三崎町三丁目通信

映画・海外ドラマのレビューや外国語学習についてのブログ

© 2013 - Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.

映画『LIFE! (The Secret Life of Walter Mitty)』──その一歩で、世界は変わる

投稿日:2018年9月30日

 

 ベン・スティラーが監督・主演・制作を務めた2013年の映画LIFE! (原題:The Secret Life of Walter Mitty)』公開時のキャッチコピーはこんな言葉でした。

 

生きてる間に、生まれ変わろう。

 

 こんなことがしてみたい、こんなふうになれたらいいなと思うことはあっても、いつも「どうせ無理」とか「時間がない」「お金がない」「自分にはまだ早い」「もうそんな年じゃない」といった具合に、一生懸命「自分がそれをやらなくてもいい理由」を見つけてきては、これまでと何も変わらない人生を送っている──

 

 そんな人にオススメなのがこの映画。(自分をはじめ、世の中の大部分の人が当てはまりそうですが…)

 

 同じように一歩を踏み出す勇気がなく、空想の中でだけ冒険をしていた中年男がついに新たな世界に飛び出し、その最初の一歩を踏み出したことで世界が変わり、本物の冒険をして人生を変えた男の物語です。

 

 

ウォルターの境遇と仕事

 

 地味で平凡、ただし風変わりな空想癖あり──パンフレットの中にはこのような見出しがついている主人公のウォルター・ミティ。原作の短編小説や、それを元にした1947年のダニー・ケイ主演の映画『虹を掴む男』のリメイクで、といったことは内容とは直接関係ないので今回のレビューでは触れません。

 

 雑誌『LIFE』の写真管理部に長年勤めているウォルター・ミティ(ベン・スティラー)は、NY郊外から地下鉄で通勤している。片思い中の女性が住むマンションが火事になったときは、駅のホーム(そこは地上駅)からマンションへダイブして彼女の愛犬を救うヒーローとなる……という妄想をしているうちに電車に乗り遅れたりする42歳の中年男。

 

 メディアのデジタル化が進む昨今の影響を受け、『LIFE』誌も休刊となり今後はオンラインの写真アーカイブとなることが決まり、その最終号の表紙に使う写真を探すために(予期せぬ)冒険に出ることになるウォルター。

 

 と同時に片思いの相手シェリル(クリステン・ウィグ)との関係も何とかしたいウォルターだったが、思いもよらないところで彼女との距離を詰めることになる。自身が少年時代に大会で賞を取ったこともあるスケボーのスキルが、シェリルの息子の心をガッチリ掴むことに。そしてそのスキルが自身の冒険でもしっかり役立つことになるのでした。

 

 

「ウォルター・ミティ」とは

 

© 2013 - Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.

 

「Walter Mitty」という名前は、それ自体が比喩の言葉になっているようです。もちろん原作の『The Secret Life of Walter Mitty』からきているのですが、辞書によれば

 

 

「Walter Mitty」

《a ~》自分を有能だと勘違いしている人、(実現性はないが)自分の成功を夢想する人

 

 

「Walter Mitty dream」

平凡な人が見る夢

 

 

「Walter Mitty fantasist」

(実現性のないことを夢見る)夢想家

 

 

 とのことです。

 

 

 

プロダクション・ノートより

 

 パンフレットの中にある「PRODUCTION NOTES」がなかなか面白かったので、一部だけですが引用します。意外と気付かなかった部分なんかも知ることができて、興味深い内容でした。

 

 

(中略)

空想の中で、ミティはパワフルで決断力があり、直感に従って行動する。しかし、現実では彼は徹底して用心深い。彼がティーンエージャーの時に父を亡くしたせいで、家族の世話をする責任を感じているからだ。だからこそ、コンラッド(ストーリーおよび脚本を担当したスティーブン・コンラッド)はミティがその慎重な態度をかなぐり捨てるほど強いモチベーションを見つけなければならなかった。

 

ミティは、失われたネガを見つけるため、取りつかれたように探求の旅に駆り立てられる。そのネガには“LIFE”誌の最終号の表紙を飾る社員が含まれている。コンラッドはミティのためにもう一つのインスピレーションを組み入れた。“LIFE”誌の有名なモットーは、人々を励ます。

 

「何千マイルも離れたところにあるものを見よう。壁の後ろや部屋の中に隠されたもの、危険かもしれないものを見よう。見て、そしてびっくりしよう……これは素晴らしいモットーだ。要するに、深く世界を知って、他の人々に会うべきだと言っているからね」とコンラッドが言う。「人は誰でもこういうことを、時にはやらなければならないと言っているんだ」

 

ミティは独身男で、女性に必死になって突進するというよりはネットで様子を見ている。だがコンラッドは、ミティを無能な人間とは決して考えなかった。「我々にとって、彼が弱い男ではないことには重要な意味があった」と彼が言う。「このウォルター・ミティには強い心と素質がある。我々がやるべき仕事は、彼が自分の本心に気づく場所に連れていくことだった」

 

 

© 2013 - Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.

