「かつての自分」を投影できる映画
フランシスのダメな部分にばかり意識を向けてしまうとこの映画は楽しく感じられなくなりますが、親友ソフィーとの関係、ふたりの日々の描写などは実に素晴らしくて共感できるとともに、
昔は自分にもこんな時期があったっけ…
と懐かしく思えてきたりもします。もちろんシチュエーションは人それぞれ違うでしょうが、都会の中で親友と呼べる友達と自由を謳歌した楽しい日々──そういった思い出を持っている人はきっといるはず…
・趣味に時間とお金をかける余裕もそれなりにある
・多少忙しくても乗り越えられる若さがある
人生のある時期には、そんなちょっとした無敵感みたいなものを感じられる日々がやってくることがあります。
大人になりたて、社会人になりたての頃は日々の生活で手一杯だけど、それでも気付くと仕事や周りの人たちとの関係、社会の中での立ち振る舞い方などに慣れてきて、今まで知らなかった世の中のいろんな楽しみにアクセス出来るようになってきたり…。
ここでようやく自立と自由を実感し、自分の中にあるたくさんの可能性みたいなものが感じられて
あぁ…なんか今って楽しいかも
といったプチ絶頂期みたいなものが、20代~30代のある時期に訪れることがあるんですよね。その当時は「不足や不満ばっかりだよ」なんて思っていても、年をとって振り返ると「あの頃はなんでも出来た気がするな〜」と思えたりするものです。
プロのダンサーになることを夢見ているフランシスと、出版社で働くソフィー。裕福ではなくても好きなことをして暮らし、ときには羽目を外したりしながらNYという街での生活を満喫するふたり──
社会の中で自然と抱えていくことになる様々な責任から目を逸らしたまま、いつまでも今みたいに自由と若さを謳歌していけるわけじゃないってことは分かってる。でもそれはまだ先のこと──
そうやってやり過ごしていける時期が人生にはあるものです。
いいじゃないの、そんなふうに自由でテキトーに生きる日々があったって。自分にもそんな頃があったんだもの──
と、この映画を見てかつての自分を投影させて懐かしく感じたりしたのでした。
今作は最初はたったの4館だけの上映だったのが、口コミで評判が広がって233館へと拡大し異例の大ヒットとなったそうなのですが、「主人公フランシスの楽しそうなNYライフ」に共感し懐かしさを感じるのと同時に、彼女が挫折から立ち上がって成長する姿(大袈裟な展開じゃないところがポイント)に、映画を見た人がそれぞれ自身の人生を投影し、清々しい気分でフランシスの新しい人生を祝福できるところが大ヒットとなった要因のひとつなのかもしれません。
チラ裏から
チラシの裏面には以下のような紹介文が書かれています。
2013年、アメリカ中を熱狂させた不思議なタイトルの映画『フランシス・ハ』。公開されるや否やNYタイムズ、LAタイムズなどの辛口批評家筋から絶賛され、ウディ・アレンが賛辞を送り、タランティーノが“2013年の映画ベスト10”に選出するなど、多くの映画ファンを魅了してやまない快作ついに日本上陸!(以下略)
フランシスの変化と成長は実に清々しく、映画の最後は幸せな気分になれるものでした。
ですが実を言うと、最初に見たときは正直そんなに好きになれませんでした(笑)。その理由のひとつがこの紹介文を読んで分かったような気がします。
ファンの人には大変申し訳ないのですが、ウディ・アレンの軽妙さみたいなのが好きじゃないんですよねぇ…
この『フランシス・ハ』も、主人公の悪い癖である「話している相手に負けたくなくていちいち嘘をついたり虚勢を張ってしまう」ところが全然共感できなかったんだけど、映画の見せ方的にその共感できないところを肯定・容認して描いているような感じがしてイヤだったのかもしれません。
最後にはそのイヤな感じが全部ひっくり返って、むしろ27歳でちゃんと自分に向き合って変わることができたフランシスを尊敬できたりもするのですが、1回目の鑑賞では最後の展開がやや急だったせいか、彼女の成長と成功への祝福の気持ちが自分の中で追いつかず、見終わって本当に幸せな気分になれたのは2回目の鑑賞でのことでした。まぁそんなことはどうでもいいんですが(笑)
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