【レオス・カラックス】映画『ポーラX』──公開から20年。②原作・関連書籍も絡めて振り返る【本棚通信⑧】

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“アレックス三部作”との違い

 『ポンヌフの恋人』から8年が過ぎ、自身の分身とでも言うべきアレックスの物語を終え(レオス・カラックスの本名はアレックス・デュポン)それまでとは違う新たな物語をこの『ポーラX』で描くことになったわけですが、結局はこの『ポーラX』もまた、カラックス自身の中に昔からあった大切な一部分を映画にしたものであった──というところが、私がこの映画を“アレックス三部作”と同じように、というかそれ以上に好きな理由のひとつなのかもしれません。

 先にも書いたように、『ポーラX』は原作となった小説にかなり忠実に作られた映画ではあるものの、主人公ピエールの独特の堕ちてゆくさまであったり、イザベル、そしてイザベルと出会ってからのピエールの、この世界との決定的な不調和みたいなものは「レオス・カラックスの映画そのもの」といった印象を受けます。

 

 ですがやはり『ポーラX』と“アレックス三部作”との違いは至るところに存在します。

 

いくつかの文献から引用すると、

 

(略)~ このふたりの関係の曖昧さ、謎めいた関係は、ピエールではなくイザベルの存在からきている。イザベルは光のなかにいるピエールの背後から現れ、漆黒の森の闇のなかでピエールと出会う。不思議なことだが、『ポーラX』にもレオス・カラックスのほかの作品と同じように夜のシーンが多く見られるが、ここでは夜の世界よりも闇のイメージが強く印象づけられる。おそらくその最大の理由は、イザベルの黒髪やくすんだ服装とともに、イザベルがピエールと出会う森の闇がつきまとうためかもしれない。それほど光の世界とは対照的な闇がイザベルにつきまとい、彼女の謎めいた存在を強めている。そして、それが『ポーラX』全体を覆っているのである。

 もっともこの闇から由来する謎めいた雰囲気は『汚れた血』のように映画のジャンルとしての探偵ものに漂う雰囲気とは決して同じものではない。むしろそれはこれまでのレオス・カラックスの作品には決して見られなかった宗教的な香りがする。実際、この『ポーラX』においてピエールとイザベルを中心とする人間関係で最も重要なセリフとして語られるのは、「信じること」という言葉である。この「信じること」は、ほかの理由が入る余地など決してない、それだけで充足する言葉である。そのため、あらゆる宗教心の根拠となりうる唯一の言葉でもある。その言葉をピエールは堕ちていくなかで何度も口にするのだ。

(『ポーラX』パンフレットより)

 

──以前のアレックスたちは助走する場として、夜のストリートや、工事中の橋や、地下鉄の街路などが与えられていましたが、ピエールには助走は用意されず、替わりにひたすら階段を昇ったり降りたりを強いられます。この助走の無さゆえに視界が遮られてゆくのでしょうか?

そういえば、こんなに階段を登場させるのははじめてですね。シャトーにも鉄の階段と自我の階段がありましたし。その時は気づかなかったけれど、これら三つの階段(シャトー、ホテル、倉庫)を撮るのは楽しかった。ギョームが階段を駆けているのを撮るのが好きだったのかも。確かにピエールはいつも階段を登っていますね。

──歩道橋もありますよ。

そう、変わったことについて言えば、以前の作品は出会いから映画が始まっていて、今回は出会い以前の生を見せているということがあります。それから、ピエールは両親の姿が見える最初の登場人物ですね。以前は想像させたり、孤児かもしれないと暗示するだけだったけれど。それから、ピエールとイザベルの間には距離が全くありません。以前は距離が存在し、アレックスは女たちに辿り着かなければいけませんでした。でも『ポーラX』では、女性は彼自身の中にいる。それが真の意味での近親相姦なのです。ピエールは決してイザベルに向かって走りません。

(『STUDIO VOICE』1999年11月号より)

 

 なるほど……たしかにアレックスはいつも愛する女に向かって自分が辿り着こうとしていたけど、ピエールはイザベルに向かって走ることはありませんでした。

 またアレックスは愛する女に向かっていった結果、それぞれ何かを決定的に間違えてしまうのですが(抱きしめる瞬間を誤る、愛する女そのものを見間違える、女を想って取った行動が第三者の命を奪うことになる、など)、ピエールは愛する女のためではなく、自分の中にある何かのために大きな決断をして人生を変えていきますが、その行動のどれもが裏目に出てしまい、自分と周りの全てを傷付けていってしまいます。(動物園で女の子へかけた言葉も含めて)

 というわけで『ポーラX』を関連書籍などから振り返る、レビューの前半は以上となります。

 第3・4回目の感想編(イザベル擁護の立場からw)も宜しければぜひどうぞ。

【レオス・カラックス】映画『ポーラX』──公開から20年。③「感想、または諸々の曖昧さ」【わが心のイザベル】
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【レオス・カラックス】映画『ポーラX』──公開から20年。④「尊き天使(みつかい)と悪しき天使、そしておわり」【さよならカテリーナさん】
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