三崎町三丁目通信

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映画『ヤング≒アダルト』(ネタバレ)──正しいほうへ進みなさい

投稿日:2018年7月7日

 

 シャーリーズ・セロンがイタいアラフォー女を演じた2011年の映画『ヤング≒アダルト』(日本公開は2012年)。日本でのキャッチコピーは

 

「あなたは、ワタシを、笑えない」

 

です。

 

 以前に一度スターチャンネルか何かで見たんですが、そのとき録画したHDDレコーダーが壊れてしまってデータを取り出せないので、今回も毎度おなじみのHuluでの鑑賞です。

 

 

出だしからイタさ全開

 

 『Now Renting』の垂れ幕がデデンとぶら下がっている高層マンション。空室が多いのでしょう。散らかった部屋に付けっぱなしのテレビ、グレーのTシャツにスウェットパンツ、唸りながらヌーブラを引っ剝がし、ボサボサ頭で歯磨きしたそのあとで、2Lのペットボトルのコーラをゴキュゴキュと直飲みする女・メイヴィス。肌のほうもだいぶお疲れといった感じでハリがない。お利口にしているポメラニアン(名前はドルチェ)をベランダへ誘導してシートをはがすだけのお手軽ドッグフードを与え、そのまま窓を閉めてしまう。ベランダにはドッグフードの空きパックが並ぶ。

 

 机に向かい、当時としてもやや古いMacbookでダラダラと仕事を始める(ヤングアダルト小説のゴーストライター)が、すぐに気が散りメールをチェックする。と、その中に元カレからの赤ちゃんの誕生パーティへのお誘いメールがあることに気付いてプリントアウトしようとするが、インクが切れている。インクを替えるのかと思いきや、カートリッジに唾をたらして何とか済ませようとする。プリンタの周辺には酒の缶や瓶が置きっぱなし

 

 話が今イチ噛み合ない男と一夜を共にし、うつ伏せ寝の男の手が自分に乗った体勢で目覚める。着ているのはハローキティのグレーTシャツ。「自分の人生コレジャナイわ」といったように思い立ち、ホームセンターに売ってそうなダサい衣装ケースなどから荷物をまとめ、男を残したまま愛犬をバッグに押し込んで部屋を出るメイヴィス、37歳。

 

 元カレ・バディとの思い出の曲が入ったカセットテープを、掃除していなさそうな汚れたカーステレオに押し込み、ローバーミニで地元の田舎町へ向かう女・メイヴィス。37歳。バツイチ

 

 TEENAGE FANCLUBの91年の名作アルバム『バンドワゴネスク』のオープニングを飾る『THE CONCEPT』を何度も聴きながら車を走らせる。

 

 映画が始まってからここまででおよそ10分。途中いくつかのシーンの説明を端折っても十分すぎるほどメイヴィスのだらしなさ感が出ています。

 

 それにしてもシャーリーズ・セロンも役の外見に対する作り込み方がストイックな女優ですね。典型的なブロンドの美人、という役ばっかりだったことにうんざりしたのもあるんでしょうけど、極端な増量丸坊主眉毛を全部抜くなど色々やっているだけに、ちょっとくたびれたアラフォー女の作り込みくらいなら余裕なのでしょう(笑)。

 

 

TEENAGE FANCLUBと4 Non Blondes

 

 上記のカーステレオからしつこく(笑)流れるグラスゴーのギターポップバンド、ティーンエイジ・ファンクラブ(以下TFC)の他に、アメリカのオルタナバンド4 Non Blondesの、92年の曲『What's Up』なんかもカーステから流れる曲として使われていたりします。2011年の映画で37歳設定なので、ちょうどハイスクール時代の思い出の曲ってことなんでしょうけど、4 Non Blondesはともかく、アメリカの田舎町の(音楽オタクでもない)高校生がTFCを聴いているという設定にちょっと「おぉっ」と思いました。

 

 多くのアメリカ人はイギリスのインディーバンドなんて聴かないだろう、という思い込みが昔から自分にはあったりするので、この『ヤング≒アダルト』の他にも『500日のサマー』なんかも油断して(何の油断だよw)見ていてびっくりした映画のひとつです。『バタフライ・エフェクト』のメインテーマがoasisだったことについては「あ、そう」という程度でしたけど。

 

 それにしても今これを書いていて久しぶりに『バンドワゴネスク』を聴いていますが、やっぱりエエですわ。初っ端のつかみから最高なんですよね〜。

 

 4 Non Blondesの『What's Up』が入ったアルバムも持っていますが、こちらの曲も今回めっちゃ久しぶりに聴きました。懐かしい…。ちなみにこのPVのYouTube再生回数は4億8000万近くになっています。エンドクレジットにはBECKや、ほかにもレモンヘッズダイナソーJr.ヴェルーカ・ソルトなどといった懐かしい名前が挿入曲として出てきますが、どこで使われていたのか覚えてなかったりして……。。

