【PR】映画『蜘蛛の巣を払う女』──オープンソース化したリスベット【ネタバレなしの感想】

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『ミレニアム』2~3を経た設定なのか、それとも2~3は存在しない世界なのか

 一応はD・フィンチャー版『ドラゴン・タトゥーの女』の続編ということになるのでしょうけど、今作の内容はスウェーデン版の『火と戯れる女』や『眠れる女と狂卓の騎士』ではなく、原作的にはそこからさらに後の物語となっています。

 そうなると、スウェーデン版『火と~』『眠れる~』で起きた出来事が、前作~今作の間に「(映画にはなっていないけど)起きたこと」なのか、それとも「そんな出来事は存在しない世界」なのか、どうもよく分かりませんでした。

 

 スウェーデン版『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』のあとにリスベットの過去が明かされていき、父親と対決する『火と戯れる女』があって、そしてそのあとに大きな陰謀に法廷で闘う『眠れる女と狂卓の騎士』が続いたことでリスベット・サランデルという女性の存在が世の中に知られることとなったわけですが、それらの出来事を経たあとでの今作のスタートとなるのか、それともあくまでD・フィンチャー版『ドラゴン・タトゥーの女』のあと、表立った大きな出来事がなく3年経って今作がスタートするのかによって、設定の辻褄が合わない部分が出てくるように感じました。

 「そんな出来事は存在しない世界」の設定でほぼ間違いないだろうとは思いますが、ここは重箱の隅をつついてみようと思います(笑)。

 

 

【今作での確定事項①】雑誌『ミレニアム』で“ドラゴン・タトゥーの女”という特集が組まれた

 その内容は不明だが、前作の「ハリエット失踪事件とそれに関連する連続殺人事件」について何も触れていないとは考えにくい。

 となると、彼女が天才ハッカーであることも書かかれているだろうから、前作でヴェンネルストレムの口座の金を抜き出した実行犯としての疑いがかかるのでは?(変装した姿が監視カメラに映っていたので)

 また今作でリスベットが「(ミカエルが)自分の過去を『ミレニアム』誌に書いた」というような発言をしていたので、前作ではわずかな台詞でしか語られることのなかったリスベットの過去について、何かしらの暴露があったと思われる。

 

【今作での確定事項②】リスベットとミカエルは前作『ドラゴン・タトゥーの女』の後から今までの3年、一度も会っていない

 この3年、一度もふたりが会っていないということは、少なくとも映画『火と戯れる女』『眠れる女と狂卓の騎士』の出来事はなかったと考えて間違いない。

 となると上に書いた『ミレニアム』誌のリスベット特集号は、ミカエルが自分で調べて得た情報だけで彼女の過去を書いたということに?

 

【今作での確定事項③】リスベットの父親がロシアの犯罪組織に関わる大物であることをミカエルは知っている

 前作でこの設定は登場していないので、ミカエルが調べて書いたものと思われる。だが同時に『火と~』『眠れる~』の出来事も起きていない設定でもあるので(推測)、リスベットに酷いことをしてきた者たちが裁かれていない中でそんなことを書いてしまったら彼女が危険に晒されるのでは?という疑問が。

 ってか「そもそもなぜ盟友でもあるリスベットの過去を暴露するような内容の記事を書いたのか?」という矛盾が出てきます。『眠れる~』のように、リスベットを助けるための(そして本人の受諾も取ったうえでの)特集号だったら動機は繋がるものの、「そんな出来事は存在しない世界」でリスベットの過去を暴く記事を書く意味が分かりません。

 

【今作での確定事項④】世間はリスベット・サランデルが悪い男をシメるときの方法=“リスベットの手口”がどういうものかを知っている

 これも同様に、『火と~』『眠れる~』の出来事が起きていない設定であるならば、この“リスベットの手口”というのは『ドラゴン・タトゥーの女』での、引き継ぎの後見人に対する復讐行為のことを記事にしたのではないかと推測されるが、もしそうならたとえどのような書き方であってもリスベットを傷付けることになるだろうし、そもそも彼女を危険に晒すだけのような気が。

 また、あの復讐行為が明るみになったとしたら、少なくとも何らかの刑事事件として取り扱われることになるだろうから、ミカエルが3年もの間、一度もリスベットを見つけられないということにはならないはず。

 つまり、『火と~』『眠れる~』の出来事が起きていない設定で雑誌『ミレニアム』にリスベット特集を組んだのであれば、ふたりの信頼関係は大きく揺らぐのは間違いないと思われます。

 なぜなら、重複になりますが『眠れる~』でリスベット特集号を組んだのは「巨悪を罰すること」と、そして何よりも「リスベットを救うこと」が目的だったので、たとえそれが彼女の辛い過去が世間に公表されてしまうことになったとしても「やらなければならないこと」だったわけですが、そのような「やらなければならない」理由がないにも関わらずリスベットの過去を暴くような記事を出すというのは、ふたりの関係からしてちょっと考えられません。

