三崎町三丁目通信

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【ジョン・カーニー監督:音楽3部作②】『はじまりのうた』──見たあと、なにかはじめたくなる。

投稿日:2018年3月18日

 

 『ONCE ダブリンの街角で』のジョン・カーニー監督による音楽3部作(勝手に命名)の第2作『はじまりのうた』は2013年のアメリカ映画(クレジットに“アイルランド映画”の文字がないんですよね)、日本では2015年に公開されました。

 私が住んでいる地域ではたしか3月下旬あたりからの公開で、自分は4月5日に観に行ったのですが、もう最高でした! 寒い冬がようやく終わって暖かい春になり(こちらは雪国というほどじゃないけど1年の半分はスタッドレスタイヤを履かせる地域)、木々が日ごとに緑が増していく──そんな新入生や新社会人といった、新しい生活をはじめた人がそこかしこにいる中、とくに大きい変化のない生活をしていた自分にも(笑)、人生に何か新しい出来事が起こるかもしれないという期待感を抱かせてくれるような、そんな映画でした。

 

物語の舞台もキャストも華やかに

 

 前作『ONCE ダブリンの街角で』は、アイルランドのダブリンを舞台とした物語で(次作『シング・ストリート 未来へのうた』もダブリンが舞台)、監督の元バンド仲間でプロのミュージシャンであるグレン・ハンサードと、当時はまだ10代だったシンガーソングライターのマルケタ・イルグロヴァという、ともに役者ではない二人が主人公でした。

 それに対し、今作『はじまりのうた』は、主演のグレタ役にキーラ・ナイトレイ、ダン役にマーク・ラファロ、グレタの恋人デイヴ役にマルーン5のアダム・レヴィーン、そしてダンの娘バイオレット役には、今やすっかり売れっ子のヘイリー・スタインフェルド(個人的には“テイラー・スウィフト一派”という印象が強いものの、この映画のおかげで好感度は上がってきています。 笑)といった豪華な顔ぶれとなっています。

 また物語の舞台が夏のNYということで、人も街もエネルギッシュで活気に満ちています。夜のクラブ界隈も、昼のダウンタウンも、幾つもの公園も、地下鉄のホームも、眺めのいい屋上も、どこもかしこも素敵に見え、何かが起こりそうな、何かがはじまりそうなワクワク感があるところが前作と大きく違うところです。

 前後作がともに(少なくとも本人にとっては夢を叶えられる街ではない)ダブリンでの話なので、コントラストの違いで尚の事キラキラして見えます。オープニング・クレジットが入る場面、ダンが娘のバイオレットを迎えに車を走らせているときの映像だけで気分が上がってきます。

 

魔法を信じるかい?

 

 グレタとダンが出会う重要な場面(バーでグレタが歌うところ)が計3回出てきます。

 最初は客観的視点としてオープニングに。2回目はその日のダンの最悪の一日を経て、夜に彼がそのバーへやってきてグレタの歌を聴くまでを。このダンがグレタの歌を聴くシーンはカーニー監督お得意の「魔法」ですね。

 そして3回目は、メジャーデビューするミュージシャンの恋人デイヴと一緒にNYにやってきて、彼の浮気が原因で滞在していた高級アパートを飛び出し、売れないミュージシャンで路上演奏をしている旧友のスティーブのところへ転がり込んだグレタが、スティーブがバーで歌うのに付き合って出かけてから自身が歌うことになるまでを。

 この流れは同じ地点(グレタが歌うところ)にダンとグレタの二人がどのようにして辿り着いたかを説明するためのものでしたが、その切り替わりや繋ぎが実に自然で、まどろっこしさとか中弛みするようなことは全くありませんでした。ダンのシークエンスからグレタの回想に入っていくあたりはむしろ巧いなぁ~と。

 

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 先ほど書いた監督お得意の「魔法」について、『ONCE ダブリンの街角で』と『シング・ストリート 未来へのうた』での「魔法」の場面についてはそれぞれのレビューのほうに書きますが、ジョン・カーニー監督の映画でとにかく素晴らしい!と思うシーンは、ギター1本で静かに始まった「歌」が、少しずつバンドの音が重なってきてひとつの「曲」になっていくときの高揚感です。これぞ「音楽の持つ魔法」といった感じで、3作通してこれらのシーンは個人的に叫びたくなるくらいに盛り上がります(笑)。傷心のダンがグレタの歌う『A Step You Can't Take Back』に引き込まれ、頭の中でバンドサウンドのアレンジが再生されドラム、ピアノ、チェロ、ヴァイオリン…と音が次々重なっていくこの場面に突入したとき(だいたい上映から20分くらい)、「あぁ、この映画は間違いないわ」と確信したのでした。