 

 

 

暴走するイタい女と、昔痛い目に遭った男

 

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 自分の故郷をつまらない田舎と馬鹿にし、そこに暮らす人たちと自分を一緒にしないで、とばかりに見下していているメイヴィス。仕事もプライベートも幸せとは言えない今の生活に向き合うことをせず、かつて自分が一番輝いていた頃の彼氏とよりを戻すことが冴えない現状から抜け出して幸せになる方法だと思い込み、どんどん暴走していく彼女ですが、その暴走具合は見ていて本当にイタいのでここで書くのも正直キツいです(笑)。

 

 年相応とも言えず、しかも場違いな格好で元カレに会いに行く。相手の反応を冷静に受け止めることができないので、子どもが生まれて幸せいっぱいの男が半分ジョーク・半分本当の意味で言っている育児の大変さについての発言も、「彼は不幸」と勝手に脳内変換してズイズイ迫っていく。もちろん元カレのバディはその都度引くんですが、ちゃんと拒否らないので状況は悪いほうに加速していく。

 

 それと同時進行で、故郷に帰ってきた日にさっそく向かったバーで再会?した、同級生・マット(ゲイだという理由でボコボコにされ、下半身に後遺症が残って今でも普通に歩けないほどの酷い目に遭った経験を持つ元いじめられっ子)と意外にも意気投合し、自分から飲みに誘うようになる。趣味でバーボンを作っているマットの酒を遠慮なくぐいぐい飲み、彼の部屋にあったフィギュア制作用の接着剤を鼻に突っ込んでシンナーを吸い込んだりするあたりは完全に中毒者のアレです(笑)。自分が言ったジョークでガハハと笑うところも品のなさが出ていてだいぶアカン感じです。

 

 メイヴィスがなぜマットとウマが合ったのかは見ていてまぁ大体は分かります。明らかに自分より下に位置する男で、何を言ってもいい相手だと思っていて、自分がいかに不幸だとしてもコイツよりはマシ!と思える相手でありながら、案外聞き上手で、しかも自作のうまい酒を大量に持っているというのがその理由でしょう(笑)。

 

 またこのマットにはがいて、その妹もメイヴィスの同級生というところが「へ?」と思うものの、双子じゃないんだろうからアメリカの学校のシステムが日本とは違うから“同級生”という説明になるんだろう、と深く考えずにスルーします。なお、この妹(名前はサンドラ)はメイヴィスに高校の頃から(そして今でも)憧れているらしく、最後にこの兄妹がメイヴィスの背中を押してくれる存在となります。まぁ兄妹二人とも、望んだ結末ではなさそうですが(笑)。

 

 ちなみにマット役のパットン・オズワルドは映画『LIFE!』で、主人公ウォルターが登録したマッチングサイトの顧客サービス責任者を演じていた人です。小ネタですがこの映画好きなもので(笑)。

 

 

いろいろとコンフュージョンw

 

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 バディの妻がドラムを努める、全員子持ちのガールズ・バンド『ニップル・コンフュージョン』(なにこの名前w。まぁメンバー全員が子持ちということで、育児で大変な時期の心の叫びが名前になったような感じでしょうかw 男なんで分かりませんがやっぱり落ち着く間がないんでしょうね…)のメンバーは、バディと一緒にいるメイヴィスを見て「女王気取りのビッチが」と吐き捨て、そしてライブの後にバディを車で送っていくという彼女に対しては「このク○女が!」とでもいうような視線をみんな(バディ妻以外の3人)で投げつけます。

 

 女王気取りの人気者だった女と、仲間とバンドを組んで自分たちの好きなことを続けて地元で生きている女たちは、相手に対する考え方も全く違うし、同じ曲に対しても全く違う思い入れがあったりするようです。

 

 その“同じ曲”っていうのがTFC『THE CONCEPT』っていうあたりが非常に素晴らしい仕掛けですね。バンドの下手さもまた似合うというか(笑)。そして何より、自分とバディの二人だけの思い出の曲だと(勝手に)思っていた『THE CONCEPT』が、バンドの初ライブで最初に演奏する曲で、自身の恋敵(勝手にそう解釈)が、それはそれは楽しそうに演奏しているのを見るメイヴィスの怖い顔ときたら……

 

 

憎い…

 

憎い……

 

憎いぃぃぃぃーーーーー!!!!!

