【ウォン・カーウァイ監督作】映画『欲望の翼』②──脚のない鳥が地上に降りるとき【最後に登場する男の意味】

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登場人物③:タイドとサブ

 ともにヨディを愛し、ともにヨディを失うことになるふたりの女、スーとミミ。

 そしてそんな彼女たちに想いを寄せるふたりの男が現れます。

 置いていた荷物を取りに(という言い訳のもと)雨の夜にヨディの元へやってきたスーを見つけ、ヨディを呼び出したことをきっかけに彼女と知り合うこととなった警官のタイドと、子どもの頃からのヨディの親友で、いつものように窓づたいにヨディの部屋へやってきたときにミミと出会い、自分には全くなびく気配もない親友の彼女であるミミのことを想い続けるサブ。

 このふたりはどちらもヨディと比べて惚れた女に対して誠実で、真人間っぽい印象がありました。ですが結果だけを見てみればサブはミミを殴り、タイドは人を殺します。

 サブがミミを殴ったときのミミは精神的にちょっとおかしくなっていて、なだめようとしているのに逆に暴れられてしまう、といった状況下だったので仕方がないと言えなくもないですが、それでもサブは殴ったあと彼女を残して車に乗ってしまったので(「フィリピンに行きたい」というミミの言葉を聞いて意を決し、彼女のために車を売りに行ったのがその理由ではありますが)やはりこれはアウトでしょう。

 一応その後の献身的行為は男らしく潔さのあるものでしたが、いやー殴っちゃいかんでしょう…今の時代はとくに。あ、60年代の話か(笑)。

 そして元警官であり、人としても今作の登場人物の中で最も真人間っぽいタイドが人殺しをしてしまったというのは残念でした。幸せになってほしいキャラだっただけにその後の人生が心配になります。

 もちろん、ただ振り切って逃げることすら難しいあの状況では、先にやらなきゃ確実にその場で殺されていたでしょうから仕方ないのですが。それに相手はギャングですし。

 そもそもタイドは夜中に外でつぶれて寝ていたヨディを自分の宿泊している部屋に運んで助けてあげた善人であり、ヨディがギャングを殺したときも何も知らずにただあの場に付き添っていただけなので、彼の場合は善い行いをしたのに事件に巻き込まれ人生を狂わされた被害者なんですよね。

 まぁ警官でありながらスーがサッカー場で働いていることを聞いて「今度タダで入れてもらおうかな」なんて言ってしまう倫理観のユルさはあるようですが、そこはまぁ60年代かつ中華圏のお話ですので…(笑)。

 ヨディの養母レベッカが上海からの移民で、スーがマカオの出身であることからくる彼女たちの心理・行動などは前に書きましたが、タイドの場合は出身や家庭の状況が彼女たちとは逆の方向性を見せているのも注目すべき点かもしれません。

 タイドは香港出身ですが外の世界に出たいという願望をずっと持っていました。それでずっと船乗りになりたかったものの、病弱な母の面倒を見るため家を空けられないことから、警官として香港で働くことになります。

 外の世界を見たいと願っていたタイドは、人が出歩いていない夜の街を警らする刺激のない生活を送っていましたが、そんななかでスーという女性と出会います。

 自分の夢を諦めて、人のいない夜の街を日々歩いて回るタイドには、他の登場人物にあるような執着や欠乏感からくる行動・発言の激しさみたいなものが感じられません。

 ですのでまともに眠れないスーへのアドバイスも、ヨディとは正反対のものとなっています。

 

「眠れば俺に会える」(だから寝ろ)

 

 というヨディに対してタイドは

 

「眠れば彼を忘れられる」(だから寝ろ)

 

 というものでした。まともと言えば至極まともなアドバイスではありますが、ヨディとは逆にこの言葉ではスーの心を動かすことはできなかったようです。

 それともうひとつ、スーに関してヨディとタイドが対照的だった点がありました。

 スーがヨディと一緒に時計をみたあの1分──ヨディと「1分間の友達」になったあの短い時間がスーにとってかけがえのないものであったのに対し、タイドが夜の街をスーと歩きながらお互いのことを話し合ったあの夜──タイドが「あの晩だけの友達だったのか」と言ったあの時間は、そのときのスーにとってはヨディを忘れさせるだけの何かを、少なくともその時点では持ってはいなかったのでした。

 と、ここまで書くとスーにとってのタイドは全くの脈ナシ男であったように見えますが、彼の誠実さはスーの心の痛みを少しずつ和らげていったことは間違いないようです。ヨディとのことを乗り越えて彼女がタイドに電話をしたとき(夜の公衆電話へ)もしもタイドがまだ警官を続けていたのなら、ふたりには幸せな未来があったのかもしれません。

 しかしついにスーが自分に心を開いたとき、すでにタイドは昔からの夢であった外の世界へ出るべく船乗りとなって香港を離れた後でした。(しかもギャングを殺して追われる身に)

 スーにとっては、自分に対して誠実ではなかった男も、誠実だった男も結局自分の前からいなくなるという皮肉な展開となります。またタイドにとっても、ようやく夢が叶って海外へ行ったあとで想いを寄せた女性が振り向いてくれるという皮肉さと、さらにその海外で知り合った男がまさにその女性がかつて愛し、そして彼女を苦しめた張本人で、結果的に自分の人生をも狂わせることになるという運命に翻弄されることとなるのでした。

 かたや全く感情移入できなかったのがサブ。友達の女に惚れるという感覚がまったく理解できないので、個人的にはこの人のことは最後まで脇役とモブの中間といった扱いで見ていました(笑)。

 もし自分の周りにこんな男がいたらたぶんそれほど深い友情関係にはならないキャラですね。自分の彼女を恋愛対象として見る友達なんてそもそもあまり近寄らせたくないですし(笑)、ヨディとの様子を見ていても、一緒にいて人間的に向上していける要素だとか刺激を受けるような素晴らしい点・リスペクトできる何かを持っているようには見えませんでしたので。。

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