映画『ドリームハウス』──ホラーや超常現象系ではありません【考察】

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リビーと娘たちは妄想だったのか? その1

 妻と子ども2人を殺した容疑者がウィル自身だったという事実。(犯人ではなく「容疑者」)

 

 ピーターは抵抗した妻が撃った弾が頭に当たったことで事件のときの記憶がなく、また愛する家族が殺された(自分が殺した?)ことに対するショックで精神を病んでしまいます。

 その苦しみから逃れるために別の人格ウィル・エイテンテンという人物)と、本当は5年前に殺されてしまった家族といま幸せに暮らしているという設定を作り、ウィルとして生きることで精神を保とうとしているという現実は、見ていてとても痛々しいものがあります。

 となるとこれは心を病んでしまった男の妄想の物語なのか? 美しい妻リビーも愛らしい娘たちも皆、ピーターの妄想の世界にいる存在なのだろうか──(妻と子どもがもともと存在していなかった、という意味ではありません)

 と考えてしまいますがクライマックスの一部のシーンを見ると、あながちそうとも言い切れないことに気付きます。

 家に火を放ったジャックが銃でピーターを殺そうとする場面──ここで「ピーターの妄想/記憶の中だけの存在」であるはずのリビーが、ピーターと逆の方向にぶら下がっていた何かを揺らして物音を立て、ジャックの注意をそちらに向けるという

 

現実の世界への干渉

 

が行われました。そして実際にジャックはその方向に発砲しています。

 これはつまり「今ここにいるリビーはピーターの妄想ではなかった」ということになります。

 では彼女は何だったのでしょう。…ということになりますよね。

 ということを考えると、このときのリビーは

 

「霊的な存在(のようなもの)として、そこにいた」

 

 とは考えられないでしょうか。

 この場面以外でのリビーと娘たちは、たしかにピーターの妄想だったのかもしれません。ですが少なくともジャックが襲撃してきたこの夜のリビーは、単なる妄想ではなく「そういう存在」だったと考えられないこともないような。

 これについては後半でまた触れます。

ウィルと関わる人々

 映画を見終わってから考えてみると、それまでのどの場面が

 

ピーターの妄想の世界で、現実の設定・状況とは違うもの

 

 であり、どの場面が

 

ピーターだけが自分をウィルだと思っているが、状況・設定ともに現実の世界

 

 であるのかが少し分かりづらいように思えますので、この辺りを検証していくことにします。

 

ピーターの妄想の世界→出版社のシーン

 冒頭の「ウィルが出版社を退社する場面」は、ピーターの妄想の世界であり、現実の世界ではありません。

 

 ここでの場面はピーターが施設を退居したときのことを、ウィルとしての人格で脳内置き換えをしていたのだろうと思われますが、実際に退居した日と冒頭の日にちが同じかどうかは定かではありません。

 またピーターの事件前の職業についても、実際に編集者として働いていたのかもしれませんし、その記憶がこの妄想の元になっている可能性は高いとは思われますが、とりあえずそういった「事件前のピーターの職業を示す描写」は映画内にはありません。

 というわけでこの出版社でのシーンですが、まずこの場面に出てくる人たちはみな施設に入っている人や先生、警備員などであることが分かります。

 細かくチェックしていけば皆当てはまるのでしょうが、すぐに分かる人物だけ取り上げてみても次のことが判明します。

・「陰鬱なGPHから脱出する最高の編集者に乾杯!」と声をかける太った女性

・ウィルを囲む輪の中から「名残惜しいです」と声をかける若い女性

 このふたりは、施設へ行ったウィル/ピーターが通路を歩いているときに室内から金網ごしに

 

「本はどう?」

「私、出てる?」

 

 と彼に声をかけたふたりです。

 またこの太った女性が言う「陰鬱なGPH」とは、妄想の世界では「GPH出版社」ですが実際は

 

GreenHeaven Psychiatric Hospital(グリーンヘブン精神医療施設)

 

 のことです。「陰鬱な」「脱出する」という言葉もここに繋がります。

 さらに出版社で食べ物などを運んでいた長身の黒人男性・トミーも施設にいる男で、妄想の世界でも施設の中でもピーターのことを「ミスターA」と呼んでいます。(A=Will Atenton

