【ルイス・ブニュエル監督作】映画『皆殺しの天使』(ネタバレ)──名前から考察してみたり

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レティシア(ワルキューレ)の謎行動

 

 主演のシルヴィア・ピナル扮するレティシア(「じゃじゃ馬の処女」である彼女は“ワルキューレ”というあだ名で呼ばれている ※パンフレットより)が途中いくつかの謎行動をしていて、それが話とどう関係しているのか気になりました。

 ちなみに“ワルキューレ”をwikiで改めて調べてみると「北欧神話に登場する複数の半神」で、戦場において死を定め、勝敗を決する女性的存在──とのこと。勝敗を決する女性的存在………むむむ。

 宴でピアノが披露される前、食堂にひとり残っていたレティシアが窓に向かってテーブルにあった何かを投げてガラスを割ります。また宴の翌日、夜にこっそり壷が置いてあるクローゼットのようなところへ内側から鍵をかけて入って行きましたが、これらの行動は何を意味していたのでしょうか。トイレはまた別の場所だったと思うのですが…

 

人間性をなんとか保つ人と崩壊していく人

 

 当然のことながら、この不可解で過酷な状況のなかでみんな疲弊していき、飢えと乾きによってブルジョワジーのお上品な振る舞いからは外れていき、罵り合いがはじまったり夜這いまがいの行為に及ぶ者もいれば、紙を食べだしたり、また体調を崩したまま薬も何もない環境で死んでしまう人も現れます。

 でも個人的には、もうちょっと恐怖と不安に支配されて人間性を失い、本能が全面に出てくるのかと思っていたのですがそこまでではありませんでした。ただしそれでも羊がやってきたときの皆の顔と、サロンに入ってきたときに囲んで取り押さえるときの描写はジョージ・A・ロメロ監督の映画を見ているようでした。

 

 

脱出とその後

 

 私はこれを見ている最中、頭の中を二つの不安がよぎっていました。ひとつは「もしこの空間(劇場)から同じように出られなくなったら怖いな…」という不安。たぶん全国どこでもミニシアターでの上演だったでしょうからより一層恐ろしいことと思います(笑)。そしてもうひとつは「謎のまま何も解決しないまま終わってしまうのでは」という不安でした。こういった不条理劇だったらその可能性はいくらでもありそうでしたので。。

 幸い、どちらの不安も杞憂に終わり、私は無事に劇場を後にし(笑)、閉じ込められたブルジョワジーたちも脱出に成功します。ただしどうやって脱出できたのか、その方法がまた新たな絶望となるわけですが…

 ノビレを生け贄にしろ!なんていう物騒な騒ぎが起こり、取っ組み合いになっていよいよまずいことになってきたとき、“ワルキューレ=勝敗を決する女性的存在”であるレティシアが、帰れなくなったときのサロンにいた人の配置が、巡り巡って今また全く同じになっていることに気付きます。そしてもう一度その時の行動を「反復」しようと呼びかけます。

 ブランカにピアノで同じ曲を弾いてもらい、その後の会話を再現したあとのレティシアの「みんな帰りたいのよ!」という言葉でついにサロンを脱出することに成功するのでした。

 またこの脱出劇が始まる頃、邸宅の外では、最初の「反復」が起きたときに帰っていった使用人の女性2人が、様子を見に戻ってきていたのでした。そういった「何かが起きたときの状況に戻し、反復すること」によって、どうしても抜け出せない何かの「摂理」「神意」から解放された、ということになったようです。

 生きてサロンから出られたことに感謝すべく、皆は教会の礼拝に参加するのですが、そこでまさかの悪夢が再び起こります。

 神父様をはじめ礼拝に来ていた人が全て教会から「なぜか」出られなくなってしまったのです。しかも今度はサロンのときとは違って大勢の人がいます。もし同じ方法で出られるとしても、はたして再現など出来るのでしょうか…。また同じ頃、教会の外ではいくつもの発砲と人の叫び声が。何かが起こっているようです。そしてたくさんの羊が教会へ入っていくところで映画は終わります。聖職者でさえ閉じ込められる…しかも教会に。じゃあ一体どこなら安全なのでしょうか…

 こうやって見終わったあとに情報を整理してみると、ますますタイトルが効いてくるように思います。

 

最後に

 

 今回の上映では他に『ビリディアナ』『砂漠のシモン』も合わせて公開されていて、どちらも見たかったのですが都合がつかず『皆殺しの天使』のみの鑑賞となりました。パンフレットは3作分をまとめたものとなっていたのですが、これがまたいい味を出していまして、DTPが主流になる以前の版下入稿時代を彷彿とさせる、映画や演劇、音楽などのジャンルでよくある/あった、自費出版風情の冊子ぽい作りになっていました。

 おそらくは使用できる画像が保存状態があまり良くない紙焼きばかり、ということを逆手に取ったアイデアなのではないでしょうか。こういう仕事、作る側からすると面白いんですよねー。

 

<追記:2020年12月12日>
 夏に放送されたのを録画していたのですが、今回ようやく『ビリディアナ』と『砂漠のシモン』を見たのでそちらについても書いてみました。よろしければそちらもどうぞ。

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