三崎町三丁目通信

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【トリコロール三部作】映画『トリコロール 青の愛』──辿り着いた“自由”とは「解放と再生」か【BLEU】

投稿日:2019年1月14日

 

人が自由であることは可能か?

彼らは本当に平等を欲しているか?

そして博愛の精神を持っているか?

さらに言えば、私は“三つの物語”にも興味がある……。

 

 クシシュトフ・キェシロフスキ

 (パンフレットより)

 

 ポーランドクシシュトフ・キェシロフスキ監督が『ふたりのベロニカ』の次に(そして最後に)撮ったのは、フランス国旗の三色である「青・白・赤」と、それぞれの色が意味する「自由・平等・博愛」をテーマにした「トリコロール三部作」と呼ばれる3本の映画。

 その第一弾がこのジュリエット・ビノシュ主演の『トリコロール 青の愛』です。

 

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あらすじ

 交通事故により、愛する夫と娘を一度に失い、自分だけが生き残ってしまったことに絶望するジュリーは、家族と暮らした邸宅を離れパリのアパートで世捨て人のように暮らしている。

 一度は自ら死ぬことも選んだ彼女は、その絶望から解放されるべく、家族を思い出すものは青いガラスのモビール以外すべて手放し、人との関係も断つが閉ざした心が開くことはなかった。

 そんな生活が続くなか、かつて手放したものや人たちと今一度向き合うこととなり、それらの「放棄したもの」や「関係を断った人」を受け入れることで、逆にジュリーは絶望から解放され、再生していく。

 愛する者を突然失い、居場所を無くしただ彷徨うだけ──

 どこへも行けず、苦しさが留まるだけだったジュリーの閉ざされた心の「解放と再生」。そしてようやく辿り着き、手にしたのは“行き場のない愛の苦しみ”からの「自由」だった──

 

青の世界

 レオス・カラックス「アレックス三部作」の真ん中にあたる『汚れた血』は、夜の闇のなかに浮かび上がる原色の鮮やかな色彩とジュリエット・ビノシュの美しさが非常に印象的でしたが(『汚れた血』のもうひとりのヒロインは『トリコロール 白の愛』のジュリー・デルピー)、今作での彼女の世界は「青」に包まれています。美しく気高いが、他との交わりを拒絶するような強い色。映画の中でこの「青」に最も近づき馴染んでいるのは「黒」でした。これは続く『白の愛』『赤の愛』でも同じことが言えます。

 『白の愛』では色彩自体が極端に少なく、冬のポーランドの街もモノトーンのように見えます。そして葬儀での「黒」と、夜の闇。白と黒とはどちらも無彩色であり、対極であり、同等(平等)です。

 『赤の愛』は最初から最後まで、これでもかというくらいに「赤」が画面に登場し、そしてやはりここでも「赤」と「黒」の組み合わせは非常に美しいものとなっています。

 ポスタービジュアルやパンフレットもそうでしたが、色の組み合わせとして「青・白・赤」の3色全てに調和(邪魔せず、そして負けない)できる配色は黒以外にありません。

 

劇場公開時のチラシ

共演者、そして次作とのクロスオーバー

 ジュリーが暮らすアパートに住む娼婦・リュシールを演じていたのは、今作の前年である’92年のエリック・ロメール監督による「四季の物語」シリーズの2作目『冬物語』で主人公フェリシーを演じたシャルロット・ヴェリー。くりっとした大きな瞳が特徴の、個人的にかなり好みの顔の女優さんで、このときすでに三十路を過ぎているとは思えない可愛い顔をしています。これを書いてしまうと違う印象を持たれてしまいそうですが(笑)、『ターミネーター』(1作目)の頃のリンダ・ハミルトンにちょっと似ている気がしないでもない…ような。しつこいですが1作目の、です。

 

 またこの「トリコロール三部作」では、他の作品の主人公がちらっと登場し、物語に一瞬だけ入ってくるという仕掛けがされています。

 『青の愛』では、裁判所のシーンで次作『白の愛』の主人公ドミニク(ジュリー・デルピー)が、自身の離婚裁判をしている場面で登場します。もうひとりの主人公カロルは後ろ姿だけの登場。

 さらに名前が与えられている役ではありませんが、ジュリーがぼんやりと眺めている腰の曲がった老婆も『白の愛』に登場しています。また同一人物ではありませんが、同じ行動を取る腰の曲がった老婆は『赤の愛』にも登場します。

 

歳を取ったからこそ解ること

 この映画を観た当時はまだ20代前半でしたので、正直言ってほとんどピンときませんでした。レオス・カラックスの映画にハマったことでジュリエット・ビノシュもジュリー・デルピーも好きだった(ジュリエット・ビノシュは『汚れた血』よりも『ポンヌフの恋人』のほうが良かったです)自分としては「これは行くしかない」と思わせる映画だったのですが、いざ見てみると『白の愛』のほうは難しく感じることはなかったものの、こちらの『青の愛』は人生経験もまだ浅い当時の自分にとっては、物語のテーマもろくに感じ取れていなかったように思います。

 たとえ愛する者と失って絶望しても、思い出の物をすべて手放すことは自分はしないだろうというのは今も変わりませんが、なぜジュリーがそうしたのかを今では理解できます。でも当時はまるで分かっていませんでした。。

