今作も健在だった「音楽の魔法」
ジョン・カーニー監督作品といえば、バンドの演奏シーンがとにかく素晴らしいのが特徴です。今作でももちろんその「音楽の魔法」を堪能することができますが、個人的に一番好きなのは、コナーがエイモンの家で『Up』を一緒に作曲していて、二人で生ギターとピアノで弾き始めた曲がそのままバンドの演奏になっていく場面です。
これは『はじまりのうた』でグレタが弾き語りで歌った曲がダンの頭の中でバンドアレンジになっていったときと同様に、ひとり(または二人)から生まれた小さな音が、バンドという仲間の音が加わって大きなうねりになっていく、という演出ですが、なんだってこうも高ぶるのでしょうか…。まずもって曲が良いということもありますが、ひとつの曲が生まれ、成長し、それがいろんな人を巻き込んでそれぞれの何かを変えてゆく──というところが、私たち見るものの心に響くのでしょうか。
差し入れを持ってきたエイモンのお母さんの楽しそうな様子、好きな子に聴いてもらいたくてさっそくテープを届けるコナー、それを受け取って聴いたラフィーナも、自分のモデルになる夢に改めて向き合い「よし、私も」といった感じでメイクの練習?をしてみたり。
灰色の月曜 通りの向こう
例えようのない瞳の少女
突然 最高の日曜になり
何もかもがリアル
(中略)
高く上るよ
光を照らす彼女
壊れそうな僕
彼女が引き上げる
(中略)
彼女が星空へ案内してくれる
デイム・ストリートもジョージズ・ストリートも
はるか眼下
誰にも邪魔されない世界
『モデルの謎』のテープを渡したときは、曲名を聞いて「うれしいわ」というラフィーナに「君じゃない。知り合いの別のモデルさ」なんて見栄を張っていたコナーですが、このときにはもう堂々と気持ちを曲に込めていますね。(ジェネシスを聴く)彼氏がいるラフィーナもそりゃあ悪い気はしない…っていうかそれ以上ってもんでしょう。
あとはギグでの演奏も良かったのですが、面白く、そして泣かせてくれたのは『Drive it Like You Stole It』の演奏&撮影のシーン。コナーとラフィーナの間では共有できた「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のライブシーンもエキストラの子たちは見ておらず、「こんな感じで」とダンスの指示をするも絶望的にリズムに乗れてなくて、拍の取り方がまさかの前ノリw 演歌かっていう(笑)。
そうかと思えばコナーの妄想の中では「こうなってくれたらいいのに」っていう願いと現実との違いに切なくなります。仲良く踊る両親、ノリノリのバクスター校長、ラフィーナにしつこく絡むエヴァンを追っ払う、バイクに乗って現れたジェームス・ディーン風のブレンダン…
初ギグ成功のあとに
ギグのあと、ブレンダンに港まで送ってもらい祖父の船で英国へ渡ることにしたコナーとラフィーナ。じつに青春映画らしいエンディングですが、ここでもブレンダンの兄としての大きさみたいなものがよく出ています。「向こうに知り合いは?」「金はあるのか?」と訊く場面、おそらくどっちも無いだろうということを分かっていて笑いながら訊いていますが、その笑いは決して馬鹿にしているものではなく、「どっちもないんだな? でも行くんだよな?」っていう優しさに満ちたいい笑顔をしています。
港で二人とのお別れ、そのあとでの拳を突き上げ心から弟の(文字通り)船出を喜ぶ姿で涙腺崩壊しました。長男としてつらいことは全部自分が受け止め、自身の夢も諦めることになったのに、弟の旅立ちを全力で喜び応援する兄………落ちぶれていようと引きこもりだろうと、
アンタめちゃくちゃ格好いいよ!
