映画『はじまりのうた』【ジョン・カーニー監督:音楽3部作②】──見たあと、なにかはじめたくなる。

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愛すべきバンドメンバー

 スティーブ以外、ストーリーに深く食い込んでくることはないものの、“街角レコーディング”に参加するミュージシャンたちが、これまたいい味を出してるんですよね。スティーブ役のジェームズ・コーデンは、あのポール・ボッツの人生を描いた『ワン チャンス』でボッツ役を演じている人です。なるほど、どうりで漂ういい奴感(笑)。

 

 『ワン チャンス』はどこまでが実話なのか分かりませんが、彼女の存在がとっても良かったです。偉いっていうか何というか、お似合いのカップルでほっこりします。

 

 そしてリズム隊はやはり腕の立つ本物を──ということで、かつてダンが見出した「世界中にtwitterのフォロワーがいる」らしいヒップホップ界のスター、トラブルガムを頼ってスゴ腕を調達。

 

 ここでも見ていて気持ちがいいのは、スターになった今でもトラブルガムはダンへの恩を忘れておらず、たとえ今は落ちぶれていても彼はリスペクトされるべきだと本気で思っているところです。ベースとドラムへのギャラも彼が払うことにしますが、そんなの当然だと言い切ります。

 

 ちなみにだいたいの男は基本的にこういう話が大好きです(たぶん)。

 

 バレエ教室の演奏(バイト?)中に誘いを受けて即決して出ていくピアニストのザックもノリが良くて面白いし、あとは何といってもヴァイオリンとチェロの姉弟がいいです。どっちも垢抜けてないんだけど(とくに弟マルコムの、“夏のおじさん”風の半ズボンに普通の靴下っていう組み合わせときたら…)、よく見ると美男美女(とくに姉のレイチェルはいい女だと思うw ちなみに結構な割合の男はこういう女が大好きです。たぶん)で、屋上で妙にノリノリになってるマルコムや、レコーディングが終わったあとのパーティでハジけちゃってるレイチェルがやたら可愛く見えます(笑)。

 

魔法を信じ続けるかい?

 この“街角レコーディング”のシーンはどれもこれもすごく素敵なのですが、とりわけ屋上でのセッションは曲の良さも相まって(同じ言葉を何度も使い回して恐縮ですが)素晴らしいの一言に尽きます。バイオレットが弾くギター、もう最高っす。巧いか下手かとか、そんなこっちゃねーんだよ!っていう、ロックの初期衝動とは何ぞやーっ!っていうものを凝縮したようなあのアウトロ…。あぁもう最高。お向かいに住む男性からの罵声すらも心地よく聞こえてきますw

 

 この屋上での曲『Tell Me If You Wanna Go Home』は、サントラでは通常のものと“ルーフトップ・ミックス”の2バージョンが収録されているのですが、私がプレイリストに入れて主に聴いているのはもちろん“ルーフトップ・ミックス”のほうです。なお映画のセッションそのものの音源ではありませんので、お隣さんの罵声は入っておりません(笑)。

 

音楽・楽曲について

 今作のほとんどの楽曲を手がけているのは、ニュー・ラディカルズの元メンバー、グレッグ・アレキサンダーとのこと。

 ニュー・ラディカルズというと、まずパッと浮かぶのはやはりこの曲でしょうか。

 

 

 パンフレットの解説によると、

撮影では事前に録音した音楽を流し、キャストの生の歌声を録音することでライブ感あふれる演奏シーンを生み出した。

のだそうです。

 

 またデイヴ役で出演しているマルーン5のアダム・レヴィーンは、たしかどこかで今作ではギャラなしで出たというのを見たような記憶があるのですが、ちょっと文献を見つけられなかったのでもしかしたら違っているかもしれません。同じくパンフレットのインタビューで、面白いことを言っているので少しだけ引用します。

 

映画のキャラクターは成功への途中で、とても特殊な時間にいる。僕も経験済みで同じような誘惑があった。予想しなかった経験だったよ。ジョンがオファーしてきたのは、こんな経験をした人が少ないからだと思う。カメラの前でも表現できたと思うけど、すべてジョンの指示のおかげだよ。

 

 映画では、NYにやってきたときの風貌はグレーのパーカーにチェックのシャツで、さらに昔のコステロやウィーザーのリヴァース・クォモみたいなメガネという、とっても素朴な出で立ちだったのに、1ヶ月ほどLAに行って(ついでに浮気してw)帰ってきたらメガネはなくなり、ヒゲを生やし、黒いぴったりした服なんか着ちゃったりと、かなり分かりやすく変わっておりました(笑)。アダム本人もそうだったのでしょうかw