 ここが矛盾するポイントです。「映画にはしてないけど『ミレニアム』2~3での出来事は起きた」という設定ならば話はだいたい繋がるんですけど「ふたりはあれからの3年、一度も会っていない」ので……

 

前作には感情が垣間見える場面が多かったが…
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リスベットの「心」の描写が少ない

 これも冒頭で述べた感想と被りますが、上映時間が短いことが原因なのか、リスベットの信条的な部分やミカエルの関係について、気持ちが伝わるような描写が少なかったことがより「単なるスパイ映画」になってしまっている要因のひとつではないかと思いました。

 例えばD・フィンチャー版『ドラゴン・タトゥーの女』では、リスベットのところへやってきたミカエルが言った「女を殺した奴を捕まえる」という言葉に一瞬で表情が変わって態度を急変させたり、ミカエルがパレードの写真に着目したことについて「よく気づいた」とミカエルの能力を認めるところ、そして背中を触りながら画面を見るミカエルに「ずっと触ってて」と言う場面などから、リスベットのミカエルに対しての距離感が変化しているのを感じ取ることができました。最後のほうでの直接的な台詞や行動(「今晩、予定は?」と誘ったりプレゼントを買うなど)だけでなく、こういった描写があることで見る側はより感情移入していけると思うのですが、今作ではそういった場面が少なかったのが残念でした。

 前作の終盤、ヴェンネルストレムを嵌めるための資金をミカエルに借りるにあたり、その目的は言わず「安全な投資に」使い「必ず返却する」という、かなり曖昧なお願いだったにも関わらず、全財産の8割近い大金を理由も聞かずそして疑いもせず、あっさりと「いいよ」と言ったミカエルに一瞬たじろぐという、割とあっさりしていたこの場面の中に「この人は自分を本当に信じてくれているんだ」と、リスベットが実感し嬉しく感じているのが伝わってきて個人的にすごく好きなシーンなのですが、そういった繊細な場面もあまりなかったのかなぁと。あとこれは関係ないのかもしれませんが、ハッカー仲間と一緒にロンドンへ向かう飛行機で、目を覚ましたミカエルをちらっと見るところとかも。

 少しネタバレになりますが、一応今作の中でも、背中に負った傷をハッカー仲間には触らせないけどミカエルには処置を委ねるところであったり、ある場面でミカエルのことを最優先するといったシーンは出てきますので、リスベットの心の描写が全くないわけではないんですけど…でも今イチぐっと伝わってくるようなものがないんですよね。。

 また、リスベット(と妹カミラ)の父親は彼女たちに一体何をしようとしていたのか、何をしたのかについての描写がなく、セリフでの説明すらなかったので(ぼかした発言のみ)リスベットがなぜこのような人間になったのか、どうしてこの姉妹にここまでの確執があるのかが伝わってこないのもストーリーに深みがない理由のひとつかと。

 暴力シーンやグロ描写も入れているんだから、その辺も描かないとまるで意味がないような…

 

ブレランと全然違う…
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その他の登場人物について

 リスベットの双子の妹・カミラ役を演じたのは、『ブレードランナー2049でボスキャラとなった女レプリカントのラブを演じたシルヴィア・フークス。帰宅してパンフレットを読むまで全く気付きませんでした。。

 

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 やっぱり西洋人は金髪にして眉毛を脱色するとそれだけでまるっきり別人になれてしまうところが役者として得だよなぁと、この人を見てつくづく思いました。

 これがもし日本人だったら(極々少数の例外を除いて)金髪は人工的なものでしかなく、単に同じ人間が見た目を変えただけ──となってしまいますが、向こうの人たちはもともと髪の色や目の色にバリエーションがあるから、そこを変えるだけで自然に別の人間になれますもんね。

 あとカミラの部下の怖い男で“毒殺者”の異名をもつ金髪の男は『ミレニアム 火と戯れる女』に登場したリスベットの異母兄妹・ニーダーマンじゃね?と思いながら見ていたんですが違うようでした(笑)。

 

どうみてもニーダーマンだろ…
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まとめ

 というわけでおそらくは厳しい意見が多くなると思われる今作ですが、あまり過去作に引き摺られずにフラットな目で見れば(それが無理なのは百も承知ですw)それなりに楽しめる映画なのではないかと。

 ってか何故『火と戯れる女』にしなかった………

 「Rotten Tomatoes」のレビューをちらっと読んでみましたが(自動翻訳と合わせてw)、いろんな理由・事情があってこうなったようなので、少なくともキャストについて「前と違うからダメ!」というのはやめてほしいところですが…ま〜でもやっぱり続編は『火と戯れる女』にするべきでしたね。。。

 

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