三崎町三丁目通信

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【トリコロール三部作】映画『トリコロール 赤の愛』──“博愛”が3つの物語を包む【ROUGE】

投稿日:2019年1月14日

 

 クシシュトフ・キェシロフスキ監督「トリコロール三部作」の最後を飾る物語の主人公に選んだのは、'91年の『ふたりのベロニカ』に続いての起用となったイレーヌ・ジャコブ

 フランス国旗の三色である「青・白・赤」──青は「自由」白は「平等」、そして最後の赤は「博愛」を意味します。それら3つの色とその意味をテーマに作られた「トリコロール三部作」は、この『赤の愛』でどのように完結していくのでしょうか。

 

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 今作『赤の愛』は他の2作よりもやや話しが入り組んでおり、何人かの登場人物に起きる出来事が度々シンクロしていくため、一度見ただけでは話が掴みにくくなっています。そこで、ここでは登場人物の関係や流れについても説明していこうと思います。

 

あらすじ

 スイスのジュネーヴ大学に籍を置くヴァランティーヌ。カフェの上にある部屋で一人暮らしをしており、モデルの仕事をしている。

 彼女には遠距離恋愛中の恋人がいるが、電話をかけてきても自分本位でいつも「男がいるのか?」と疑っている。

 ある日の夜、車で犬を轢いてしまったヴァランティーヌは、犬を連れて首輪に書いてあった飼い主の家へ向かう。だが飼い主である初老の男は冷淡な態度でまともに取り合ってくれない。彼女は自分で動物病院へ連れて行くが、元気になった犬(名前はリタ)はリードを外すと走り去ってしまい、そのまま見失う。

 ある日その男から治療費として現金書留が届く。「額が多すぎる」と再度男の家を訪れた彼女は、そこにリタの姿を見つけ安心するが、男が近隣の人たちの電話を盗聴していることを知り憤慨する。彼は退官した判事だが「法廷よりもここで盗聴するほうが真実が分かる」と、人を信用していないようだった。

 そんな判事であったが、人の善意を信じるヴァランティーヌと出会い、彼女から「哀れな人」と言われたことで自身の行いを反省する。自ら自分の盗聴を告発する手紙を警察と隣人に送り、彼は裁判にかけられることとなる。

 判事の記事を読んだヴァランティーヌは「密告したのは自分ではない」と伝えるために判事の家を訪れ、そこで彼の改心と事の真実を知り、打ち解けてゆく。

 判事のすすめで仕事で向かうイギリスへはフェリーで行くことにするヴァランティーヌ。それを恋人に告げるが、迎えに行くという彼の言葉は「愛」からくるものではないと悟る。

 ヴァランティーヌはイギリス行きの前日に行われるショーの招待状を判事に送る。ショーが終ったのち、人がいなくなった会場でふたりは話し込み、彼女は判事が人を信じられなくなった理由を知る。イギリスから帰ってきたら生まれた子犬をもらう約束をしてふたりは別れる。

 翌日、フェリーに乗り込むヴァランティーヌ。しかし彼女が乗ったフェリーは転覆事故に遭い、数百名の死亡者が出る大惨事となる。テレビのニュースを食い入るように見る判事。そして画面には救出された7名の名前と映像が映し出される──

 

赤の世界

 3作通して見て感じられたのは、描かれているのはどれも主人公たちの心の中にある、非常に個人的な部分での「自由」「平等」「博愛」であり、それぞれの心の物語であるということでした。

 この『赤の愛』も「博愛」の心を持ち、それを信じていながらも、不安や不信といったものの存在がつきまとう女性と、正しい判断を下し真実を明らかにすることを仕事としながらも、人を信じることをやめてしまった男が出会うことでお互いに影響を受け、変わってゆく物語です。

 信じたいと思いながらも不安を抱えるヴァランティーヌは、自身の持つ「こうであってほしい」という希望や「こうに違いない」というフィルター越しに物事を判断するのではなく、表には現れない真実を見ることを学び(恋人の発言や行動が相手を尊重する「愛」からくるものではなく、束縛や嫉妬などの自己中心的なものであることに気付く)、判事もまた過去の辛い出来事から心を閉ざして生きてきたが、無垢な博愛の心を持つヴァランティーヌによって自身の行いを悔い改め、ずっと閉じていた心の扉を開くことができたのでした(長い間閉ざしていたガレージを開き、また車を走らせたように)。

 今作のテーマカラーである「赤」は、過去の2作以上に至るところで登場します。車や家具、店の装飾から着ている服、舞台や撮影セット、運命を占うスロットマシンの絵柄、などなど。そしてやはりここでも「赤」と調和する色として「黒」が並べられています。

 

劇場公開時のチラシ

 

それぞれの関係と、シンクロする行動

 映画の冒頭から登場する犬を連れた青年とその恋人、判事が盗聴している相手や過去に自身に起きた出来事、電話の相手、新聞の記事など、関係してくる要素が多いため分かりづらくて今イチ話に入っていけなかった、という人も多いかもしれません。ですので他の登場人物とふたりの主人公(ヴァランティーヌと判事)との関係を簡単にまとめてみました。

 

オーギュスト

ヴァランティーヌの部屋のすぐ近くに住む法学生赤のジープに乗り、犬を飼っている。(ふたりに面識はなく、お互いの存在を知らない

電話で話しているのは2歳年上ブロンドの恋人・カラン。(判事も法学生時代、2歳年上の恋人がいた

道で参考書を落とし、そのときに開いたページが試験に出る(判事の過去の経験と同じ)

