときの役が、あ〜英国人だなぁ…って感じ(どんなだよ)でいいなと思っています。まぁ便器のあれももちろんいいんですけど。
『バード』みたいな映画なのかと思ったら
あまり情報を入れずにサラッと観に行ったので、てっきり『バード』(イーストウッドが監督したチャーリー・パーカーの伝記映画)みたいな感じだと思ってたら途中から「あれっ」っていう展開になり、追いつ追われつからドンパチまで始まったりして「なんだこりゃw」と思い、帰宅してパンフを読んだりネットで調べたりしてみたところ、やはりその辺は盛り盛りの創作だったようでした。
若いときにジャズをよく聴いていた時期があって、その当時は40~50年代のビバップ~ハードバップが好きだったのでチャーリー・パーカーの逸話などについてもそれなりに知っていました。
『バード』のほうは実際のエピソードをかなり盛り込んであって、さすが“生粋のジャズ吉、クリント・イーストウッド”といった作りの映画でした。内容は伝記映画なので当然ハッピーな方向にはいかないものの、見ている側にとってはニヤッとする場面が多い作品でした。例えば映画には出てこないケニー・ドーハムの名前が出てくるところとか。
『バード』の主演はフォレスト・ウィテカーで、ドン・チードル版マイルス同様にこちらも相当本人に寄せて演じていましたが、作品の内容・テイストが大きく違うのでもちろん半笑いになんてなりません(笑)。カンヌで男優賞を受賞したのも納得の名演です。
フォレスト・ウィテカーもいいんですよねぇ。大好きです。今年、名作『スモーク』のHDデジタルリマスター版の上映があったので観てきましたが、久しぶりに見てもやっぱりあの映画は最高でした。
ああいう小ぢんまりとした世界の物語って単館上映の作品に多いですが、映画の舞台がNYだと独特の小気味良さというか、軽やかさみたいなものがありますね。人それぞれいろいろと背負っているものがあって大変だったりするんですけど、「ここで何とかやってこうや」みたいな前向きなノリがあるというか…あ、この映画も舞台はいちおうNYでしたね。
やってる本人がおそらく一番楽しんでいる
この『MILES AHEAD』は『バード』とは違う意味でニヤッとしながら見ていましたが、ドン・チードル本人がとにかくマイルス・デイビスが大好きなんだろうな、っていうのが伝わってくる映画でした。おそらくは監督・制作・共同脚本・主演を兼任している本人が、やってて一番楽しくて一番気持ちよかったんでしょう(笑)。だったら「これはもうそういうことでいいんじゃないか」って思いますよね。
正直なんかちょっと変だったような気もするんだけど、これはこれでアリかなと。だって本人とっても楽しそうなんだもん。パンフの写真とか見たら笑いますよ。いい意味で。
ちなみにそのパンフレットの中から一部引用すると、
ドン・チードルは普通の評伝映画ではなくマイルス自身が出演したいと考える映画を作りたかったようだ。
ということだそうです。なるほど、役者らしい視点って感じですね。
(この脚本をもしマイルスが読んだら「まさかこれを他の奴に演じさせようとか考えてないよな?」なんて言ってきて、それに「まさか!これはあなたのための映画ですよ」なんて返したらマイルスが……)
なんていう妄想でもあったのかも(笑)。
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