 またダンとグレタがお互いのiPhoneに入れているプレイリストを、スプリッターを通してそれぞれのイヤホンで同時に聴きながら夜のNYを練り歩くシーンも非常に素晴らしく(というかこの映画は素晴らしいところだらけなんですが 笑)…。

 最後に二人が腰を下ろしてダンが「音楽の魔法」について語る場面では、誰かと外を見ながら話しているときの目線の動きのように、横切っていく色々なタイプの人にピントが次々移っていきます。NYという街の持つ多様性──人の数だけ違った人生があり、どの人生にも音楽は寄り添っていくもの──といったようなことを表現しているような気がして好きな場面です。警察官と連行されていく男、電話しながら歩く若い女性、BMXに乗る若者、インド風?の服を着た3人組、ヒョロッとした背の高いメガネの若者、どの人たちもこの街の中の一部であり、自分たちと同じく今この瞬間を生きている誰か、です。

 

愛すべきバンドメンバー

 

 スティーブ以外、ストーリーに深く食い込んでくることはないものの、“街角レコーディング”に参加するミュージシャンたちがまたいい味出してるんですよね。スティーブ役のジェームズ・コーデンは、あのポール・ボッツの人生を描いた『ワン チャンス』でボッツ役を演じている人です。なるほど、どうりで漂ういい奴感(笑)。

 『ワン チャンス』はどこまでが実話なのか分かりませんが、彼女の存在がとっても良かったです。偉いっていうか何というか、お似合いのカップルでほっこりします。

 リズム隊はやはりプロの本物を、ということで、かつてダンが見出した「世界中にtwitterのフォロワーがいる」ヒップホップ界のスター・トラブルガムを頼ってスゴ腕を調達。

 ここでも見ていて気持ちがいいのは、スターになった今でもトラブルガムはダンへの恩を忘れておらず、たとえ今は落ちぶれていても彼はリスペクトされるべきだと本気で思っているところです。ベースとドラムへのギャラも彼が払うことにしますが、そんなの当然だと言い切ります。

 ちなみにだいたいの男は基本的にこういう話が大好きです(たぶん)。

 バレエ教室の演奏(バイト?)中に誘いを受けて即決して出ていくピアニストのザックもノリが良くて面白いし、あとは何といってもヴァイオリンとチェロの姉弟がいいです。どっちも垢抜けてないんだけど(とくに弟マルコムの、夏のおじさんみたいな半ズボンに普通の靴下っていう組み合わせときたら…)、よく見ると美男美女(とくに姉のレイチェルはいい女だと思うw ちなみに結構な割合の男はこういう女が大好きです。たぶん)で、屋上で妙にノリノリになってるマルコムや、レコーディングが終わったあとのパーティでハジけちゃってるレイチェルがやたら可愛く見えます(笑)。

 

魔法を信じ続けるかい?

 

 この“街角レコーディング”のシーンはどれもこれもすごく素敵なのですが、とりわけ屋上でのセッションは曲の良さも相まって(同じ言葉を何度も使い回して恐縮ですが)素晴らしいの一言に尽きます。バイオレットが弾くギター、もう最高っす。巧いか下手かとか、そんなこっちゃねーんだよ!っていう、ロックの初期衝動とは何ぞやーっ!っていうものを凝縮したようなあのアウトロ…。あぁもう最高。お向かいに住む男性からの罵声すらも心地よく聞こえてきますw

 この屋上での曲『Tell Me If You Wanna Go Home』は、サントラでは通常のものと“ルーフトップ・ミックス”の2バージョンが収録されているのですが、私がプレイリストに入れて主に聴いているのはもちろん“ルーフトップ・ミックス”のほうです。なお映画のセッションそのものの音源ではありませんので、お隣さんの罵声は入っておりません(笑)。

 

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33press管理人

2012年より某地方在住。映画と音楽と雑学とスポーツ観戦が好きで、2017年下半期はツイン・ピークスの新シリーズにはまっていました。フリーランスのグラフィック&エディトリアルデザイナーをやってます。 びっくりするくらい将棋が弱いです。16年にDELE A2に合格。A2てw

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