 

『LIFE』誌のモットーとは

 

 上の引用にも出てきた『LIFE』誌のモットーもパンフレットに書いてありました。映画の内容ともリンクしていて、また劇中でもオープニングのクレジットと同様に場面の背景に文字を馴染ませて印象的に見せています。

 

 

TO SEE THE WORLD

世界を見よう

 

THINGS DANGEROUS TO COME TO

危険でも立ち向かおう

 

TO SEE BEHIND WALLS

壁の裏側をのぞこう

 

TO DRAW CLOSER

もっと近づこう

 

TO FIND EACH OTHER

お互いを知ろう

 

AND TO FEEL

そして感じよう

 

THAT IS THE PURPOSE OF LIFE

それが人生の目的だから

 

 

スポンサーリンク

 

音楽が背中を押す

 

 

ホセ・ゴンザレス José González『Step Out』

 

 エンディングで流れる歌はホセ・ゴンザレス『Step Out』。映画を見てからこの曲を聴くと、印象的なリフレインが劇中の雄大な光景と重なって、じっとしていられなくなるような高揚感が湧き上がってきます。

 

 

デヴィッド・ボウイ David Bowie『Space Oddity』

 そして何といっても、劇中に何度も引用され、またこの映画で最も大事なシーンと言ってもいい“ウォルターが本当の一歩を踏み出す瞬間”に流れる曲──それがデヴィット・ボウイ『Space Oddity』です。

 

 

 グリーンランドの飲み屋?で、探しているカメラマン、ショーン(ショーン・ペン)の行方を知る手がかりとなる大男が乗るヘリコプターに意を決して飛び乗る場面

 

 せっかくここまで来たのに、及び腰になって立ち上がれないウォルターの前に突然、片思いの女性・シェリルがギター片手にステージに現れる。もちろんウォルターのいつもの空想ですが、シェリル(とボウイ)が歌う「トム大佐がカウントダウンとともに宇宙へ飛び立つ歌」の歌詞に駆り立てられるように、離陸寸前のヘリコプターにギリギリ飛び移ったウォルターの「やべぇ、俺本当に乗っちまったよ…」といった表情は実にリアルなものがあります。

 

 その一歩を踏み出すことがどれだけ勇気のいることか、見ている人はみんな分かっています。ですから見ている私たちは、最後はあれこれ考えるのをやめて飛び込んだものの、まだ気持ちが(意を決した自分の)覚悟に追いついてなくて「あぁ~やっちまったよ~!どうしよう~」と焦っているウォルターの心境もすごくよく理解できるんですよね。最初に劇場で見たときもエモーショナルなシーンだとは思いましたが、その後に起きることを知っている2度目の鑑賞時での気持ちの高ぶり・高揚感は相当なものでした。

 

 仕事場に貼られた写真のショーンが指をクイクイして呼んでいるのを感じ、会社を飛び出した場面も確かに最初の一歩ではありますが、本当の勇気と覚悟が試されて、未知の世界に踏み出した瞬間は間違いなくここである──と思っています。

 

 そして重要なのは、このあとに起こる様々な出来事、冒険も、このときの一歩に比べたら全然怖くなかった──ということ。もう車輪は回っているのだから、あとは走るだけ、といった感じでしょうか。

 

 つまり、人が勇気を持って乗り越えなければならないことは、結局のところ、最初の一歩「だけ」なのではないでしょうか。「最初の一度だけ」だからこそ怖いのかもしれませんが、そのジャイアント・ステップを踏み出しさえすれば「その一歩で世界は変わる」のでしょう。自分の場合もいつもそうです。最初はいつもビクビクして頭の中でシミュレーションしてはやっぱりやめて……の繰り返しですが(オープニングでシェリルのアカウントにウインクするだけで何度も思い悩むのもすごくよく分かります。あの行ったり来たりも切ないほどよく分かります)、いざ覚悟して踏み出したことは結局全て「やってよかった」と思えるものばかりでした。

 

 

YouTube動画のコメント

 

 この『The Secret Life of Walter Mitty』で使われている曲や名シーンの動画につけられている英語のコメント(ほとんどが短いものなので自分にも大体は理解できました)が賞賛コメントばかりで、「人生の中でとても大事な映画だ」というものであったり「この映画は私の人生を変えた」といったような言葉が並んでいます。読んでるだけで気分が上がってきますので、興味がある方は上記の原題で検索していろいろ見てみてください。やっぱり自分が出会ったとき、それを見ようと思ったとき=それが自分にとって必要なとき、なんだなとつくづく思います。

 

 

気になるキャストについて

 

© 2013 - Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.

