映画『リトル・ヴォイス』(’98)──周りの毒っ気はもう少し控えめでもよかったかも【ジェーン・ホロックス】

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最後にようやく自分の中の怒りを解放する「ローラ」

 ジェーン・ホロックスさんの歌の才能が存分に発揮されているシーンはもちろん大きな見どころではありますが、一番グッときたのは壊れたレコードを前にしてようやく自分の中にずっと閉じ込めていた怒りを彼女が解放した場面です。

 ビリーによって彼女は外の世界に連れ出してもらいましたが、閉じ込めていたのは自身の身体/存在だけではなかったことがここで初めて明らかになります。

 彼女にとって唯一の大切なもの──大好きだった父の形見であるレコードを全て失い(しかも火事で失ったのではなく、父の写真を入れていた額縁もろともマリーによって壊されていた)、悲しさや怒り、悔しさや絶望感が爆発して絶叫するLV。

 もう我慢しなくていい、この感情すら抑えてしまったら自身の心が壊れてしまう……と、見ているこちらが辛くなってきます。

 それなのに、彼女はこの怒りや悲しみが頂点に達したこの瞬間ですら、その絶叫の叫び声を外へ吐き出さず、内側に留めようとするのでした。

 なぜならLVは今までずっとそうやって自身の本当の感情を抑えて、鳥かごの中の鳥のように自分の世界に閉じこもって生きてきたからです。自分の中にある大切なものを傷付けられないようにするため、彼女は閉じこもることでそれを守ってきたのでしょう。

 ですがそんなLVの、最後の絶叫すらも内に抑えようとする健気な心を、レコードを壊した張本人であるマリーはいつもの軽口で踏みにじるのでした。

 そのマリーのひと言がトリガーとなり、そこでようやくLVは今までずっと抑えてきた感情を爆発させます。

 このシーンは映画の中で非常に重要な場面ですから、個人的にはもう少し起伏を持たせてエモーショナルな場面にしてもよかったんじゃないかなぁと思っているのですが、どうでしょうか。セリフもすごくいいですし。

 

 

マリー:どうしたの 舌を抜かれた?

 

(このひと言で完全にブチ切れるLV)

 

「!!!!!!!(絶叫)」

 

「!!!!!!!(絶叫)」

 

 

よく聞くのよ!

パパはあんたがひどい仕打ちで早死にさせたのよ!!!

 

男を作って

怒鳴り散らして 仲間と騒いで

 

幾晩も

幾晩も幾晩も

幾晩も幾晩も幾晩も

 

パパを無視した

 

 

レコードを聞く時 パパは輝いていた──

あんたのケバさとは違う 静かな光を放ってた──

 

 

パパの無口は あんたが口を貸さないから──

 

 

私が無口なのは──

 

 

あんたにやり込められるからよ!!!!!

 

 そしてこのあと、彼女自身の言葉で私たちはようやく彼女の本当の名前が「ローラ」であることを知ることとなります。

 自分の中に閉じ込めていた怒りを全て吐き出したことにより、彼女は鳥かごの中で閉じこもって生きてきたそれまでの自分(=「LV」と呼ばれていた自分)とついに決別し、「ローラ」として自らの意志で外の世界に出ていくのでした。

 人はある程度の期間だけなら、何かを我慢したり自分を抑え苦しさや悲しさに耐えて生きることは可能でしょうが、何年もの間(しかもいつそれが終わるのか分からないまま)耐えて生きていくのは非常に困難であると思います。

 LVが部屋に閉じこもるようになってどれくらいの年月が経っていたのかは不明ですが、父親の姿が現在のマリーと比べて若く見えること、LVという名前が母子の間ですっかり定着していること、あの生活が完全に日常となっているところからして年単位であろうことが想像できます。

 長い間ずっと自分を抑えて我慢してきた人がついに自分の感情を解放する──そのとき放出される爆発的なエネルギーはすさまじいものがあり、見ているこちら側も全部出し切ったあとの高揚感のようなものを感じます。ストーリー中の起伏という意味では頂点に当たるシーンですので、繰り返しになりますがもうちょっとだけエモくしてくれたらもっと良かったのに…と思ってしまいます。

 

コメディエンヌとしてのジェーン・ホロックス

 さて、ユアン・マクレガーやマイケル・ケインといった人たちと違って、主演のジェーン・ホロックスさんはこの映画でしか知らなかったので軽く調べてみたら『Absolutely Fabulous』というイギリスの人気コメディ番組に出演されていたということを知りました。この番組はレギュラーシリーズとスペシャル版を合わせて1992年から10年以上続いていたようで、2016年には映画化もされたようです。(日本ではネット配信での公開で、邦題は『ザッツ・ファビュラス!』とのこと)

 2012年にはMXテレビで第2シーズンまで放送されていたらしいのですが、私は2012年の上半期いっぱいで東京から引っ越してしまったのと、その頃テレビはニュース以外ほとんど見ていなかったため残念ながら一度も見たことはありませんでした。

 

2016年の映画より
出オチ感満載の出で立ち(笑)ですが独特の可愛らしさは相変わらずですね

 

 また1回だけだったようですが、彼女の冠番組『Never Mind the Horrocks』というコメディ番組が1996年に作られていて、『Absolutely Fabulous』と同様、YouTubeでその幾つかを見ることができます。何を言っているのか分からなくても結構面白いので(笑)、興味がある方は探してみてはいかがでしょうか。

 なお、この『Never Mind the Horrocks』というタイトルはもちろんセックス・ピストルズのあのアルバム名をもじったもので、この辺も中年世代への訴求ポイントとしてなかなか効いてるなと思いました(笑)。

 

 

 他にも2016年の映画『Absolutely Fabulous』の頃のインタビュー映像など、比較的最近のものも見ることができますが、50代になっても可愛らしさが残る良い年の取り方をされているなぁという印象です。

 というわけで、今作はかなり前に見て以来ずっと好きな映画だったのですが、今回レビューを書くにあたって初めて知ることもいろいろあって、自分自身よいインプットになりました。よいアウトプットになっているかは不明ですが(笑)。

 

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