映画『メモリーズ・オブ・サマー』──この思い出のなかに優しさはあるのでしょうか

メモリーズ・オブ・サマー ENTERTAINMENT
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眼鏡の少年とのこと

 友達が夏休みの間ずっと町を離れているため、ひとりで退屈しているピョトレック少年ですが、遊ぶ相手は誰でもいいというわけではないようです。

 遊泳場となっている湖でヒョロ眼鏡の少年が接近してきてもまったく興味ナシ、といった感じでつれない態度を取ってしまいます。ですがその後にその湖で起きた、子どもの溺死事件で「もしかしたら犠牲者はあのときの少年なのでは…」という胸騒ぎに襲われることに…。彼が泳ぎに行く前に言った「僕を見てて」というお願いを無視して逃げたせいなんじゃないか…という後悔と不安が頭をよぎりますが、結局引き上げられた子どもの姿を見ることは出来ませんでした。

 死んでしまったのはあの少年だったのか、それとも違ったのか、については後半明らかになりました。

 出稼ぎから一時的に帰ってきた父と母との3人で出かけた遊園地で、ゴーカートで遊ぶピョトレックはあのときの少年と再会します。お互いにカートをぶつけ合ったりして遊ぶ二人。辛いことばかりだったピョトレックにようやく明るい出来事が──と思った矢先、ピョトレック(と観ている私たち)はどん底に叩き落とされることになります。

 少年の母親は、以前いきなり押し掛けてしばらく居座ったあの女性でした。ピョトレックがこの時点でどこまで理解できていたかは定かではありませんが、映画を見ている私たちはピョトレックの母の不倫相手がその女性の夫(そして眼鏡の少年の父)なのだろうということは察しがつきます。

 もしこの日、あの眼鏡の少年の母親を見ていなかったらピョトレックにとってこの遊園地での一日は「夏の“素晴らしい”思い出」となったのでしょう。

 久しぶりに帰ってきた父と母が以前のように仲良くしていて、親子3人で遊園地で思いっきり遊ぶ。そして一度はすれ違ってしまった新しい友達とも楽しく遊ぶことが出来た一日──だったのに。

 

 どうしてこうも世界はピョトレックに優しくないのだろうか。。

 

映画『メモリーズ・オブ・サマー』

© Opus Film

パンフレットからの引用

 『メモリーズ・オブ・サマー』=「夏の思い出」というタイトルに反して、記憶から消してしまいたくなるような出来事ばかりのピョトレックの夏。

 この『メモリーズ・オブ・サマー』のパンフレットが、何かと情報が少ない今作の、映画を一度観ただけでは分からない情報や物語の背景などを補填できる、なかなか良い内容となっていました。

 

「すべてのポーランド人にとって、アンナ・ヤンタルは、70年代のシンボルです。」

アダム・グジンスキ監督のインタビューより

 

 映画のタイトルはこのアンナ・ヤンタルの曲『町中には、こんなにも太陽が』の歌詞から取られており、実際にこの楽曲は母とピョトレックがダンスをするシーンで使われています。彼女は飛行機の墜落事故により29歳という若さでこの世を去ったポーランドの大スターであった、とのことです。

 また「アダム・グジンスキ監督による撮影前の覚え書き」には、私たちがなかなか気付けない、もしくは知ることができない情報が書かれており、物語の世界をより理解するためにとても役に立ちます。

 例えば、度々登場する湖についてはこう書かれています。

 

【湖】

少年たちの出会いの場。最初は牧歌的な、少年が夢みる夏の冒険の場所。しかし後半にさしかかると、ダークな側面を現す。たとえば、溺死者が発見されるシーン。そして終盤の、主人公がスコヴロンに仕返しをし、マイカを追い返すシーンでは、湖は冷たく、よそよそしい場として立ち現れる。

 

 そして主要キャラクターの衣装について、母ヴィシャについてはこういう解説がされています。

 

【母(ヴィシャ)】

いつも身だしなみに気をつける女性。質素な服を着ているが、いつだってファッショナブルでエレガント。冒頭では、この彼女の慎ましやかさとシンプルさがすぐに目に止まる。地味な色使い、簡素な仕立てのスカートやブラウスや優しいメイク。しかし夜出かけるようになると、彼女の容貌はゆっくりと変わってゆく。髪をおろし、派手なメイクをして、カラフルなドレスを身にまとう。彼女は変容し、輝く。愛人との関係が終焉を迎えると、見た目がまた変わる。じぶんのことに構わなくなる。髪の毛はぼさぼさで着古したガウンを着た彼女は、捨てられて落ち込んでいる印象を与える。父親が帰ってくると、元気を取り戻しつつあるように見える。冒頭と同じ彼女に戻ったみたいだ。だが、夫から贈られたドレスを身につけ、くっきりとしたメイクに違う髪型をした彼女は、最初よりもさらに美しい。あたかも夫との関係をあらためたいと思っているようだ。ラストのシークエンスでは、夏休みが終わる。質素なスカートに、茶色のブラウス、髪はきちんとまとめられている。彼女は、今ではまったく別の人間だ。

 

 なるほど…これは分かりやすい。。

 モノと情報に溢れた環境よりも、限られたものの中でいかに美しくなれるかを考えて実践している女性というのは、いつの時代でもどこの国でもけなげで魅力的なものですね。

 というかこの母ヴィシャを演じているウルシュラ・グラボフスカさんという方、思わず画像検索(アルファベット表記で)してみたんですが(笑)、いやー美人ですね。誰かにすごく似てるなと思ったんですが思い出せず…う~ん。。

 でも向こうではこういった美人は普通に外を歩いててもきっと当たり前のようにごろごろいるのでしょう…。行ってみたいなぁ、ポーランド(笑)。

 

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