【ルイス・ブニュエル監督作】映画『ビリディアナ』──人間の身勝手さや罪深さにうんざりさせられる

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ブニュエル監督が無神論者になった理由を勝手に考える

 若く美しい修道女ビリディアナをめぐって起こる「人間の欲望」に基づく数々の行動・事件は、信仰を拠り所として慎ましく誠実に生きることが理想だとされていても、

 

人間なんていうものは、所詮は残酷なほど業にまみれた欲深く身勝手な生き物なのだ──

 

 ということを、見ていて気持ち悪くほど痛切に思い知らされます。

 もちろん人間の欲深さや身勝手さは「物欲・色欲」という面だけではなく、乞食たちの不義理な行動にも表されます。個人的にはこの乞食たちの裏切り(そして全く反省していない)のほうがドン・ハイメの行動よりも落胆させられ、そして嫌悪感を抱いてしまいました。無償の愛で自分たちを助けてくれた人に対して、そこまで平然と裏切れるものなのか、と…。

 

 この『ビリディアナ』のみならず『砂漠のシモン』を見ても感じたことですが、ルイス・ブニュエル監督が自身を無神論者であると言ったのは

キリスト教(カトリック)を最初から信じる気がなかった、または信じるに値しないものと考えていた

 のではなく、

最初は信じようとした、もしくはカトリックとはどのような教えなのかを理解できるところまで身を置いたものの、信仰と人間の本当の姿との間の矛盾や、人の欲深さ・罪深さみたいなものを一般の人々だけではなく聖職者たちからも見せつけられてしまった

 ためなのではないか──そのように思えてきます。まさに今作でのビリディアナのように。

 

© 1961 – Unión Industrial Cinematográfica (UNINCI)

 

 パンフレットに書いてあるブニュエル監督のプロフィールには

イエズス会付属のサルバドール校で厳格な教育を受けるが、試験監督官から侮辱されたのがきっかけで登校を拒否するようになる。その後、地元の非カトリック系中等学校を卒業。

 

 とあります。ということはやはり最初は信仰に根差した教育を受けていたようですね。登校拒否することになるきっかけ以外にも、きっと何かしら聖職者およびカトリックへの不信に繋がるような出来事もあったのではないでしょうか。

 その後身を置いた中等学校は非カトリック系とのことですが、周りの環境は(たとえ建前とか形骸化された口先だけのものであったとしても)習慣や倫理観などはカトリックの教えに根差した社会だったのでしょうから、その中で信仰の清らかさと実際の人間の不浄さとのギャップに心底嫌気がさして無神論者になったんじゃなかろうか──勝手な想像ですが、自分にはそのように思えました。

 またビリディアナが乞食たちと夕方のお祈りを捧げているときに、その祈りの言葉の全てを遮るかのように挿入される工事現場の騒音は明らかに見る側を不快な気持ちにさせるように作られていますが、敬虔な信徒の行いも他の謙虚ならざる者たちの行動によってことごとく踏みにじられる、ということを見せているように感じられます。この辺りの描写からも「信仰なんかで人のクズさが変えられるものか」とでも思っているかのような、一種の失望や諦めみたいなものをルイス・ブニュエルは持っているような、そんな気がしました。

 しつこいようですがあくまで個人的な感想です。「正しい道を行こうとするも、人のクズさやゲスさに失望し自身も闇落ちしてしまう」というのは現代でもよくある話ですし…

 

その他、配役に関する小ネタなど

 ところで、パンフレットに書いてあった情報のなかには他にも興味深いものがありました。以下引用です。

 

ブニュエルは出演者のなかでも、とりわけ後半に大勢登場する乞食たちの配役に細心の注意を払い、非職業俳優も起用した。たとえばそのうちの一人は本物の乞食(ハンセン氏病患者であることを疑われるホセを演じた人物)であり、小人の乞食を演じた人物も本職は富くじ売りだったと云われる。

 

 後半パートの乞食連中は皆出番もセリフも多かった印象ですが、その中でもホセは盲目の乞食に次いで目立っていたように思います。あの男が役者じゃなくて本物の乞食だったとは…。なかなかすごい歯だなぁと思って見ていたんですが本物だったんですね。。

 あとそういえばドン・ハイメのような年配の男性と若く美しい(血の繋がらない)親族関係の女との愛憎劇は、ブニュエル監督が1970年に発表したカトリーヌ・ドヌーヴ主演の『哀しみのトリスターナ』を連想させるものがありました。

 『皆殺しの天使』にはブルジョワへの皮肉、そして今作『ビリディアナ』と『砂漠のシモン』にはカトリック信仰とそれに対する人間の行いの愚かさ、といったようなものが込められているように感じられましたが、この3本の中ではこの『ビリディアナ』が一番現実的な物語となっていました(こんな内容なのに!)。

 他の2作のほうが現実離れした展開で、そういう意味では今作よりも面白かったのですが、この『ビリディアナ』のラストシーンでの不道徳感は妙にゾワッとするものがあって個人的にはとても印象的でした。テーブルに座らされてカードを持たされるときの困惑と不安が漂うビリディアナの表情が、最後カードゲームを始めようとするところでは場(とホルヘ)に流されて諦めがついたかのような、実に妖しげなものになっているんですよね。そりゃヴァチカンも怒りますわな……まぁ実際には「お前が言うな」ってやつなんですけど(笑)。

 

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