1994年に公開された映画『クロウ/飛翔伝説』──
今もなおファンの心を摑んで離さないダークヒーロー映画の傑作である今作は、カルト的人気を博していたコミック『THE CROW』が原作。
強烈なバイオレンス描写にポエティック台詞回しが重なり、美しいコントラストを放つコミックの独特な世界観は、映画のほうにも十分に受け継がれています。
最初にこの『クロウ/飛翔伝説』を見たときから自分の中ではずっと好きな映画の上位に位置する作品でい続けていますが、海外の映画サイトのレビューなどを見ても大変評価が高く、今も変わらず愛されている作品であることが伺えます。
そんな思い入れの強い作品である『クロウ/飛翔伝説』のレビューは、長くなったので2つに分けて書いていくことにしました。
まずは原作が生まれた背景や映画との関連性、そしてこの映画の何がここまで見る人を惹き付けるのかについて、改めて考えていこうと思います。
あらすじ
※今回のあらすじはDVDに付いているブックレットを元にまとめているため、引用の形で表記します。
カラスは死者の魂を冥界へと導く存在と信じられている。だが魂が哀しみのあまり安らぐことができずにいると、悪を正すために死者を蘇らせることもあるという……。
“デヴィルズ・ナイト”と呼ばれるハロウィン前夜になると、きまって破壊と惨劇が繰り返される犯罪都市。
欲望と退廃を清めようとするかのように、今日も冷たい雨が虚しく打ちつけるこの町の片隅で、今、ひとりの犠牲者が深い哀しみの眠りから目覚めた。一年前、悪の帝王トップ・ダラーの一味によって恋人とともに惨殺されたロック・ミュージシャン、エリック・ドレイヴン。
この世と冥界とを結ぶ神秘的なカラスのパワーを得て蘇った彼は、自分と恋人の未来を引き裂いた者たちへの、壮絶な復讐を開始する。それが終わった時、初めて彼は愛する者の魂と永遠にひとつになれるのだ。
愛と魂の不滅を信じて独り聖なる闘いにのぞむエリックの慟哭が闇にこだまする……。
邦題通り「伝説」となった今作
偉大なる父ブルース・リーに、幼少期から武術の手ほどきを受けて育った主演のブランドン・リー。そのキレのあるアクションが今作の見どころのひとつでもあります。
父の遺伝子を受け継いだブランドンに世界中のファンはブルース・リーへの熱い想いを託し、期待していました。そしてブランドン自身にとっても、今作は今後のキャリアを左右するうえで非常に重要な作品となるはずのものでした。
そんな新たな一歩となるべき作品が、ブランドンの遺作となるとは一体誰が予想したでしょうか……。
ブランドンを襲った悲劇
この2年前に主演を務めた映画『ラピッド・ファイアー』で見せたような、父譲りのマーシャル・アーツをベースとしたアクションとは異なるスタイルで「悪党に復讐するため死の世界から蘇ったダークヒーロー」を演じ、今後の活躍がおおいに期待されるはずだったブランドン。
ですが撮影で使用された銃の中に誤って実弾が混ざっており、その誤射により命を落とすこととなってしまいました。
香港映画『ファイヤー・ドラゴン』で初主演したのち、数本の映画を経て『ラピッド・ファイアー』でハリウッドデビューを果たしたブランドン。20世紀フォックスと3本の契約を結び、いよいよハリウッドでの活躍が始まると思われた矢先の事故でした。
父ブルースと共通する因縁
父ブルース・リーも『燃えよドラゴン』の公開前、そして『死亡遊戯』の撮影を残したまま若くして亡くなっており、さらにその映画『死亡遊戯』のなかには、アクション映画のスターである主人公ビリー・ローが劇中映画(『ドラゴン怒りの鉄拳』)のラストで銃撃を浴びるシーンの撮影で、実弾の入った銃で撃たれたことで死亡する(実際には一命をとりとめ、命を狙った組織へ復讐する)という設定がありました。
この親子2代に共通する不幸な因縁は、偶然という言葉では片付けることができない何かを感じさせられます。
また今作の前年に公開されたジェイソン・スコット・リーが主演を務めたブルース・リーの伝記映画『ドラゴン/ブルース・リー物語』でも、リー家は男が早死にする家系であり、ブルースが見る夢の中に後のブランドンの死を暗示させるような描写もあったことが、皮肉にもこの映画を伝説化させた要因となったのでした。
ブランドンを襲ったこの悼ましい事故は、撮影の終盤で起きたものだったため殆どのシーンは撮り終えていたものの、いくつかのシーンには未使用の映像やCGで作られた映像を合成することで映画を完成することが出来たとのこと。
トップ・ダラーとの最後の戦いで、雷光に照らされて教会の屋根の上を歩くエリックの姿などがそれです。
もうひとりの犠牲者
そしてその事故についてですが、ブランドンを撃ったのはファンボーイ役の俳優マイケル・マッシーでした。
もちろんマイケル・マッシー自身には全く責任はありませんが、この出来事は彼に大きなトラウマを与えることとなり、しばらく俳優業から遠ざかることになったそうです。その後復帰してからは様々な映画やドラマに出演しましたが、2016年にがんのため亡くなっています。
たとえ自身には何の過失がなくても、実際に引き金を引いた者として背負った心の傷がどれほどのものであったか、それを考えるといたたまれない気持ちでいっぱいになります。この事故では彼もまた犠牲者であったと言えるのではないでしょうか。
作品として素晴らしい
このように父ブルース・リーの作品とリンクするかのような事故により、ブランドン・リーにとって遺作となってしまったこの『クロウ/飛翔伝説』ですが、そういった映画の内容以外で語られる諸々を抜きにしても、一本の映画として大変素晴らしく、その内容だけで十分評価されてしかるべき作品です。
公開から四半世紀以上が経った今でもダークヒーロー映画の最高傑作に挙げる人はかなり多く、その後も2作の続編映画と連続ドラマが製作され、さらに数年前にはリメイクの噂があったりと、その魅力はいまだ衰えることはありません。
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