全部が「自分」だからどうにもならん
結末でデカい秘密が明らかになって「うわぁ…」となるような映画の場合、真実を知ってからもう一回映画を見てみると、
あ、だからあのときそういうことを言ってたのかー。
だからあのときあんな表情をしてたわけね…
なるほど、だからあんな行動を取ったんだな
といった具合に、実は映画の最初のほうから登場人物のセリフや行動、表情などに結末への布石が置かれていたり、後半以降に回収されていく伏線が最初のほうから張られていたことに気付かされたりしますよね。
今作でもオープニングで主人公が顔に大怪我を負って手術を受け、別人の姿となって最後の任務へ向かうまでのシーンであったり、前半パートでのバーテンダーとジョンとの会話にそういった「うわぁ…」ってなる描写が多く出てきます。
とくにバーテンダーがジョンにかける言葉は、ふたりが同一人物であることを知ってから聞くとなかなか辛いものが。。。
このときのバーテンダーは、店にやってきたジョンを自分の仕事の“跡継ぎ”(跡継ぎも何も……って話ですが)にすることですが、冒頭で任務に向かう前に組織のエージェントたちの前で宣誓しているところから、自分自身をこの悪夢のような輪廻に引きずり込む行為を「任務」として引き受けているのがやるせないんですよね。
どういう結果を招くのか知っていながら「自分は味方」という立場で近付き、対象をその道に引きずり込む──主人公にとっては悪魔のような存在のその男も、実は自分だったという…。そして引きずり込まれた主人公も、のちに同じことをするという救いのない永遠の循環……。
かといって任務に背いてジョンを過去へ送らなかったり、過去でジョンとジェーンを引き離さなかったとしたら、どちらの場合もバーテンダーは生まれないことになるので、結局は「主人公の人生には逃げ場とか抜け道なんてものはない」という結論に至ります。
やはり何が一番エグいって
ジェーンが産んだ赤ちゃんを過去へ置いてきたこと、そしてそれがジェーン本人であること
でしょうね…。このタイムラインを作られたらもうどうにもできねぇよ、っていう。。
あとバーのジュークボックスで客がかける曲の歌詞「俺は俺のおじいちゃん」というというのもまさに「うわぁ…」ですね。
自分の母親も自分。自分の父親も自分。
父親(自分)と母親(自分)を引き合わせたのも自分。
父親(自分)と母親(自分)を引き離したのも自分。
自分が産んだ子をさらったのも自分。
自分のことを理解してくれた人も自分。
自分のことを愛してくれた人も自分。
自分が愛した人も自分。
自分の人生を壊したと、憎んだその相手も自分。
死にそうな目に遭ったときに自分を助けたのも自分。
自分が追いかけていた事件の犯人も自分。
未来の自分を殺したのも自分。
永久機関かよ………
それはちょっと無理があるような…と思った箇所
もちろん、そもそもパラドックスから生まれた人間のストーリーなので、この世界のものさしで語れば矛盾する箇所だらけですが、そのなかでも
ジョンが若き日のジェーン(女性だったころの自分)の顔を覚えていないこと
ジェーンだったころに出会って愛した男が、今の自分だということにジョンが気付いていないこと
の2点が気になりました。
いちおう伏線として、ジェーンは少女時代のあるときから「鏡で自分の姿を見ることをやめた」という設定がありますが、それでも普通に化粧もしていたし、最低限の身だしなみを整えるためにも、日常生活の中で鏡を全く見ないなんていうことはありえないのだから、かつての自分の顔を覚えていないのは無理があります。
また1963年に出会い、お互い愛し合っていたはずなのに突然姿を消した男の顔と今の自分の顔が同じであることに、それから7年しか経っていない1970年時点のジョンが気付いていないのも不自然です。
というかこの場合、ジェーンが妊娠~出産から性転換を経て現在の姿になったあとのどこかの時点で
あれ、この顔ってあの男と同じだ…
と気付かないのはおかしいだろ、と。
ですがよくよく考えれば、タイムマシンが存在するなんてこと自体、かけらも想像していなかったでしょうし、ましてや過去に出会って愛した男は未来の自分だった、などという不条理極まりない展開なんて誰だって思いつくはずもないでしょうから、似ていると思ったとしても「皮肉なものだな…」程度にしか感じないだろうことは理解できます。
うぅむ…。となるとこれについてはそんなに矛盾しているわけではないのかもしれませんね。
あとこれは半分ネタとして言わせてもらいますが、バーテンダーにジョンが
「男たちが望むのはデカい胸と厚い唇」
「完璧な飾りさ 私にはない」
などとぬかしておりましたね。
…………。
いやそれお前のことだよw
それぐらいは気付けよw
っていう(笑)。
comment