 

クリステン・ウィグ

 ウォルターが好きになる、バツイチ子持ちの同僚シェリル役には、『宇宙人ポール』のヒロイン、ルースを演じたクリステン・ウィグ。今作ではコメディエンヌとしてではなく、正統派でなおかつ(ウォルターの空想の世界では)いろいろやらされる、ちょっと変わったヒロイン役でした。

 「大手メディア勤務」「バツイチ」「自立した女性」といったキーワードが当てはまるようなタイプの映画にありがちな、大袈裟な表現や必要以上に作り込んだキャラにはせず、ナチュラルな一人の女性として映るようにうまく演じていたのではと思いました。

 とにかく『宇宙人ポール』が最高に楽しい映画ですので、まだ見ていない方はそちらも激しくおススメです(笑)。

 

 

パットン・オズワルト

 ウォルターが登録していたサイトの顧客サービス責任者、トッド役のパットン・オズワルトは、シャーリーズ・セロンがイタいアラフォー女を演じた映画『ヤング≒アダルト』で、結構重要な役で出ています。こちらの『ヤング≒アダルト』も音楽が素晴らしく、現代の、とくに都会に暮らすアラフォー世代にとっては色々考えさせられる良作です。

 

映画『ヤング≒アダルト』(ネタバレ)──正しい道を歩みなさい

   シャーリーズ・セロンがイタいアラフォー女を演じた2011年の映画『ヤング≒アダルト』(日本公開は2012 ...

続きを見る

 

最後に

 

 これは『シング・ストリート 未来へのうた』のレビューの中でも書いていることなのですが、ウォルターは今回勇気を出して一歩踏み出したことで、自身の人生を変える様々な経験をしましたが、実は彼は元々その実直な仕事で評価されていた男であり、冒険こそしない人生だったかもしれませんが「世界中を冒険している男」である著名なカメラマン=“本物を見る目を持つ男”から認められていた男だったのでした。

 

 その「たとえどんなに地味なものでも、実直にずっと続けている仕事のスキル」と、「子どもの頃に一生懸命やっていたこと(そしてそれは亡き父との思い出とともに自身の中にちゃんと残っていた)のスキル」の両方が、“人は誰でもこういうことを、時にはやらなければならない”ときに自身の身を助け、未来へと導くことになったのでした。

 

 人生には、自分の力ではどうにもできないこともあるけれども(ここでは『LIFE』誌のデジタル化による失業)、自分次第で変えられることもある──ということをこの映画では教えてくれています。空想じゃない本物の冒険から帰ってきたウォルターはまるで別人のようになっていました。

 

 今まで勇気がなくて踏み出せなかった人、自分には誇れるようなものは何もないと思っている人はたくさんいると思います。でも自分が自分自身を評価していないだけで、本当はきっと何かあるはず。もし地味でちっとも目立たなくても、誰も直接褒めてはくれなくても、何か真面目にやってきたことがあるのなら、それは本当にいざという時に自分を助けてくれる。そして必ずどこかで誰かが見てくれている──そう思いたいですね。

 

 

 っていうかね。。何あの最終号の表紙。全然予想してなかったからちょっと泣いちゃったじゃねーか。

 

映画『シング・ストリート 未来へのうた』【ジョン・カーニー監督:音楽3部作③】──“すべての兄弟たちに捧ぐ”

   『ONCE ダブリンの街角で』『はじまりのうた』のジョン・カーニー監督による音楽3部作(勝手に命名)の第 ...

続きを見る

 

こちらもオススメ

  • 『ONCE ダブリンの街角で』のレビューはこちら
  • 『はじまりのうた』のレビューはこちら
  • 『シング・ストリート 未来へのうた』のレビューはこちら
  • 『ヤング≒アダルト』のレビューはこちら
  • 『Vフォー・ヴェンデッタ』のレビューはこちら
  • 『Smoke スモーク』のレビューはこちら
  • 『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』のレビューはこちら
  • 『かもめ食堂』のレビューはこちら
  • Netflixドラマ『マニアック』第1話~第2話の解説&考察こちら
  • Netflix映画『ROMA/ローマ』のレビューはこちら
  • 『トリコロール 青の愛』のレビューはこちら
  • 『トリコロール 白の愛』のレビューはこちら
  • 『トリコロール 赤の愛』のレビューはこちら
  • 『ビフォア・サンセット』のレビューはこちら
  • 『恋する惑星』のレビューはこちら
  • 『花様年華』のレビューはこちら
  • 『牯嶺街少年殺人事件』のレビューはこちら
  • 『藍色夏恋』のレビューはこちら
  • 『インターステラー』のレビューはこちら

 

 

  • この記事を書いた人

三崎町三丁目通信

三崎町三丁目通信の主筆・Kです(個人運営ですが)。映画の感想を中心に、趣味で続けているスペイン語学習(DELE A2取得で止まっています)と最近始めた英語学習のことなどを書いています。本業はフリーランスのグラフィック&エディトリアルデザイナー。びっくりするくらい将棋が弱いです。

-ENTERTAINMENT
-, , ,

Copyright© 三崎町三丁目通信 , 2019 All Rights Reserved.