【レオス・カラックス】映画『ポーラX』──公開から20年。③「感想、または諸々の曖昧さ」【わが心のイザベル】

Pola X ENTERTAINMENT

 原作・関連書籍も絡めて振り返っていったレビュー前半の第1回目と第2回目に引き続き、レビュー後半はイザベル原理主義者といってもいいくらいのイザベル擁護の立場で映画『ポーラX』の感想を2回にわたって語っていく感想編となります。今回は第3回目です。

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【レオス・カラックス】映画『ポーラX』──公開から20年。②原作・関連書籍も絡めて振り返る【本棚通信⑧】
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 思い入れが強い映画なのでかなり長くなってしまい、説明がくどい部分も多々ありますが、何卒ご容赦ください(笑)。また最後となる第4回目では、主演のふたりのその後についても少しだけ触れています。

 ちなみに記事タイトルにある「または諸々の曖昧さ」というフレーズは、小説『ピエール』の原題『ピエール、または諸々の曖昧さ』からとったものですが、そもそも『Pola X』という映画タイトルは、第1回目でも書きましたがフランス語版の原題である『PIERRE ou les ambiguïtés』の頭文字「Pola」に、謎を表す記号の「X」を加えたものが由来となっています。

 前回はWikipediaにもある情報から「10番目の草稿であることを表す数字“X”を加えた」と書きましたが、映画のパンフや当時のインタビューなどでは「謎を表す記号」として「X」をつけたとなっているので今回はそのソースを元としました。

実はほとんど原作に忠実な映画

 この『ポーラX』という映画は、レビュー前半でも度々書いたようにほとんどが原作通りであり、その元となった小説を現代版/フランス版(※原作はアメリカが舞台)に置き換えた映画といっても差し支えないほど小説の内容に忠実な物語であることを、まずは知っておいていただきたいと思います。

 

 主人公がひたすら内側へ内側へと向かっていき、そして堕ちてゆくという展開、ピエールの未熟さからくる厨二病的な発言や行動、そして内戦から逃れてきた難民という設定や得体の知れない集団の登場など、やや現実離れした印象がある作品なので、良くも悪くも「いかにもレオス・カラックス的な映画だなぁ…」という感想を持たれた方も結構おられるかもしれません。

 ですが実はそういった部分も含めて、びっくりするくらいに小説とシンクロしているのがこの『ポーラX』なのです。どんだけこの小説から影響を受けたのよってくらいにレオス・カラックス映画の世界観と小説『ピエール』はシンクロしています。

 

 では具体的に映画のどのあたりが原作となった小説『ピエール』と同じ(または現代の設定にアレンジしたもの)なのかについてですが、おおよそこんな感じとなっています。

 なおこれはレビューの第1回目にも書いてあるものと同じです。

・郊外の自然に囲まれた場所に暮らす裕福な親子。ひとり息子のピエールは美しい未亡人の母を「姉さん」と呼ぶ

・ピエールにはリュシー(小説では英語名なのでルーシーという金髪・碧眼の美しい婚約者がいて、ふたりは幸せそのものである

ピエールが夢に見るという黒髪の女の存在にルーシーは不安を感じていて、「隠し事はしないで」と強く迫る

・ピエールには歳の近いいとこがおり(映画ではティボー、原作ではグレン)、彼は密かにリュシーを愛している

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イザベルという長い黒髪の女性が現れる

イザベルの独白──不幸な生い立ちと、お金持ちらしい「父親とされる男性」の存在、母の記憶はない。自分はピエールの母違いの姉であり、自身の母はピエールの父親とは結婚しておらず、若くして亡くなった

・ピエールにもそう言われると父親のことや家の中のことで思い当たる点があり、イザベルの言うことを信じる

・ピエールが「恐れの岩」と呼ばれる不思議な形の岩へ行く

リュシーとの婚約を解消し母とも別れを告げ、イザベルを自分の妻ということにして都会に出て一緒に暮らすことにする。またその際にイザベルと共に暮らしていた女も一緒に連れて行く

・ピエールは小説を書いて生計を立ててゆこうとする

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都会でいとこに助けを求めるが、彼はリュシーを傷付け家を出たピエールに罵声を浴びせて門前払いをする

・何かの組織だった集団のアジトに身を落ち着ける。非常に質素な場所でまともな家具もなく、食堂とドア続きでそれぞれの部屋が繋がっている間取りである

・息子の家出で錯乱した母親が亡くなる

・ショックから寝込んでいたリュシーが回復し、ピエールのところへやってくる

・ピエールの元へやってきたリュシーを弟(原作では兄)といとこが連れ戻そうとする。そこへピエールと組織の連中がやってきて二人を引きはがし、リュシーを受け入れる

イザベルはリュシーとピエールの関係に非常にナーバスになる

イザベルをなだめるピエールが彼女にキスをすると、もたれかかったドアが開いて抱き合ったまま二人はリュシーの部屋に入ってしまう

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・ピエール、イザベル、リュシーの3人で波止場へ散歩に出かける

・散歩の途中で見つけた「父親」の姿(写真または絵)への反応から、イザベルが本当に自分の姉なのかが分からなくなってくる

・イザベルがリュシーに「あなたは私の友だちなの?」と詰め寄る。その後イザベルが船から身を投げる(原作では飛び込む寸前に止められる)

・出版社に送った小説が全く受け入れられず、酷評される

いとこからの手紙を受け取り、組織の連中が持っていた拳銃を二梃奪ったピエールはその銃でいとこを殺してしまう

・ピエールの元へイザベルとリュシーが駆けつける。ここでイザベルはリュシーの前で初めて「彼はわたしの弟」と言う

 

 …ほとんどそのまんまじゃないですか。。

 個人的に驚きなのが、あのエキセントリックな設定の謎の集団。カラックス信者だった自分でも、さすがにこれには「なんだよこの連中はw」と苦笑してしまったのですが、小説でピエールたちが身を寄せた先も社会の何かを変えようと目論んでいる謎の組織で、その設定を現代のフランスに置き換えたらああいった集団になった、というのも納得がいくものだったのでした。まぁあの演奏は何なんだという気がしないでもないですが(笑)。

原作となった小説『ピエール』

原作となったメルヴィルの小説『ピエール』のカヴァー。

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