映画『恋する惑星』──「制服が似合うね」「私服もすてきよ」【本棚通信⑥】一部追記・修正版

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「すれ違い」の前半パートと「入れ替わり」の後半パート

 この『恋する惑星』は、2つの物語がそれぞれの要素・特徴が反映されながら展開していく作品であるように感じました。その要素・特徴とは

「すれ違い」と「入れ替わり」

 です。

 前半パートでは様々な人が「すれ違う」ことによって事態が急展開したり、誰かとの関係が始まったり始まらなかったりします。また前半パートでは、この「すれ違い」現象をうまく使って後半パートの主人公をちらっと登場させたりしているところも面白いところです。

 金城武が演じる刑事223号(モウ)と“金髪の女”との関係以外に目を向けても、まず223号は電話をかける相手や「MIDNIGHT EXPRESS」のメイなど、女性とはことごとくすれ違いとなって何も起こりません。

 そして金髪の女も、彼女が仕事で関わる者たちとは(逃げる側と追いかける側であることが多い)やはりすれ違いとなって相手を見つけられず、取り逃してしまいます。なお最後は自分自身が決着をつけて逃げることに成功し、追っ手は金髪の女を取り逃がします。

 

 そして後半パートでは「入れ替わり」が警官633号とフェイの人生を大きく変えていくことになります。

 633号とフェイは、どちらも別方向のベクトルで「普通とは言い難い」個性をもつふたりですが(笑)、面白いように噛み合いません。それぞれが存在している場所(家や職場)、想いを寄せる相手、着ている服や部屋の内装、向かった先など、多くの物事が「入れ替わって」いきながらも噛み合うことなく時間は過ぎてゆきます。それから1年後にお互いの居場所・立場が入れ替わって再会したとき、ようやくふたりの関係が始まっていくのでした。

前半パートでの「すれ違い」

 映画冒頭で“刑事223号”が紙袋を被った男を追いかけている途中、“金髪の女”とすれ違います。

「その時彼女との距離は0.1ミリ。57時間後、僕は彼女に恋をした」

 空港から逃げたインド人たちの情報を得た金髪の女がおもちゃ屋に佇んでいると、中から大きなトラのぬいぐるみを抱えた“フェイ”が現れ、立ち去っていきます。

※このとき持っていたトラのぬいぐるみは、のちに“警官633号”の部屋に置かれることに

 

 元恋人のメイに電話したら知らない男が出たことでショックを受けた刑事223号。電話を切り雄叫びを上げながら、もう動いていないエスカレーターを一気に駆け上がっていきます。するとその上にある踊り場には警官633号の姿が。

 

前半パートのラスト、「MIDNIGHT EXPRESS」の店先でフェイとすれ違う刑事223号

「その時ふたりの距離は0.1ミリ。6時間後、彼女は別の男に恋をした」

 

後半パートでの「入れ替わり」

 フェイと警官633号のふたりが出会ったとき、633号にはスチュワーデスの彼女がいました。彼はその彼女のためにフェイが働く「MIDNIGHT EXPRESS」でいつもサラダを買っていきましたが、商売上手な店主のアドバイス(?)に従って買っていくものが次々と変化していきます

 のちにスチュワーデスの彼女は633号の元を離れますが、なかなかその現実を受け入れることが出来ないため、633号の心の中にフェイの居場所はまだありません

 そのスチュワーデスの元彼女が手紙を持って「MIDNIGHT EXPRESS」に現れたとき、633号はシフトが入れ替わっていて非番でした。部屋の鍵が入った手紙を直接渡せなかった元彼女がその手紙を店に預けたことで、633号宅の鍵の所有者がここで(勝手にw)フェイに入れ替わります

 その後、633号の部屋に何度も忍び込むフェイは部屋中を勝手に模様替えし、様々なものが入れ替わっていきます。部屋の内装のみならず、着るものから食べ物の中身まで入れ替えられているというのに、当の633号はその変化を「彼女がいなくなったことによるもの」という謎認識で済ませる始末(笑)。またこの時期633号は持ち場が変わったため「MIDNIGHT EXPRESS」でふたりが顔を合わせる機会はなくなっていました。

 ある日、いつものように部屋に忍び込もうとするフェイは部屋の中にいた633号と鉢合わせに。足が動かなくなり逃げられなかったフェイは633号にマッサージしてもらうことになるのですが、その後ふたりで居眠りするというのんきな展開へ(笑)。

 普通であればこの辺が潮時と思って忍び込むのをやめるところなのでしょうが、まるでその気配がないフェイはついに部屋にいるところを633号に見つかってしまい、その現場に踏み込まれます。(…って踏み込むも何も633号は自分の部屋へ戻っただけですがw)

 フェイはどうにか逃げることに成功。一方フェイを意識するようになった633号はようやく元彼女のことを吹っ切ることとなり、店へ行って手紙を受け取りフェイにデートを申し込みます。

 「新しい飛行機の着陸に備えて」部屋の大掃除をし、スチュワーデスの制服を片付ける633号。これまではフェイが勝手に自宅に侵入していましたが、ここで初めて彼はフェイを迎え入れるようと動き出します。それは633号の心の中にあった元彼女のための居場所がフェイのものへと変わったことを意味します。

 かたやずっと片思いしていた633号から逆にデートに誘われたフェイはというと、なんとデート当日に「MIDNIGHT EXPRESS」の店主に手紙を託し、633号と会わずにどこかへ消えてしまいます

 ふたりがデートの約束をした店の名前は「カリフォルニア」ですが、フェイが行ったのは本物のカリフォルニア追いかけていた者が逆に相手から追いかけられる立場へと入れ替わり、ついにお互いの心が噛み合うのかと思いきや……フェイが向かったところは「同じ名前の全く別の場所」でした。

 それから1年後、ふたりは再会します。フェイは633号の元カノと同じスチュワーデスになっており、633号は警官時代の常連でフェイが働いていた「MIDNIGHT EXPRESS」を買い取って自身が店主となっていました。

 かつて制服姿で店に現れていた男と、店のカウンターに立っていた女は1年後、店のカウンターに立つ男と制服姿で現れる女とに入れ替わっていました。そしてこの再会から、ようやくふたりの物語は始まることになるのでした──

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