【映画の話というよりは】映画『デイブレイカー』──それは1匹のコウモリから始まった【そっち系の話題がメイン】

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 今作『デイブレイカー』は、前回取り上げた『プリデスティネーション』と同様、オーストラリアの双子の監督マイケル・スピエリッグ&ピーター・スピエリッグが主演にイーサン・ホークを迎えて作った2010年の作品。『プリデスティネーション』は今作の4年後に公開されています。

 

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 『プリデスティネーション』ではタイムトラベルが作り出したひとりの人間の信じられない生涯を描いた作品でしたが、今作は「ヴァンパイアもの」というジャンルを借りた、現代社会が抱えている問題と闇を描いたディストピア系の映画。

 

私たちが暮らすこの世界の陰に存在する、人ならぬ者たち。
種族の生き残りをかけて、または侵略のために、彼ら異種族は人間界への攻撃を始める──

 

 といった通常の図式を反転させ、社会を築いている側に抵抗する少数の異種族のほうが人間、という設定は『猿の惑星』などでも見られるものですが、この『デイブレイカー』もそれらと同様の「逆設定もの」(勝手に命名)の作品のひとつかと。

あるウイルスによって変わってしまった世界

 元々は普通の人間社会であったのが、1匹のコウモリから蔓延したとされるウィルス(?)によってほとんどの人間がヴァンパイア化してしまった近未来の世界(といっても2019年なのでもう現実世界が追い越しましたが)が舞台となっています。

 かつての人間社会がそのままヴァンパイア仕様に取って代わられており、法律やインフラ、食生活なども人間のために作られたものからヴァンパイアが生存していくためのものに作り替えられています。

 ヴァンパイアと人間の関係が「捕食する側とされる側」であるという設定はこれまでのヴァンパイアものの映画やドラマなどと変わりはなく、ヴァンパイアは人間の血を飲まなければ飢えてしまうことや、血を吸われた人間はヴァンパイアになってしまうという設定も踏襲されています。

 そうなるとおのずと人間の数は減り、反対にヴァンパイアの数は増えていく、ということになります。そうなると当然問題となってくるのが(ヴァンパイア社会での)食料問題。

 この世界での人類の生息率(「生息」という表現を用いている時点で動物扱いですね)は5%を切っているそうなので、もはや食料危機は待ったなしのところまで来ていることがわかります。

 ヴァンパイアは病気で死ぬこともなく、また年を取ることもないようなので外的要因(武器などで殺されたり日光に曝されたり)以外で死ぬことはないそうですが、人間の血を長い期間飲まずにいた場合は大きな問題が発生するようです。

 論理・感情・言語能力が著しく低下し、さらには共食い=ヴァンパイアの血を飲む(自分の血も含む)ことにより、おぞましい姿の“サブサイダー”と呼ばれる凶暴な化け物に「退化」していくことになります。

 ヴァンパイアたちにとっての食料危機──つまり人間の圧倒的不足という問題は、同時にこの“サブサイダー”の急激な増加にも繋がるわけで、今すぐに手を打たなければヴァンパイア社会はまもなく崩壊してしまうことでしょう。

 そしてもしも人間が絶滅すれば世界はヴァンパイアからサブサイダーの世界となり、その文明なき獣の世界には未来などあるはずもありません。

 テレビでは「もっと人間を捕まえて飼育場へ」といった激しい議論が繰り広げられていますが、主人公のエドワード(イーサン・ホーク)が勤めるアメリカの製薬会社などではこの問題の解決策として「代用血液」の開発が急ピッチで進められてもいます。ただしこの代用血液の開発は現時点では成功しておらず、すでにドイツでは失敗に終わっているとのこと。(オープニングの新聞記事より)

 爆発的に増えたヴァンパイアたちが生存していくためには、その増えた数に見合うだけの人間が必要になりますが、人間を殺したら当然人間の数は減り、人間を殺さずにその血を直接吸ったとしても吸われた人間はヴァンパイアになってしまうので、人間の数がヴァンパイアの生存に十分な量に達することはもうないと思われます。

 さらに先にも書いたように基本的にヴァンパイアは不死の存在であり、人間からヴァンパイアとなって数が増えることはあっても(殺さないかぎり死なないので)減ることはほとんどないので、この問題の深刻さは尋常ではありません。ヴァンパイアの世界となってまだ10年も経っていないにも関わらず……。

 それに対し人間は捕食される側としてヴァンパイアから隠れて生きるしかないので、まともな社会生活など送れるはずもありません。当然子どもを生んで育てるという安全な環境も作れませんから人口を増やすことはまず無理でしょう。

 

急激に増え続けるヴァンパイアと、急激に減り続ける人間──

 

人間牧場

 ヴァンパイアの社会では食料となる人間を「飼育」して量産させるか、代用血液という「それに替わるもの」を開発してこの危機を乗り切るかの2択が迫られていて、どちらかが成功しなければ彼らの社会は終わりを迎える──というのがこの映画の世界です。

 エドワードが出社するときに背後に見える「CAPTURE HUMANS」の看板に描かれたイラストは、ジェームズ・モンゴメリー・フラッグによる第一次世界大戦時の有名なプロパガンダ・ポスター「I WANT YOU DOR U.S.ARMY」が元ネタとなっていますが、まさに彼らにとって今は有事であることを表しています。

 

 

元ネタがこちら

 

 エドワードが勤務する会社には、映画『マトリックス』のマシン・シティで培養されているのにも似た状態で「管理」された人間たちがずらっと並んでいました。

 死なないように管理され、身体には管を通されて血液を抜かれている、身動きできず意識があるのかどうかもわからない人間が固定されているその姿は、実際に私たち人間が行っていることと変わりがないのではないか──そう思えてきます。

 人間の食料になるためだけに生まれ、横になるスペースどころか身体の向きを変えることすらできないような劣悪な環境で飼育され、まともな換気も糞尿の始末も行われないような場所で病気にかからないよう薬漬けにされ、そして最後は殺されて食肉とされる畜産動物たちの姿は、まさにこのエドワードの会社で管理されている人間そのものではないでしょうか。

 乳牛についても同様です。なぜあの乳牛たちは年中乳を出すことができるのか? 考えればわかるはず。そして乳が出なくなった雌牛はどうなるか、乳の出ない雄が生まれたらどうなるか、これもちゃんと考えれば分かることです。無理やり妊娠させられ続けている乳牛に自然な形での妊娠なんてありませんから、雄牛がどこへ向かうのかは言わずもがなです。勇気と覚悟がある方はぜひ調べてみてください。

 私たちはそういう動物たちの肉や乳製品を食べているのです。安い肉はなぜ安いのでしょうね。

 エドワードが勤務する製薬会社のCEO・チャールズをはじめ、社会の上層部に属するヴァンパイアたちは純粋に「食料危機」という観点から代用血液の開発を急がせていますが、エドワードは「人間の血を飲む」という行為に抵抗を感じていて、自らも長いこと人間の血を飲まずに生活し彼らとは別の目的で代用血液の開発に向けて努力しています。

 「食料問題」について取り組む人たちのスタンスに違いがあることは実際の私たちの社会と同様ですが、それと同時に倫理的な観点から「人間の血を飲まない」という選択を取っているエドワードが身体に異変をきたしてしまっているところもまた現実世界が投影されていて、この問題の難しさを改めて象徴しているように思えました。

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