 ジュリーがぴしゃりと言い放つ(そしてその後に画面がブラックアウトする)幾つかの「ノン」は、今見ても「えっ、そうなの…」と一瞬驚くものの、まだ「そうか…彼女にとってはそういう選択になるのか…」と考えることが出来るのですが、当時はただ「???」といった感じでした。

 そして「すべてを手放したけど、それでもどうにもならない心の痛み」は、逆にそれらを受け入れることで現実と向き合うことができ、苦しみに縛られていた心が自由を得ることになった──というジュリーの変化については、何故そうなるのか、おそらく全く理解できていなかったのだろうと思われます。。

 若いときに見た映画や読んだ本を、それなりの年月を経てあらためて見直すことで自身の変化や成長を知る、というのも悪いことではありませんね。

 

パンフレットからの引用

 この「トリコロール三部作」のパンフレットは3作統一のものなのですが、ここに載っているインタビューやレビューには、映画の世界を読み解くのに非常に役に立つものが数多くありました。

 その中から『青の愛』に関する部分で秀逸なものを一部引用して紹介します。

 

引用1

ジュリエット・ビノシュへのインタビューより

(佐藤友紀氏)

 

──ジュリーという役は、あなたの最も近い友人の境遇に似ているけど、そういう役を演じるのは辛くはなかった?

「友人がそれをイヤがったら別だけど、彼女はむしろ無言のうちに私を励ましてくれたのよ。もちろん、ああいう辛い出来事が起こると本人が一番辛いんだけど、ちょっと時がたてば、周りの人間も辛いんだと気づく。時間というのは本当に偉大よね。たとえば映画の中で、最初ジュリーはほとんど喋らないでしょ。それは自分が沈黙を守ることで傷口を何とかふさごうとしているからなの。でも、と同時に激しい凶暴なエモーションも身体の内側から涌き起こってくる。だって、愛する人たちを突然もぎ取られることほど暴力的なものはないじゃない。それに対抗するためには、自分も怒らなきゃ、とても耐えきれない。ジュリーが家を出たり、夫の愛人にあげちゃったり、外界との関係を閉ざしたりするのは、すべてそこに起因しているのよ」

──でも、外界との関係を断ったままでは人間は立ち直れませんよね。

「そう! この映画が言いたいのはそこだと思う。人って、どん底までもがいた時にもはい上がってくるのは自分の力だけれども、どこかの段階で必ず他の人間の手を必要とする。それを認められるのも、また一歩強くなるってことなんだと思うわ」

 

 うぅむ…。良いインタビューの見本みたいな素晴らしいやり取りですね。自分もそうですが、人に頼るのが下手な人間にとって、このビノシュの回答は響くものがあります。

 

引用2

『トリコロール』にきくプレイスネルの三つの世界

(音楽評論家:黒田恭一氏)

※プレイスネルとはこの三部作で音楽を担当しているズビグニェフ・プレイスネルのこと

 

 それだけに、その欧州統合祭のための音楽がまた、まことにそれらしくできあがっている。作曲家としてのプレイスネルの巧みな技に驚嘆せざるをえない。しかし、そこで驚くのは、まだはやい。

 オリヴィエの補筆した部分をジュリーがきかされる場面に注目したい。オリヴィエの書いた音楽は、いかにも華やかではあるが、徒に大仰で、しかも底が浅く、その部分までの音楽と較べるまでもなく、音楽としての品格に大きなへだたりがある。そのことが、とりもなおさず、オリヴィエの作曲家としての才能が二流のものでしかないことを如実にものがたっている。そのことをききとらないことには、たぶん、最後の場面でのジュリーの涙の真の意味もあきらかにならない。なんとも巧妙な映像と音楽との呼応というべきである。

 

 こちらは「音楽」にスポットを当てた3作通しての解説ですが、やはりその道の専門家が見る視点や、専門家だから気付くことなどについての解説は読んでいて面白いです。

 

パンフレットより

 

最後に

 先ほどのビノシュのインタビューですが、この映画とは関係ないものの冒頭の一節が興味深かったのでこちらも引用して紹介します。

 フランス語で撮られた映画にもかかわらず、『青の愛』のジュリエット・ビノシュの演技は『ピアノ・レッスン』のホリー・ハンターなどと並んで、今年のゴールデン・グローブ賞主演女優賞候補となった。その式場で、オスカー・レース常連の美人女優から「徹底的に無視されちゃったわ」と笑うジュリエット。彼女の存在を、ハリウッドの女優たちも脅威に思い始めての“シカト”かもしれない。

 この当時はジュリエット・ビノシュがその後アメリカでここまで成功するとは全く思いませんでしたが、今ではすっかり実力派のベテラン女優といった立ち位置になっていますね。はてさて、徹底的にシカトした美人女優とは誰なのでしょうか(笑)。

 あとそういえば、ジュリーが世捨て人のように過ごすことになるアパートが、そんな生活を送る人の部屋とは思えないくらいに素敵だったのも「さすがおフランス」といった感じで良かったです。

 

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三崎町三丁目通信の主筆・Kです(個人運営ですが)。映画の感想を中心に、趣味で続けているスペイン語学習(DELE A2取得で止まっています)と最近始めた英語学習のことなどを書いています。本業はフリーランスのグラフィック&エディトリアルデザイナー。びっくりするくらい将棋が弱いです。

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