三崎町三丁目通信

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【トリコロール三部作】映画『トリコロール 白の愛』──“平等な愛”というものは存在するのか【BLANC】

投稿日:2019年1月14日

 

 ジュリエット・ビノシュ主演の『トリコロール 青の愛』に続く、ポーランドのクシシュトフ・キェシロフスキ監督による「トリコロール三部作」の2作目は、フランス国旗の真ん中の色である「白」と、国旗のなかの「白」が意味する「平等」がテーマ『トリコロール 白の愛』

 

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 主演はポーランドの人気俳優ズビグニェフ・ザマホフスキ(2015年の『杉原千畝 スギハラチウネ』にも出演)と、レオス・カラックス監督の『汚れた血』の他、『僕を愛したふたつの国/ヨーロッパ ヨーロッパ』『キリング・ゾーイ』『三銃士』に続いての主演となったジュリー・デルピー

 

あらすじ

 ポーランド人の美容師カロルは、美容師の国際コンテストで知り合ったフランス人女性ドミニクと恋に落ち結婚するも、言葉の通じないフランスでの生活によるプレッシャーからか性的不能になり、それが原因で離婚を突きつけられ、裁判が行われたその日にトランクひとつで放り出されてしまう。

 金も行く場所もなく、地下鉄の通路で知り合った同郷の男ミコワイの協力ののち、危険な目に遭いながらもなんとか帰国したカロルは、自由化の波が押し寄せるポーランドで意外な商才を発揮し、ミコワイを共同経営者にして青年実業家となり財を築いてゆく。

 そして今もなおドミニクを想うカロルは、財産を全て譲るという遺言状を作り自分が死んだことにしてドミニクを葬儀に呼ぶ計画を立てる。

 自らが受けた元妻からの仕打ちと、それでも未だ持ち続けている彼女への愛。どちらも一方向からのものだが、この計画でドミニクへの復讐を果たし、そして彼女からの愛を受け取る(愛においてお互い「平等」となる)ことはできるのか──

 

白の世界

 三部作の真ん中にあたる今作のテーマは「白」=「平等」

 雪のポーランドの寒々しい景色や凍った湖など、自然の中にある「白」と、カロルが大事に持ち帰った少女の石膏像やウエディングドレスのような、カロルが愛するドミニクをイメージさせる「白」を基調に、極端に色彩の少ないモノトーンのような世界が描かれています。また裁判や葬儀のときにドミニクが身につけている服などの「黒」がもたらすコントラストは、より「白」を引き立たせています。

 そして時折目に入る鮮やかな色彩は、三部作の最後を飾る次作のテーマである『赤』でした。

 裁判の翌日、自身の美容院にやってきたドミニクが来ていた服と、葬儀の日にドミニクが泊まったホテルのベッドシーツと枕の色です。前者は朝、光が差し込む白を基調とした美容院の中に映る赤なのに対し、後者は夜、灯りを消した部屋の中に鮮やかに浮かび上がるビビッドな赤でした。

 どちらも事に及ぼうとする場面ですが、前者はやはりうまくいかず、カロルは改めて三行半を突きつけられることとなり、後者はついにドミニクを心身ともに満足させ再び彼女からの愛を得ることに成功する、という展開に。

 

珍しく購入した前売り券

ポーランドの今昔

 映画の中でも語られているように、この頃のポーランドは「自由化の波」が押し寄せ、かつての「東側」「共産圏」といったイメージから脱却しようとしていた時期のようですが、物語の前半の舞台であるパリとの差は激しいものがあり、やはりその違いは歴然です。EUに加盟する10年以上前のことですので、それも当然といった感じなのでしょうけど、逆に今現在のポーランドと比べるとあまりの変貌ぶりにびっくりします。ってか行ったことないくせに何を偉そうに…という話ですけど(笑)。

 ここ数年やたら増えた、テレビでのわざとらしいまでの“日本アゲ”系番組による情報はともかくとしても、日本に関心があるという人はこちらが思っているよりも多いのは事実のようで、個人的に利用していた言語交換サイトでも「日本語を勉強したい」というポーランド人は周辺国の中でもドイツと並んでとくに多かったように感じたのですが、今作のような映画のイメージを引きずったままだと不思議な気分がします。フランスにせよ日本にせよ、良くも悪くもこの20数年でここまで変わったりはしていませんし。。

 

パンフレットより

パンフレットからの引用

 『青の愛』のほうでも書きましたが、この「トリコロール三部作」のパンフレットは3作統一となっています。そのため、この3つの物語を読み解くうえでも参考になる、なかなかに充実した内容となっており、久しぶりにこの三部作を見た今あらためて読んでみても役に立つ面白いものでした。そこから2つ、少しだけ引用して紹介します。

 

引用1

ズビグニェフ・ザマホフスキへのインタビューより

(構成:石木まゆみ氏)

※オリジナル・プレス、「テレラマ」'94年6月24日号より

 

──キェシロフスキ監督から、カロル役について厳密な指示はありましたか?