 なお彼はウィルに「ここに住んでるのかと思った」とも言っています。

 

 その他、部下らしき男性ふたりを連れたアジア人女性も登場しますが、彼女はウィルに声はかけません。彼女も施設におり、施設ではウィル/ピーターに声をかけるのですが英語ではないので何を言っているのか分かりません。

 そして出版社を出たウィルが入り口の前で立ち話をし、彼に名刺を渡した白髪の女性は実際には施設の担当医であるDr. グリーリーでした。(のちに隣人のアンがウィル/ピーターの洗濯物の中から見つけた名刺は彼女のもの)

 もちろん、先にも書いたようにジャックが襲ってきたとき以外の妻と娘たちとの場面も、ピーターによる妄想の世界であると思われます。

場面としては現実の世界 その1

 冒頭の出版社を退職する場面から先は、基本的に全て「ピーターは自分のことを“ウィル”だと思って振る舞っているが、場面そのものは現実の世界」であると思われます。

 

 駅に着いたウィルを家まで送ったヘザーとの場面は、駅でのふたりの会話を聞き直してもどういった設定なのかは自分では確定できませんでした。

 過去に(ピーターとして)家を購入したときにお世話になった女性なのであれば、彼のことを「ウィル・エイテンテン」と呼んでいる意味がよく分からず、出版社のシーンのように「出版社=施設の中」であることが人物によって証明されているわけでもありません。何か見落としているのかも……?

 ですがひとつ分かったのは、彼女がウィルの家を間違えるという描写は、のちにアンの元夫ジャックがアン殺しのために雇った男ボイスが殺す相手の家を間違ったことへの伏線で、車でウィルを送っていく場面にわざわざ上空からの映像が挟まれていることから、

 

この辺りの家の並びは間違えやすい

 

 ということを暗示しているようです。

 家の前で隣人のアンとその娘クロエ、アンの元夫ジャックと顔を合わせる場面は、彼らの様子から現実であることが分かります。ピーターだけが妄想の世界でウィルとして振る舞っています。

© 2011 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.

 誰かが家を覗いていた形跡を発見したり、地下室に勝手に入り込んだ少年少女たちとの場面も同様。このときひとりの少年が

 

「奴が戻った」

 

 と何度も言っています。またその直前に捕まった少女がウィルに

 

「空き家でしょ」

 

 と言っていることも、現実の世界ではここは廃墟であることを物語っています。

 そしてその翌日、カフェにいた警官2人にウィルが話を聞き出そうとした場面でも、警官やカフェの主人、他の客の表情から彼らが事情を察していることが分かります。

 つまり今「一家が殺された事件について教えてくれ」と詰め寄っている男がその事件の張本人であり、精神を病んでいることを知っていてそのような複雑な表情と対応をしている──ということです。

 アンの家を尋ねたときのアンとクロエ母娘の対応、アンがウィルの家に来たときにリビーが挨拶に降りて来なかったこと、不審者が逃げたあとでやって来た警官たちの対応なども全て、ピーターがウィルの人格となって、存在しない家族と廃墟と化したかつての自宅にいることを察してのものでした。

場面としては現実の世界 その2

 不審者がやってきた日の昼間、GPHを退院した者が入る更生施設へ向かったウィルに、建物の外ですれ違った男が言った「よう 頑張れよ」という言葉、そしてその直後に入り口にいた男から言われた「ちゃんと返事してやれ」という言葉も、同じくこの施設に世話になっている男へ向かってかける言葉であることが、ウィル=ピーターであることを知ったあとなら分かります。

 なお受付にいた黒人女性はウィルに対して普通に接していたことについても、ちゃんと辻褄の合う設定がなされています。それは

 

ここは3日目だけど何度言わせるの」

 

 という彼女の台詞から読み取れます。彼女はこの施設で働いてまだ3日しか経っていないので、ウィル/ピーターとは面識がなかったことになります。

 そして不審者が逃げた翌日、グリーンヘブン精神医療施設を尋ねたウィルが自分の正体がピーターであることを知ったこの場面。

 自分の顔が映っている映像を見る前とあとでは、髪型も変わり、顔の老け方も全く違っていました。ここを境にウィルがピーターとして描かれることになります。

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