【トリコロール三部作】映画『トリコロール 赤の愛』──“博愛”が3つの物語を包む【ROUGE】

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 クシシュトフ・キェシロフスキ監督「トリコロール三部作」の最後を飾る物語の主人公に選んだのは、’91年の『ふたりのベロニカ』に続いての起用となったイレーヌ・ジャコブ

 フランス国旗の三色である「青・白・赤」──青は「自由」白は「平等」、そして最後の赤は「博愛」を意味します。それら3つの色とその意味をテーマに作られた「トリコロール三部作」は、この『赤の愛』でどのように完結していくのでしょうか。

 

【トリコロール三部作】映画『トリコロール 青の愛』──辿り着いた“自由”とは「解放と再生」か【BLEU】
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 今作『赤の愛』は他の2作よりもやや話しが入り組んでおり、何人かの登場人物に起きる出来事が度々シンクロしていくため、一度見ただけでは話が掴みにくくなっています。そこで、ここでは登場人物の関係や流れについても説明していこうと思います。

 

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あらすじ

 スイスのジュネーヴ大学に籍を置くヴァランティーヌ。カフェの上にある部屋で一人暮らしをしており、モデルの仕事をしている。

 彼女には遠距離恋愛中の恋人がいるが、電話をかけてきても自分本位でいつも「男がいるのか?」と疑っている。

 ある日の夜、車で犬を轢いてしまったヴァランティーヌは、犬を連れて首輪に書いてあった飼い主の家へ向かう。だが飼い主である初老の男は冷淡な態度でまともに取り合ってくれない。彼女は自分で動物病院へ連れて行くが、元気になった犬(名前はリタ)はリードを外すと走り去ってしまい、そのまま見失う。

 ある日その男から治療費として現金書留が届く。「額が多すぎる」と再度男の家を訪れた彼女は、そこにリタの姿を見つけ安心するが、男が近隣の人たちの電話を盗聴していることを知り憤慨する。彼は退官した判事だが「法廷よりもここで盗聴するほうが真実が分かる」と、人を信用していないようだった。

 そんな判事であったが、人の善意を信じるヴァランティーヌと出会い、彼女から「哀れな人」と言われたことで自身の行いを反省する。自ら自分の盗聴を告発する手紙を警察と隣人に送り、彼は裁判にかけられることとなる。

 判事の記事を読んだヴァランティーヌは「密告したのは自分ではない」と伝えるために判事の家を訪れ、そこで彼の改心と事の真実を知り、打ち解けてゆく。

 判事のすすめで仕事で向かうイギリスへはフェリーで行くことにするヴァランティーヌ。それを恋人に告げるが、迎えに行くという彼の言葉は「愛」からくるものではないと悟る。

 ヴァランティーヌはイギリス行きの前日に行われるショーの招待状を判事に送る。ショーが終ったのち、人がいなくなった会場でふたりは話し込み、彼女は判事が人を信じられなくなった理由を知る。イギリスから帰ってきたら生まれた子犬をもらう約束をしてふたりは別れる。

 翌日、フェリーに乗り込むヴァランティーヌ。しかし彼女が乗ったフェリーは転覆事故に遭い、数百名の死亡者が出る大惨事となる。テレビのニュースを食い入るように見る判事。そして画面には救出された7名の名前と映像が映し出される──

 

 

赤の世界

 3作通して見て感じられたのは、描かれているのはどれも主人公たちの心の中にある、非常に個人的な部分での「自由」「平等」「博愛」であり、それぞれの心の物語であるということでした。

 この『赤の愛』も「博愛」の心を持ち、それを信じていながらも、不安や不信といったものの存在がつきまとう女性と、正しい判断を下し真実を明らかにすることを仕事としながらも、人を信じることをやめてしまった男が出会うことでお互いに影響を受け、変わってゆく物語です。

 信じたいと思いながらも不安を抱えるヴァランティーヌは、自身の持つ「こうであってほしい」という希望や「こうに違いない」というフィルター越しに物事を判断するのではなく、表には現れない真実を見ることを学び(恋人の発言や行動が相手を尊重する「愛」からくるものではなく、束縛や嫉妬などの自己中心的なものであることに気付く)、判事もまた過去の辛い出来事から心を閉ざして生きてきたが、無垢な博愛の心を持つヴァランティーヌによって自身の行いを悔い改め、ずっと閉じていた心の扉を開くことができたのでした(長い間閉ざしていたガレージを開き、また車を走らせたように)。

 今作のテーマカラーである「赤」は、過去の2作以上に至るところで登場します。車や家具、店の装飾から着ている服、舞台や撮影セット、運命を占うスロットマシンの絵柄、などなど。そしてやはりここでも「赤」と調和する色として「黒」が並べられています。

 

劇場公開時のチラシ

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