また、これは勝手な解釈ですが本家『汚れた血』では、アレックスは画面左から右へと疾走していきます。(その後突然立ち止まって引き返す)
それに対して『フランシス・ハ』では、フランシスは画面右から左へと走っていきます。
人の顔の向きや進行方向と与える印象については諸説ありますが、一般的には右を向いている顔はポジティブな印象を、左から右へ移動するものは過去から未来へと向かう印象を与えると言われています。
アレックスは未来へ向けて疾走したはずでしたが、途中で同じ道を引き返してしまいました。引き返して目指した対象(アンナ)が実は……というところからもアレックスのノーフューチャーさが暗示されていたのかもしれません。
かたやフランシスのほうは、最初から左方向へと走っていきます。本人はノリノリでしたがその後の結果はボロボロ…。なるほどねぇという感じです。アレックスと違ってフランシスにはポジティブな未来が訪れますが、それはこの場面からずいぶん先の話です。
ところでこんな動画も見つけました。こちらは『モダン・ラブ』にいろいろな映画の走るシーンを詰め合わせたものでなかなか面白いのですが、正直「曲と全然合ってねぇw」としか言えない映像が大部分だったりします(笑)。なんでもかんでも走らせりゃいいってもんじゃねーだろw っていう。でも嫌いじゃないw
もちろん本家も『フランシス・ハ』の映像も両方入っていますが、『フランシス・ハ』のほうは走る方向が本家と逆のため映像を左右反転させています。あまり注意して見ていなかったけど他の映画も同様に反転させているのがあるのかも。
いやー、しかし『ラン・ローラ・ラン』とかめっちゃ懐かしい……でもあの映画、予告とか広告でのイメージに反してあまり面白くなかったんですよねw コンセプトの面白さに内容がついてきてないというか。
それにしても最初の『ラン・ローラ・ラン』(ドイツ映画)のあとに『イングロリアス・バスターズ』が続くところはなんか気になるw
とはいえ、これを何度も見ていたら
なんて思えてきたりしました。『突然炎のごとく』みたいに男2人に女1人という鉄板の組み合わせで駆け抜けるシーンもやっぱりいいもんですね。
そしてさらにこんなものまで出てきたのですが、さすがにこれは
いやいやいやいやw
という感じ(笑)。走ってりゃ何でもいいのかよw
…と思ったらさっきの詰め合わせ動画にも『Shame』の映像が入ってましたw
モノクロの映像、セリフのない描写
途中からこの映画がモノクロだということをすっかり忘れるくらいに現代のNYに生きる若者(本人的には「もう27歳」だけど)の姿を活き活きと描いている今作。
モノクロ映像であってもレトロ感みたいなものはほとんどなく、どちらかというと記録映像・ドキュメント映像的な雰囲気を持っているようにも感じられました。
フランシスとソフィーの関係はこうなんだよ、と説明しているようなオープニングから序盤までの流れや、終盤で事務職に就いててきぱき働いているフランシスの様子などは、被写体にほとんどセリフを与えない状況説明の映像手法(的確な言葉が出てこなくてもどかしい)でありながら、フランシスの楽しそうな様子、充実している様子が伝わってきて実に素晴らしいと思いました。
とくに忙しそうにデスクワークをこなしながらコリーンと笑顔で会話しているところを「フランシスとコリーンのそれぞれの目線」で捉える場面は、昔のサイレント映画のようで印象的でした。こういうカメラワークというかカット割りとモノクロの映像ってやっぱり相性がいいんでしょうかね。
そして他にもすごく良いなと思ったのは、自分がプロデュースしたステージを観に来てくれたソフィーに気付いてお互い見つめ合っているときのふたりの優しい笑顔と、自立して自分ひとりでアパートを借りて住むことになったフランシスが部屋で微笑むシーン。とくに前者はあのふたりの笑顔だけで、下手なセリフ以上にフランシスとソフィーの人生の変化や成長が伝わってくる、大好きな場面です。
また自分たちのアパートで暮らしていたときやレイチェルのところへ居候していたパッとしない頃のフランシスのことは
「自分よりももう少しダメな非モテ」
として接していたくせに、自立して(本人にはその自覚はなくても)堂々とした素敵な女性になった彼女に対してはやや下手に出るような話し方になっていたベンジーの態度も、フランシスの成長を間接的に表していて面白かったです。このふたりにはこれから何かが始まったりするのでしょうか。英語版のWikipediaにはそんな可能性についても書かれていましたが…
ところで主演のグレタ・ガーウィグと監督のノア・バームバックは、2011年後半からのパートナーだそうで、2019年にはふたりの間に息子が誕生しているとのことです。
また元々は脚本家志望であったグレタ・ガーウィグは本作でも脚本を兼任し、2017年にはシアーシャ・ローナン主演の『レディ・バード』で監督(初の単独監督作)・脚本を務め、アカデミー監督賞・脚本賞にノミネートされるなど非常に高い評価を受けた、とのこと。
役者としても評価され結果を出して、さらに元々やりたかった脚本や監督業のほうでさらに成功を収めるグレタ・ガーウィグの姿は、一見すると映画終盤までのフランシスとはずいぶん違ったものに見えますが、これから振り付け師として成功する可能性も見えていたエンディングは、演じているグレタ・ガーウィグ自身が投影されているのかもしれませんね。
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