映画『メイド・イン・ホンコン』──若さと恋とノーフューチャーと【フルーツ・チャン監督作】

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フルーツ・チャンとウォン・カーウァイが描く、それぞれの香港

 冒頭にも書きましたが、フルーツ・チャン監督作ではこの『メイド・イン・ホンコン』以外に「娼婦三部作」と呼ばれる3作品の第一作目にあたる『ドリアン ドリアン』という映画を公開当時に観ています。

 

 残念ながらそのときはパンフレットを買わなかったのであまり詳しいことは覚えていないのですが、それでも香港という「良くも悪くもエネルギッシュな大都市」がもつ賑々しさや熱量といったものがビンビンに伝わってくる、なかなか面白い作品だったように記憶しています。

 『ドリアン ドリアン』は、中国本土(この作品は返還後なので)から出稼ぎに来た若い女性が、何もない田舎とは全く違う大都会の香港で、ひとりの娼婦として強く前向きに生きていく姿が印象的な映画でした。

 娼婦という職業で日々を生きている女性を描いていながらも、不思議とそれがネガティブに映らず、見ている者に暗さや影といったものを感じさせません。

 むしろ何もない田舎に帰り、ずっと地元に残って生きている旧友とのギャップであったり、これからこの何もない、だだっ広い土地が広がる田舎で生きてゆくことがはたして彼女にとって幸せなことなのだろうか……とすら思えたものでした。

 清潔かどうか、快適かどうか、といったことはともかくとして、やはり香港は当時から都会…というか超過密な都市国家(定義としては都市国家には当たらないみたいですが)であることは間違いなく、そういった街が24時間365日発し続けるエネルギーというものは、やはり独特の魅力があるのでしょう。

 

 そして同じく90年代に登場したウォン・カーウァイも当時の香港映画を代表する監督ですが、ウォン・カーウァイが描く香港と、フルーツ・チャンが描く香港の姿には大きな個性の違いがあるように感じます。

 94年の『恋する惑星』や95年の『天使の涙』でも、裏社会に生きる主人公が登場しますが、こちらのほうはリアリティがなく、良い意味で「映画的」です

 これについては「娼婦三部作」の第二作にあたる『ハリウッド★ホンコン』のチラシ裏面に書かれている解説文に、うまく表現された説明があったので引用します。

 

鮮烈なデビューを飾った『メイド・イン・ホンコン』以来、各国の映画祭で数々の受賞に輝き、映画『ピンポン』に出演し話題となったサム・リーの発掘など、幾多のエピソードを生んできた新世代の作家、フルーツ・チャン。都市を「絵画のように撮る」ウォン・カーウァイに対し、彼は「ストリートの息吹を愛する」男として、香港映画界の評価を二分している。

 

 そうそう、そんな感じですよね。良い部分も悪い部分もひっくるめた「生々しさ」を受け入れられるかどうかが評価の分かれ目というか。

その他、細かいところ

 上の引用文にも書かれているように、主人公チャウを演じたサム・リーは今作でデビューしたのち、松本大洋の漫画を映画化した『ピンポン』にも出演するなど、日本をはじめ多くのアジア映画に出演する俳優として活躍しています。

 個人的には2007年の『夜の上海』での怪しい日本語を喋る通訳で出演していたのが記憶に残っています。

 

 この『夜の上海』は「上海を宣伝するためだけの映画かな?w」と言いたくなる、割としょーもない(笑)ドタバタコメディなのですが、それでもとにかく

 

ヴィッキー・チャオの可愛さと本木雅弘の格好良さだけで映画が成り立ってしまう

 

 という、なかなかチートな作品となっています。(個人の感想です)

 まぁそうは言っても物語の手法は、映画や小説などでは鉄板の「ワンナイトもの」(ある一日の、夜から朝までの間に起きる出来事を描く定番スタイル)ですから、偶然出会った美男美女の一夜物語として普通に面白いんですけどね。

 

 『メイド・イン・ホンコン』に話を戻すと、ここでのサム・リーは微妙に柄本時生っぽい印象で、サンの遺書を手にしてから毎晩のように夢精しては白ブリーフを水洗いする姿は、弱きを助け強い者にも臆することのないチンピラの主人公としては、あまり格好いいものではありませんでした(笑)。

 服装も当時のスタイルといえばそれまでなんですが、ピタピタでへそが出る丈のシャツにゴーグルみたいなサングラスという出で立ちは、正直あまりイケてるとは言えないし、どうにも強そうに見えません(笑)。

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 またペンのほうも、なんでそこまでベリーショートにするかなっていうくらいの短髪で、化粧っ気もないのでまるで少年のよう。『恋する惑星』のフェイ・ウォンもこれに近いくらいの短髪でしたが、一体何なんでしょーか。

 

 ちなみにこのふたり、それぞれの部屋に映画のポスターが貼られていました

 チャウの部屋には『ナチュラル・ボーン・キラーズ』『レオン』が。

 そしてペンのほうは、チャウに親の借金を身体で払おうとしたシーンで映るのですが、リヴァー・フェニックスとキアヌ・リーブス主演の『マイ・プライベート・アイダホ』のポスターとなっていました。

 こういった物語の設定・状況に合わせたアイテムがさりげなく配置されているのも面白いところです。

 あと、この辺は香港全体がそういうところなのか、はたまた中国人の社会というものがそうだったりするのかは定かではありませんが、いろんなことがとにかく雑で適当(笑)、そしていざというときの行動がなかなかエグい──というところがちょっと気になりました。

 妹の復讐のため、少年が実の父親の腕を中華包丁でぶった切るところなどは「あぁ…さすが中国だわ…」と。。。

 

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