大人もわかってくれない
バイは母親のことですでにいっぱいいっぱいで、心に余裕なんて全くない状態。それでも親友や好きな男の子の存在もあって明るさを保って暮らしていましたが、その親友と(実は両想いの)好きな男の子とのことで深く傷付くことになってしまいます。
純粋さと潔癖さが、現実とまだうまく折り合わない十代の最も多感な時期に、最も起きてほしくないタイプの裏切り(実際はそういうわけでもないのですが)に遭い、ボロボロの心で、すがる思いで母と離婚して今は上海に暮らす父に電話したのに、返ってきた声は全く話に聞いていなかった、まだ幼い腹違いの弟のものでした。
一般的に高校生くらいの時期は、人間関係の問題について大人を頼ったりはしないものです。それでも疎遠の父に連絡を取るなんていうことはよっぽどの事なわけです。唯一何でも話せる存在の親友に裏切られ、仲の良い母親は昏睡状態…。どこにも助けを求める場所がなくて最後にすがった父親(=子どもにとっては無条件で味方でいてくれるはずの存在)であったのに、別れた元妻を見舞いに台湾へやって来て、娘に通帳とケータイを渡して「一緒に上海で暮らそう」と言ってくれたその父が、とっくに新しい家庭を持って子どもまでいたなんて……
自分の好きな男子が自分の親友とこっそりやらしいことをしてたのを見てしまい、心底傷付いて人間不信になりそうなときにすがった相手(父)も、口では優しいことを言っておきながらしっかり次の相手と子ども作ってました──という事実。
これはあまりにも辛い。見ていて本当に心が痛くなる場面です。親友や男友達はともかく、大人が、親が止めを刺してどうするのか、と。
がしかし、ひとしきり泣いて思い出したようにコンタクトを取った相手──まだ見ぬ謎の男リン・クーミンこそが実は、自身の傷付いた心を解ってあげられる存在だったのでした。なぜなら彼もバイと同じ17才のとき、純粋であるが故に大人の汚れた姿(少なくとも思春期の純愛まっしぐらの少年にはそう見える)に傷付き、人生を大きく変えてしまう事件を起こした経験を持つ男であったのです。
この、リン・クーミンとバイがそれぞれ経験したことの関連性についての描写や説明は特にありませんが、こういう回収のされ方で報われていく話は大好きです。悪いことは何もしていないのに、何かの選択をほんの少しだけ間違ったことで大切な何かを失ってしまった──という経験はおそらく誰にでもあり、そしてそこで失ったものは大抵の場合取り戻すことはできません。だからこそリン・クーミンとワン・レイの二人には、この物語に続きがあってほしいと願い、バイにも17歳としての幸せな生活を送ってほしいと思うのです。
風とともに去らず
手紙を渡したリンは、走り去るワンにこう言います。
「返事 待ってるからな!」
返事をもらう前に、リンは学校を去り、ワンの前から姿を消しました。
母とリンを会わせた日、話の流れからバイはリンにある提案をします。言葉が出てこないでいるリンに、バイはこう言って去っていきます。
「返事 待ってるね!」
かつて自分が投げた問いの答えを受け取る前に去っていった少年が、30年後にようやく受け取ったのは、その娘による“代理の告白”という返事だったのでした。
これまでずっとセピア調で描かれていた82年の台北・そして彼らと彼女たちが、エンドロールでは美しい色彩で映し出されます。
木漏れ日、土の上に落ちる雫、校庭に写る少女たちの影、天気雨、真っ赤な傘、水たまり、夕日とレコード、風に揺れる木々を見ながらしばらく佇む4人の少女──
遠い思い出でしかなかった過去がはっきりと色を帯びて蘇ってきた今、エンドロールが次の物語の始まりに変わることを願ってやまないおじさん(私)なのでありました(笑)。
comment