恋人が別の男と寝ている姿を目撃する(判事も同様の過去あり)

ヴァランティーヌと同じフェリーに乗船。失恋のショックで一度は棄てた愛犬も一緒

 

カラン

オーギュストの恋人電話による気象情報サービスをしている。判事の家の近所に住んでいる。(判事の盗聴対象者のひとり

盗聴事件の裁判の場で知り合った男と付き合うようになる。(判事のかつての彼女も同様に浮気をした)

オーギュストがフェリーに乗った日に、新しい恋人とヨットでドーヴァー海峡へクルージングに出る。(判事の恋人を奪った男も裕福な男で、一緒にドーヴァー海峡へ逃げた)

嵐でヨットは遭難し、安否は不明。(判事の恋人も事故で死亡

 

ヴァランティーヌの恋人

いつも自分の都合で電話をかけてきて、彼女がすぐに出ないと機嫌を損ねる。何かにつけ「そこに男がいるのか」と疑う。(判事は人の電話を聞くことで真実を知るが、彼はいくら電話で話してもヴァランティーヌのことを何も知ろうとしない)

 

ヴァランティーヌの弟

16歳。15歳のときに自分が父親と血が繋がっていないことを知り、麻薬に溺れる。

新聞の麻薬に関する記事に写真が載る。

判事はその新聞記事とヴァランティーヌの話と照らし合わせ、彼女の弟の出生の事実と麻薬との関連を推測。

 

判事の隣人一家

男には同性の恋人がいる。献身的で優しい妻は気付いていないが、娘はそのことを知っている

裁判の日、家族で法廷に来ており、娘は判事を哀れむような目で見つめる。

ヴァランティーヌはこの娘の境遇と自身の弟を重ね合わせて悲しむ。

 

新聞の記事

麻薬絡みの記事にヴァランティーヌの弟の写真が載る

判事の盗聴についての記事が載る

フェリー(とヨット)の事故についての記事が載る

 

救出された7名

 フェリーの転覆事故から救出された7名は以下。

フェリーのバーテン、S・キリアン

ジュリー/『青の愛』

オリヴィエ/『青の愛』

カロル/『白の愛』

ドミニク/『白の愛』

ヴァランティーヌ/『赤の愛』

オーギュスト/『赤の愛』

 

 ジュリーはふたたび生死を彷徨う大事故に遭ってしまいましたが、ここでも生還しました。

 そしてカロルとドミニクがここにいることも驚きです。どのようにしてドミニクが釈放されたのかは分かりませんが、ふたりは一緒にイギリスへ渡ろうとしていたことが判明しました。

 また、ニュースで「昨年 他界した作曲家の夫人、ジュリー・ヴィニョン」と言っていたことから、ドミニクが収監されてからそれほど時間が経っていないことが分かります。(ドミニクとカロルの離婚調停の裁判に夫の愛人を探しにきたジュリーの姿があったことで、時系列的には『青の愛』の後半→『白の愛』→『赤の愛』で、尚且つそれらは2年未満の出来事であることが確定)

 

パンフレットより

パンフレットからの引用

 三部作最後を飾る作品の、最後の最後にこのような“それぞれの物語の交差”が仕掛けられていて「なるほど、そうきたか…」と思わされましたが、この辺りについて、パンフレットの解説のまとめ部分が役に立ちそうですので引用して紹介します。

 

引用

解説より

 映画は、このお話の結末をつけるばかりでなく、3部作の幕を引くラストに至ります。ここに至って初めて、キェシロフスキがどんな想いで3つの話を成立させたのか、が明らかになるのです。パリ、ワルシャワ、ジュネーヴで、3つの愛のかたちを紡いだ人たちが一堂に会したとき、彼のヨーロッパの現代に対する把握が見えてきます。“どんなに現実が映像に映り込もうとも、私は人間の心の現実を描きたいだけで、意図はない”と、キェシロフスキはいいきりました。しかし、その言葉とはうらはらに、この3部作を見ていくと、ヨーロッパの現実が浮き上がってくる。このラストは彼の願いの現れといえます。愛は絶対に死ぬことはないのです。

 

最後に

 主人公たち以外に、それぞれの映画に共通して登場した人がいます。(といってもこの『赤の愛』では別の国、別の街なので同一人物ではないようですが)

 そう、大きなゴミ箱に瓶を入れようとする腰の曲がった老婆です。『青の愛』のジュリーはぼんやりと老婆を眺め、『白の愛』のカロルは、なかなか瓶を入れられない老婆を嘲笑するように見つめていました。

 そしてこの「博愛」がテーマの『赤の愛』のヴァランティーヌは、老婆の元へ駆け寄り手助けするのでした。この前2作の流れがあったあとのヴァランティーヌの行いに、暖かい気持ちになれた方も多いのではないでしょうか。

 ですがひとつだけ悲しい点がありました。失恋のショックで一度は棄てられたオーギュストの愛犬が、大切そうに抱きかかえられてフェリーに乗り込む姿が映し出されていました。7名が救出されたときのニュース映像に、その愛犬は映っていません。

 結局どうなったかは不明のまま映画は終りますが、オーギュストとともに助けられたという情報がどこかにあったらよかったのにな…と思いました。

 

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三崎町三丁目通信の主筆・Kです(個人運営ですが)。映画の感想を中心に、趣味で続けているスペイン語学習(DELE A2取得で止まっています)と最近始めた英語学習のことなどを書いています。本業はフリーランスのグラフィック&エディトリアルデザイナー。びっくりするくらい将棋が弱いです。

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