余韻を残すエンディング
終盤からエンディングにかけては、美しい映像が続きます。
徹夜のレコーディングを終えて、カーステレオでの聴き具合を確認するという名目で海までドライブに行くご一行。いい大人が徹夜明けに朝日に照らされながら海で戯れる姿はなんとも微笑ましい(笑)。でもこういうときってすごく疲れてるんだけど、テンションが上がってて楽しいんですよねぇ。わかります。
結局二人が結ばれることはありませんでしたが、この出会いは二人にとってかけがえのないものとなったはずですし、恋人同士にならなかったからこそ残った絆みたいなものもあったでしょうから、こういう関係でお別れするのも素敵なのかなと思ったりもして。
ロンドンへ旅立つ前、“男”は“女”の家に立ち寄るが“女”は仕事に出かけていて不在。
いつも花を売っていたストリートや初めてセッションした楽器屋にも足を運ぶが彼女には会えない。
ここでかつて一緒の時間を過ごした場所を短くパン、パンと映していくカットが、リチャード・リンクレイター監督の『ビフォア~』3部作みたいでいいなぁと思いました。物語がエンディングを迎えるときのちょっとした寂しさと、素敵な映画を見たときの心地良い余韻みたいなものが味わえて、個人的にとても好きな場面のひとつです。
あと、これまでずっとドキュメンタリー風の撮り方で映画は進んでいたのが、エンディングで初めて違った撮影の手法をとっています。
“女”の家にピアノが届いたところ、そして“女”が家族に囲まれてピアノを弾きながら外を見る場面──高いところから撮っているカメラがそのまま引きのショットになっていって、建物~街のほうへとフォーカスしていきます。
“男”は故郷であるこの街を離れ、ロンドンへと旅立って行きましたが、逆にチェコからアイルランドへやってきて、ここダブリンに根を下ろし、今ようやく家族が揃って共に生きてゆくことになった“女”にとって、このダブリンという街が優しい場所であってほしいという願いが込められているかのような、暖かな日差しに包まれた美しい風景をバックに映画は終わります。
主演の二人はともに役者ではなく、その後も俳優としての活動はしていないようですが、どちらもそれを感じさせない素晴らしい演技だったように思います。グレン・ハンサードの好青年ぶりも良かったですが、とくにマルケタ・イルグロヴァの、嘘とか駆け引きみたいなものとは無縁の、真っすぐに相手に届くあの視線は、プロの役者ではないからこそ、出せたものなのかもしれないですね。
いやー、それにしても、よくもまぁこんないい曲ばっかり作れるもんだ。
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