 話と関係ありませんが、このLAから帰ってきて浮気がバレ、グレタにビンタされる場面で、右利きが多い日本人目線で見ていると突然左手が飛んでくるので(そして早いw)、思わず「そっちかぃ!」と全く別のところでツッコミを入れてしまいました(笑)。

 

 また風貌については、ダン役のマーク・ラファロが個人的に非常に面白いことをインタビューで言っているのでこちらもちょっとだけ引用します。

 

音楽関係の人物としてのアイデアは、ザ・フレーミング・リップスのウェイン・コインだね。(中略)彼が好きだし、才能がある。彼の大ファンなので、僕の彼へのオマージュを楽しんでもらえれば嬉しい。(モデルにした)唯一の音楽関係の人物だね。

 

 おおぉー! なるほど確かに!

 

 私は(最近アルバム買ってないけど…)フレーミング・リップス大好きでして、富士急で行われた第1回のサマーソニックで初めて見て感激して以来、フェスを含めて何度かライブを見に行っています。こういうところで自分の好きなもの同士が繋がっていたりすると勝手に嬉しくなります。まぁでも、ウェインに比べたらダンは超フツー人ですね。ウェイン大好きだけど、あの人はやっぱり変人ですw(もちろんいい意味で)

 

©2013 KILLIFISH PRODUCTIONS, INC ALL RIGHTS RESERVED

 

ちょいクラシカルなエンディング

 エンディングも多幸感あふれる終わり方で、終わってしまうのが寂しく感じるいいものでした。

 

 ライブで“本来のバージョン”で『Lost Stars』を歌うデイヴと、ホールの出口前で見つめるグレタ。

 

 かつてのデイヴの主張とは違い、このバージョンでもオーディエンスは大盛り上がりとなっている。そしてその盛り上がりを見たグレタは、おそらく彼はもう「自分の彼氏のデイヴ」ではなく「多くのファンに愛される“スター”のデイヴ」なのだということを認め、“手放す”ことに決めたのではないでしょうか。

 

 歌の途中で出ていくグレタ。そして彼女がいなくなったことに気付くも、ファンのためにそのまま熱唱するデイヴ。

 

 このとき二人のこれまでの関係は終わりましたが、ここからそれぞれの新しい道がはじまるのでしょう。その二人にとっての「はじまりのうた」が、二人で一緒に作ったこの『Lost Stars』だったわけです。

 

 帰り道にベンチに座るカップルがひとつのヘッドホンで音楽を聴いています。そして会社に戻ったダンの元に(おそらくグレタから)スプリッターが届けられます。「音楽の魔法」を共有したスプリッターです。会社に戻ってもその「魔法」を忘れないで、というグレタからの餞別でしょうか。

 

 そして最後、エンドロールへと向かう画面には

 

「兄ジムに捧ぐ」

 

 という言葉が。

 

 『シング・ストリート 未来へのうた』のパンフレットに書いてあるのですが、この『はじまりのうた』の完成前に亡くなってしまった監督の兄のことで、ダンのキャラクターにも反映させているとのこと。監督の右腕には兄の名前のタトゥーが入っているそうですが、『シング・ストリート〜』を見てからまた今作を見ると、監督にとって兄の存在がどれほどのものだったかが解り、グッとくるものがあります。

 

 と、ここで終わると二人のラブストーリーの映画になってしまうので、まだ続きます。

 

 エンドクレジットが流れている横にエピローグが入る映画って、そういえば最近見ていなかったような気が。途中でカットインするものはたくさんありますが、こういう形の映画は単館上映系の作品に多い(ような気がする)ので以前は結構見たっけなぁーと、ちょっと久しぶりで懐かしくなりました。

 

 街中でのレコーディングシーンでも流れていた『Tell Me If You Wanna Go Home』のインストバージョンがエンドロールでも流れますが、これがまた多幸感・高揚感を煽りまくるので、見終わったあとにどこかへ出掛けたくなりました。屋上でピョンピョン跳ねてるマルコムの真似でもしたくなるような、そんな感じです(笑)。まぁ実際にはレイトショーで見たあと殺風景な道をひとりチャリで帰っただけなんですが(笑)、こういう気分にさせてくれる映画はそう多くはないので、いい映画に出会えて本当に良かったです。

 

 というわけで、『ONCE ダブリンの街角で』『はじまりのうた』『シング・ストリート 未来へのうた』の3作ではこれが一番好きかな、と思っているのですが、改めて他の2作も見直してみると、やはりそれらも別の良さ・同じ良さがちゃんとあって、結局「どれも好き」ということに落ち着くのでした(笑)。

 

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