「彼は、カロルという人物について、ほとんど私に語りませんでした。ただひとつの指示は“チャーリー・チャップリンを参考にしろ”というものでした。でもそれは、チャップリンをまねしろという意味ではありません。監督の頭にあったのは、あの独特な、悲劇的なものと滑稽なものの混じり合いでした。そしてチャップリンのとらえがたい側面、さらには彼の普遍的な側面をカロル・カロルに与えたいと、監督は思ったのでしょう」

 

引用2

「解説」より

(略)紡がれるお話は、男の純情。妻への一途な愛です。ここにあるのは“愛は平等であり得るのか”という命題です。愛のイニシアティヴは必ずどちらかが取るのだとすれば、一途な愛を捧げる弱い側は、どのようにして“平等”を勝ちとればいいのか。キェシロフスキは、哀しくもおかしい男の軌跡を通して、ちょっぴりスパイスを効かせながら、この命題を解き明かしてくれます。彼は、この主人公にカロルという名をつけました。カロルとはポーランド語でチャーリーを意味します。そう、彼はこのキャラクターを“愛する道化師、チャップリン”に見立てていたのです。

 

 なるほど…。たしかにこの『白の愛』は他の2作と違って少しコミカルなところがありますし、カロルの立ち振る舞いやキョドり方(笑)などは気劇的であると同時に、いちいち不運に見舞われたりドミニクからの扱いのひどさなど、冴えない男の哀愁のようなものも感じられます。

 ってかそもそも「カロル・カロル」っていう出オチみたいな名前からして三枚目感半端ないですし(笑)。

 

雑誌『スウィッチ』ジュリー・デルピー特集号 (めちゃめちゃ曲がってて恐縮ですw)

雑誌からの引用

 映画公開の翌年、『恋人までの距離(ディスタンス)』(原題:Before Sunrise)公開のタイミングに合わせて特集が組まれた雑誌『スウィッチ』’95年13号「特集 ジュリー・デルピー[パリを遠く離れ]」の中の、今作に関して書かれている部分がまた面白いものでしたので少しだけ引用して紹介します。

 なお『恋人までの距離(ディスタンス)』は、その後長い年月を経て続編が2作公開され、こちらも三部作(現時点では)となっており「ビフォア三部作」と呼ばれています。『〜サンライズ』『〜サンセット』の2本が素晴らしく、とりわけ『〜サンセット』は超名作だと個人的に思っています。

 

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引用

雑誌『SWITCH』1995 vol.13 No.5

ジュリー・デルピー特集号より

(文:川口敦子氏)

 

 FABER&FABER社から刊行されている「KIESLOWSKI ON KIESLOWSKI」の中で、キェシロフスキは『トリコロール/青の愛』を女の映画、『~白の愛』を男の映画、そして『~赤の映画』を男と女の映画だと述べている。この発言を乱暴に主演俳優にあてはめれば『青』はジュリエット・ビノシュの、『白』はズビグニェフ・ザマホフスキの、そうして『赤』はジャン=ルイ・トランティニアンとイレーヌ・ジャコブの映画ということになるだろうか。脚本を書く段階で彼らを念頭に置いていたのは確かだと、これは来日した監督に取材した際に聞いた。

 が、それでは『白』のジュリー・デルピーは男の映画を脇で支えるだけのヒロインにすぎないのだろうか。他の二編の女優たちと比べれば出番は確かに少ない。けれども映画全体に響く彼女の存在の大きさはビノシュにも、ジャコブにも劣っていない筈だ。

 聞き手のそんな不満を察したのか、三部作の女優たちについてキェシロフスキはいかにも公平を旨とするような以下のコメントを提供してくれた。

 「ジュリーについては脚本を書き終えてから出演を検討した。が、実を言えば彼女は『赤』にもいいかなと一瞬、思わなくはなかったんだ。でも最終的にはやはり『白』でなければならないと確信した。それぞれのヒロインはそれぞれの女優と似た部分をもっている。私の演出のせいもあるだろうし、彼女たちが元々、備えているものが役にふさわしかったという面もある。いずれにしても交換不可能のキャストだった。ジュリーが『赤』ではあってはならないようにイレーヌが『赤』以外を演じることも考えられない。『青』のヒロインと同様にビノシュはクールで、きっと前をみつめたような所があり、自分の意志を貫いていく。イレーヌは素顔でも『赤』のヒロインそのままの何ともいえない不安の感覚を漂わせている。ジュリーは、それはもうあの圧倒的な白さの印象だね。映画で使った少女の彫像はもちろん彼女をモデルに作ったものではないけれど、まるでそうであるかのようにぴたりと一致するものがあった」

