【鶏と卵と蛇】映画『プリデスティネーション』──誰が創ったのか【禁断の永久機関】

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“性転換”に関してのミスリード

 バーテンダーに身の上話を語る男が「元々はジェーンという名前の女性」だったことを最初に告げていました。

 そこからジェーンの生い立ち、そして現在まで──と、かなり時間を割いて描写されてゆくのですが、見ている側である私たち(自分だけかもしれませんが…)はついつい「いわゆる性同一性障害だったのかな」というミスリードをしてしまいます。

 ところがジェーンが出産するまでの彼女の人生を見ていると、どこにもそういった兆候は見られないしそもそも美人で魅力的な容姿をしているので、理由を知るまでなぜジェーンが男になったのか、全く分かりませんでした。

 っていうかこれは先に引用した番組情報のあらすじにあった

 

彼はもともと女性として生まれたが性別違和から男性に性転換し

 

 という一文にそもそもの原因があるわけですが、とにかく想像していたものとは全てがまるで違っていました。

 天涯孤独の身で生きてきて、生まれて初めて人を愛して子を授かるも父親の男が突然自分の前から消え、孤独のなかで出産。そして目が覚めたら突然性転換しなければいけないと言われ、さらには赤ちゃんまで奪われるというあまりにも辛い出来事ばかりが身に振りかかるジェーン。

 ジェーンのそんな波乱の人生は、実は全て自分一人の手によって創り出されたものでした。そしてそれを成立させるため、ジェーンは「男女両方の機能を体内に有する」という身体的特徴を持つ“女性”である、という設定が必要だったのでしょうね。

・タイムマシンが存在する

・主人公は男女両方の生殖機能を有する

 タイムマシンありきなのは当然のことながら、ジェーンが男性・ジョンになったのが単なる性転換によるものとは違って、男性としての生殖機能(つまり「種」)が有ることも絶対条件です。

 ジョンとバーテンダーが出会ったのがジョンが自分の身体にその機能が備わったことを知った翌日というのも実に出来過ぎていて恐ろしいものがありますね…。

 っていうかタイムマシンが発明される時代に、そんなに都合よく男女両方の生殖機能を有する人間が出現するっていうことが確率的にありえないのでは…と言ってしまうと身も蓋もなくなってしまいますが。。

 あ、でも「予定説」ですもんね。。。

バーテンダーの最後の選択は輪廻の輪を断ち切ることになったのか

 「不完全な爆弾魔(フィズル・ボマー)」(=未来の自分)と対峙したとき、爆弾魔はバーテンダーに

 

「俺を殺せば、お前が俺になる」

 

 と言ってバーテンダーを説得しますが、バーテンダーはその言葉を無視して爆弾魔を撃ち殺してしまいます。

 そしてエンディングで流れる(ジョンに向けてバーテンダーが録音した)テープのメッセージで、バーテンダーは最後にこう言っていました。

 

「お前がひどく恋しい」

 

 「お前」とは自分の仕事を引き継いだジョンのことであり、ジョンの仕事は時空警察として爆弾魔を追うことです。(ただし捕まえるのが目的ではない)

 

 バーテンダーが「恋しい」と思う相手・ジョンの仕事は、爆弾魔を追うこと。

 

 バーテンダーの望み通り、ふたりが会うためにバーテンダーは何をすればよいでしょうか。

 もしくは、バーテンダーは何になればよいでしょうか。

 自分が何になり、何をすればジョンと再び会うことが出来るのでしょうか。

 

 バーテンダーがジョンのことを恋しく思う気持ちがある以上、どの場所を切り取って別の未来の可能性を考えようとしてみても、この輪廻の輪は変えられない──という結果に結びつくのでしょうね。

誰が創ったのか

 ジェーン/ジョン/バーテンダー/フィズル・ボマーという、この輪廻の輪の無限ループを作ったのは誰なのか、という疑問について考えてみたくなりますが、おそらく100%正しいと言える答えはないのでしょう。だからこそのパラドックスなのだろうと思います。

 このループが出来あがったら、このループに入ってしまったら、登場人物は皆このループの流れに沿った行動・発言のみをすることになるのでしょう。例外は存在しませんし、起源というものもありません。起源というものがあった時点でそれはループではなくなるしパラドックスに穴が空くのだろうと思います。

 ジェーン/ジョン/バーテンダー(そしてフィズル・ボマー)以外の登場人物で彼らの人生に関わってくるのはロバートソンだけですが、彼がどこまでジェーン/ジョン/バーテンダーの生涯に関わってきたのかは不明です。

 ですが彼らが皆同じ人物であること、さらに爆弾魔がジョン/バーテンダーであることもロバートソンは知っているようです。

 バーテンダーに精神病と認知症の兆候が出ていることも知っていますし、最後の任務を終えて1975年に飛ぶバーテンダーに爆弾魔の居場所のヒントとなる資料を渡しているのも「任務を終えた」バーテンダーに爆弾魔のところへ向かわせようとしているようにしか考えられません。それに「爆弾魔を捕まえたり殺したりするのが目的ではない」というのがそもそも不自然です。

 そうなるとバーテンダーのタイムマシンがエラーを起こして起動可能になっているのも、本当は「エラー」ではないのでしょうね。

 もちろん、こんな恐ろしい計画(というかこれは人体実験といっていいのでは…)を組織の幹部クラス(?)レベルの男ひとりによるものだとは思えませんが、だからといってこの計画を行い、ジェーン/ジョン/バーテンダーという存在を生み出すことから一体何を得ようとしているのかも謎といえば謎なんですよね。

心理学のはなし

 ところでこれは完全に余談ですが、ジェーンとジョンが出会った日に屋外のテーブル席でコーヒーを飲みながら話をするシーンの最後で、ふたりが共に魅かれ合っていることを示す描写がありました。(このシーンはバーテンダーが赤ちゃんがいる病院でロバートソンと会話する場面に挟み込まれる)

 ジョンがさらに話を進めようと、組んだ手をテーブルの上に乗せてやや前屈みになり、それに合わせるようにジェーンも椅子の座面の横部分を両手で持って、軽く座り直すようなしぐさをしながら正面のジョンのほうを向き直す──という場面です。

 心理学によると、このようにテーブルを挟んでお互い椅子に座って話している場合、男性が相手の女性に近付くように「身を乗り出して話を聞こうとするしぐさ」は好意を持っていることの表れなのだそうです。さらにテーブルの上にある障害物をどけて手をテーブルの上に広げて身を乗り出すのは「物理的にも心理的にも距離を縮めたいと思っている」のだそう。

 そりゃそうだろw というツッコミが出てきそうですが、もちろん誰が見ても男の心理状態が分かるくらい露骨に身を乗り出すような状況じゃなくて、もっとさりげない動きで読み取る、ということです(笑)。

 また女性の場合も、好意を抱いている相手に対しては「膝が相手の方に向いている」ものなのだそうです。これは正面に座ってふたりだけで話をしている場合は判断がつきにくいと思われますが、例えば 何人もの人と一緒に会話をしているようなシチュエーションで、話をしている男性から少し離れた場所に座っている女性が膝をその男性に向けていたら、それはその男性の話を聞きたいという気持ちの表れなのだとか。

 こういった好意を表す仕草や行動のほか、逆に相手が自分に興味を持っていない場合やよい印象を持っていないときにする仕草・行動なども心理学の本を読むといろいろ出ていて面白いので、興味がある方は調べてみてはいかがでしょうか。映画と関係ありませんけど(笑)。

 

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