「あのシーン」について
さて、このレビューの本題はここからです(笑)。
とにもかくにも、最初に見たときは内容うんぬんの前に「あのシーン」がひたすら気になって仕方がありませんでした。
なんじゃこりゃ
と。どういう意図でこれをやったのか、まずそこを知りたかったんですよね。
好きだから純粋にオマージュとして取り入れたのか、はたまたそれ以上の何か理由があったのか、それとも単にいいなと思ったから「ノリで」マネしてみただけなのか…(さすがにそれはないだろうけどw)
「あのシーン」とはもちろん、引っ越し先が決まってテンションの上がった主人公フランシスが
のことです。「駆け抜ける」というほどのものでもなく、ただ
といった軽い感じなのがまた気になるんですよ(笑)。
そんな楽しげな小走りにこの曲と水平移動の映像を使っていいのか、と。
というのもこの
というシチュエーションは、レオス・カラックス監督の「アレックス青春三部作」の2作目『汚れた血』の中の大変有名なシーンであるからです。
本家のほうは、生き急ぐ若者の内なる衝動や持っていきようのない感情、ノーフューチャーな人生へのやり切れなさといった様々な湧き上がる思いがあの真夜中の疾走シーンに表現されていて、最高にカッコいい現代映画の名シーンのひとつとして、公開から30数年が経った今もなお語り継がれています。
ですが当時(少なくとも次作の『ポンヌフの恋人』が公開された頃までは)このシーンは、映画全体の流れからしてもあまりに唐突な『モダン・ラブ』の挿入に対して「たしかにカッコいいかもしれないけどさぁ…」と、軽く失笑まじりに語られるような、そんな反応が多かったのでした。
デヴィッド・ボウイの曲を使うにしても「なんでこの曲なんだよw」というツッコミもかなりあって、なるほど言われてみればたしかに唐突かもしれないな…と思った記憶があります。ただしそれは単に自分が周りの意見に流されてしまっただけで本心は大好きなシーンだったのですが。
ちなみにDVDのジャケットはロゴとジュリエット・ビノシュ扮するアンナが手を広げて走るシーンの組み合わせで、これはポスターなどのビジュアルイメージと同様に統一されたデザインですが、ここにわざわざ小さめにアレックスの疾走シーンの画像も加えられています。
アンナが走るシーンはストーリー上でも大変重要な場面ですが、アレックスのこの疾走シーンは直接ストーリーに繋がってくるものではない場面。そんな場面の写真をジャケに入れているという点からしても、このシーンがいかにこの映画を象徴するものであるかが窺い知れます。というかレオス・カラックス映画の中で最も印象的な1シーンを選べと言われたら、かなりの数の人がこの場面を選ぶのではないかと…。
と、そんな有名なシーンを思いっきり踏襲している『フランシス・ハ』での「あの」シーン」。
本家『汚れた血』では、唐突とは言っても『モダン・ラブ』が流れる過程がちゃんとあって、さらにドニ・ラヴァン扮するアレックスが走り出すまでの流れもちゃんとあるのに対し、この『フランシス・ハ』ではそういったものがほとんど存在せず、簡単に言ってしまえば
ので、これはもう明らかに『汚れた血』を意識して作られたのは100%間違いなさそうです。しかもご丁寧に「唐突に終わる」というところまで踏襲しているという(笑)。
フランシスの上機嫌さとお気楽感をこのシーンで表現するだけだったらもっと他の曲のほうが絶対に合っているはず。
そもそも『モダン・ラブ』が全然NYっぽくないですし、フランシスはバレエをやっている女性で、さらには(うまくいってないけど)悲壮感のないテキトーな人生を送っているという、曲の雰囲気とはまるで噛み合ない主人公なんですよね(笑)。
もちろん監督や脚本(フランシス役のグレタ・ガーウィグは脚本も兼任)の面々もそのミスマッチ感は重々分かっていて、それでも取り入れたのだろうことは想像に難くありません。となるとやっぱり
とにかく好きだったからやりました
ってことなんでしょうか(笑)。
私は最初に見たときは、上にも書いたようにとにかく「なんじゃこりゃw」という印象でした。「おいおいおい」と。
ですが最後、あのテキトー女だったフランシスが地に足つけた生活を送ることで本当の意味での自立を果たし、さらに自分自身でも気付いていなかった才能を見つけ、ダンサーとは違う新たな活動を始めて結果を出していくという、とても気持ちのいいエンディングを知った後でもう一度見てみると、この唐突な『モダン・ラブ』のシーンも好意的に受け止められるようになっていました。
なんというか微笑ましいというか、この場面の「借り物感」が(この時点ではまだ)テキトー生活を送っているフランシスにはよくお似合い──とでもいいますか…。
あとよく見てみると両手をハの字に開いてふわふわと走る姿がなんか憎めなくて可愛いんですよね(笑)。
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