 

 ジュリー・デルピー特集号に載っているものなので当然ジュリー・デルピー寄りの内容となっているわけですが、彼女のファンにとっては嬉しい発言ではあります(笑)。そして監督が言うように、カロルの葬儀の翌朝、幸せそうに眠るドミニクの白い肌はたしかに思わず息をのむほどの美しさでありました。

 

“平等”とは

 これまでは常にカロルからドミニクへの一方通行の愛でしかありませんでしたが、帰国し実業家として成功を収めたカロルが企てた計画によって、ようやくカロルがドミニクからの愛を受け取り、愛において“平等”の関係となることができました。刑務所に入れられたあとも、様子を見に来て外から双眼鏡で見つめるカロルに対し、手振りで自身の愛を伝えるドミニク。そしてそれを見て涙するカロル。

 しかし皮肉にも、ようやく心から愛し合えるようになった二人は直接会うことも、触れることも出来ない関係になってしまいました。このまま悲しい愛の物語として終ってしまうのか、それとも何か違った展開が待っているのか──三部作の最後『赤の愛』の中で、その断片を見ることができます。

 

当時はジュリー・デルピー推しだったのに…

 映画館でよくチラシを集めて持っていく人を見かけますが、私もそのなかの一人です(笑)。

 書籍などは発売からしばらく経っても買うことが出来る場合が多いですし、雑誌もある程度の期間なら本屋から消えたあとでも購入することは可能です。ですが映画のパンフレットはそこを逃したら入手するのは相当難しく、入手できても中古だったりします。そして映画のチラシとなると、あとから手に入れることはほぼ不可能です。

 映画のチラシ(多くの場合ポスタービジュアルと同じ)は商業デザインとしてのひとつの作品で、映画の世界観を表現する大事なツールでもあると思っています。実際私は気に入っているものをB5の額縁に入れて廊下にずらっと飾って「映画館みたいでいいわぁ~」とひとり悦に入っています(笑)。歳を取ると分かることですが、こういう「二度と手に入らないもの」って本当に貴重なのです。それが好きなものだったら尚のこと…。

 というわけでこの「トリコロール三部作」も、貧乏だったけどパンフは当然購入し、チラシもそれぞれデザインが秀逸だったので全部揃える気満々でした。

 ですが……この『白の愛』だけ、公開前のチラシを置いてある時期に映画を観に行かなかったために入手することが出来ませんでした…。。。逆に普段は買わない前売り券を購入して観に行ったので、上に画像を載せているように今も残っているのですが……肝心の、あの右手を挙げたジュリー・デルピーのイメージとデザインが素晴らしいチラシだけが、手元にありません。。

 三部作だから全部揃ってこそ意味があるのに(正確には青・白・赤の3つと、三部作セットの計4つが存在します)欠けが出てしまったことも痛恨ですが、その3つの中でも個人的に一番欲しかったものが無いというこの無念さときたら………

 

三部作のチラシ。ちなみにパンフレットの表紙もこのデザインを踏襲したものになっています

 

 この『白の愛』は、映画自体は自分の中でそこまで心に残るようなものではないのですが、三部作としての価値、ジュリー・デルピーの美しさ、そしてチラシを入手できなかった悔しさ(笑)の相乗効果で、思い出の一作となっております。まぁ、そういう映画があってもいいのではないかと…。

 

 上でのちらっと書いたように、ジュリー・デルピー出演作品で私が最も好きな映画は『ビフォア・サンセット』です。前作からの踏襲と逆パターンの使い方、展開と結果、そして最高にイケてるラスト──

 エンドロールが流れた瞬間、心の中では拍手喝采でした。あまりにも素晴らしくて。

 

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三崎町三丁目通信の主筆・Kです(個人運営ですが)。映画の感想を中心に、趣味で続けているスペイン語学習(DELE A2取得で止まっています)と最近始めた英語学習のことなどを書いています。本業はフリーランスのグラフィック&エディトリアルデザイナー。びっくりするくらい将棋が弱いです。

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