そして最後にはこんなメッセージが。
すべての兄弟たちに捧ぐ
泣くわそんなのここで出されたら。
数十kmの距離とはいえ、あんな小さい船で無事にたどり着けるのか心配されるところでしたが、以前ラフィーナと小島へ行ったときに見た英国行きの客船が現れ、その後ろを客船が進んだ流れに乗って追うことで、おそらくは英国へ行くことができたのでしょう。「レコード契約を取って俺たちを救い出してくれ」というエイモンの願いは叶うでしょうか。でもその後どうなったのかはまた別の話、ってやつですね。
夢は誰もが見ることができますが、実際に行動に移せる人は少なく、実現させることが出来る人はもっと少ないです。コナーの旅立ちを見て改めて思ったことは
“いざという時に自分を前に進めてくれる何らかのスキルを持つことの重要性”
です。コナーにとってのそれは、音楽の才能に加えて「船を(持っていて ※祖父のものですが それを)操縦出来る」というスキルですね。
映画 『LIFE!』(原題:『The Secret Life of Walter Mitty』)でのウォルター(ベン・スティラー)も、冴えない男が一歩踏み出す勇気を持って、あれよあれよという間にどえらい経験を世界中ですることになりますが、その“冴えない男”も、スケボーで子どもの頃に大会で賞を取ったことがあり、そのスキルが、愛する女性の息子の心をガッチリと掴み、そして自身の冒険でも身を助けることとなっていました。
もちろんそれに加えて、彼の場合は(本人がそう思っていなかったとしても)その実直な仕事こそが実は一番のスキルであり、評価されていたことだったわけですが…。
ずっと続けている自分の本業(コナーにとっての音楽、ウォルターにとってのフィルム管理の仕事)でのスキルと、いわゆる「昔取った杵柄」的なスキルのふたつが人生の岐路に立ったときに自分を後押ししてくれる──ということを考えると、人生仕事だけでも、遊びだけでも何かが足りない。そして何でもいいから一生懸命になれることと、長く続けられるものを持つことが大事なんだということを、身にしみて感じられました。

最後に
余談ですが、この『シング・ストリート 未来へのうた』のパンフレットはLPレコードのような仕様になっていて、LPサイズの紙ケースの中に歌詞カード&ライナーノーツ風のパンフレットが入っている、というものでした。紙ケースももちろんレコードジャケット風のデザインでシャレてます。ちなみにベル・アンド・セバスチャンのスチュアート・マードックの映画『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』のパンフはシングルレコード仕様となっていて、ふたつ並べるとなかなかイイ感じです(笑)。
そういえば最近『オリエント急行殺人事件』の資料を見ていて、ラフィーナ役のルーシー・ボイントンが出演しているのを今頃になって知りました。12月に公開されていたときに見たいなぁとは思っていたものの、結局行けなかったので今度ぜひ見てみたいと思います。クィーンの伝記映画にも出演するそうで、そちらのほうも楽しみです。
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ありがとうございます〜〜フェイスブックでシェアさせていただきました♪
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ジョン・カーニー監督の3部作やっと最後のまで観ましたw
音楽良いね好きなことにかける情熱とか、家族とか、脇役も最高に味があって久しぶりに「映画って、音楽って泣けるぅ」って感動。2を観て「兄に捧ぐ」ってエンドロールが気になって検索したらこのサイトに。めちゃええ批評するやん♪気になる脇役の解説や裏話や個人的な感想もうなずけるとこいっぱいでした。「ジェネシス聞く彼氏は敵じゃない」に吹き出したら同じこと書いてはったし。てことで作品みたあと、この人のサイト必ず読んでね〜〜
伊藤さま
ありがとうございます〜!
『はじまりのうた』で割と唐突に「兄に捧ぐ」と出てくるから気になったんですけど『シング・ストリート』を見て、監督にとっていかに兄が大きな存在だったのかが分かって感動しました。
何より3作通して音楽・映画ともに素晴らしいって相当すごいことだなぁと思いました。
この映画が好きな方に読んでいただけて嬉しいです。