 

 

 といった感じでしょうか(笑)。

 

 ベビーシッターのせいで思惑が外れ、ヤケ飲み(もちろんマットとw)したあと酔っぱらい運転で車をぶつける。そして翌日、街を歩いているところを母親に見つかり実家に戻るが、ここでの親子3人での会話のなかで、(不安やストレスを抱えている人がやりがちな)髪をいじって抜く癖を父に指摘されたり、自身のアルコール依存についてなんとなく自覚するようになる。このあたりから「やっぱり自分は問題を抱えている人間」という認識を持っている描写が出てきます。

 

 実家に置いてあった、昔自分が乗っていた車で直接マットのところへ向かい、酒を飲もうぜと連れ出すが、いろいろ限界に近づいているのか、これまでマットに対しては正直だったのに「バディと盛り上がってジャージをもらった」と嘘をつき(本当は実家にあったものを着てきただけ)、さらに今の彼女が唯一心を許せる相手であるマットに対してひどいことを言って帰ってしまうメイヴィス。

 

 この時点で何かやらかしそうなヤバい雰囲気を出しまくっていますが、書いている原稿の登場人物はまだ自分の都合の良い解釈が投影されているもよう。そしてその登場人物は言います。

 

“人生を正そう”

 

 

そして大爆発

 

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 赤ちゃんの命名パーティの場で、バディに完全に拒否られたことでおかしくなったメイヴィスは、ついにその抑えようのない気持ちが爆発し、和やかなその場をぶち壊してしまいます。

 

 が、それだけであれば、単にイカれた元カノが自身の孤独な現状におかしくなって暴れたっていう、周りからしてみれれば迷惑千万な話っていうだけなんですが、ここで衝撃の過去が。

 

 メイヴィスは二十歳のときにバディとの子を宿したが、妊娠3ヶ月で流産してしまったということが判明します。

 

 

いやいやちょっと待って。

 

 

 このパーティぶち壊しの件についてまるっきり無罪放免とするわけにはいかないかもしれないけど、そんな過去があったのであれば、彼女を責めることもまたできないのではないかと。

 

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“正しい道へ”

 

 みんなに嫌われることをしてしまい、打ちひしがれて行き着いた先はやっぱりマットの家マットはパーティへ呼ばれていないので部屋でフィギュア作っています(笑)。

 

 慰めるハグからそのままベッドへ倒れ込む二人。おそらく体を倒しながらうまく出来たのでしょう。ピロートークで、マット的には一世一代のキメ台詞を放ったつもりなんだと思いますが、よくありがちな、モテない男が美女を最後にゲットするストーリーの映画みたいな流れにはならず、やや微妙な反応のみ(笑)。

 

 そして翌朝、ミネアポリスを出てきた日に寝ていたどっかの男と同じポーズで寝ているマット。やはり同じように手を静かにどけて一人部屋を出る。2階のダイニングに上がると妹のサンドラがいて、

 

「他の人は簡単に幸せを見つけるのにどうして自分はダメなんだろう。自分を変えなきゃ

 

 というメイヴィスに対して

 

そんな必要ない。あなたは特別。皆の理想よ」

「ここの人間はみんなデブでバカ。この町は最低よ」

 

 と返すサンドラ。

 

 

 

 …何かをつかんだようなメイヴィス。全否定されたあとに、そんな自分でも優しく迎え入れてくれる男がいて、そんな自分を羨ましいと全肯定してくれる女がいることに勇気をもらい、自分の生きる場所(ミネアポリス)に堂々と帰る決心をする。

 

 なお、全てを受け止め抱きしめてくれた男と、その妹で最低な自分を全肯定してくれた女のことは無慈悲に放っておきます(笑)。一緒に連れてってとお願いするサンドラには

 

 

「あなたはここにいるのよ(この最低の町にね)」と拒否w

 

 

 また原稿の中でも主人公(自分の投影)の相手役についても非常にドライな扱いで退場させます。

 

 よくあるストーリーだったら、これで何かに目覚め、改心して新たな一歩を踏み出して本当の幸せに向かって歩き出す──みたいなエンディングになるんでしょうけど、

 

この女wは盛大にやらかして、そして都合の良い解釈で開き直って帰っていただけです(笑)。

 

 

 ホテルを後にしたメイヴィスが走る車の後ろに見える標識にはこう書かれていました。

 

 

RIGHT LANE

MUST

TURN RIGHT

 

 

 右車線に入って右折せよ、という標識が「正しい道を進みなさい」と言っているようにも見えます。

 

 ファミレスで最後の原稿を書き上げ、その中で

 

「過去に区切りをつけ田舎町にさよならを言い、ページをめくって新しい人生を始めるのだ──」

 

 と宣言した彼女が乗り込む車のハザードランプは、

 

 

左側しか点灯しない。

 

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三崎町三丁目通信主筆・K

三崎町三丁目通信の主筆(個人運営ですが)をしておりますKです。映画の感想を中心に、趣味で続けているスペイン語学習(DELE A2取得で止まっています)と最近始めた英語学習のことなどを書いています。本業はフリーランスのグラフィック&エディトリアルデザイナー。びっくりするくらい将棋が弱いです。

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