【ヴィム・ヴェンダース監督作】映画『時の翼にのって ファラウェイ・ソー・クロース!』──あなたは人を守り、そのお陰で守られた【Time Itself】

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天使カシエルが人間としてするべきこととは

 前作ではダミエルが天使だったころに見守っていた人間のうち、人間となってから直接関わることとなったのはマリオンとピーター・フォークでした。

 前作・今作ともに主人公が人間になる前の描写にたっぷり1時間はかけています。その中で天使だった頃に人間に寄り添う場面が幾度も描かれるわけですが、前作の場合ダミエルが天使だった頃に寄り添った人々の中で、人間となったあとでコンタクトを取ったは基本的には上記のふたりだけでした。(間違ってたらすみません)

 ですが今作では、カシエルは天使だった頃に寄り添った多くの人々と、人間となったあとにも大きく関わってきます。

 ハナとその娘ライサ、老運転手のコンラート(彼の人生・物語はこの映画で大きな意味を持つ)、トニー・ベイカー、探偵のヴィンター、偽造パスポートを作る男、ルー・リード、ピーター・フォーク。そしてもちろんダミエルも。

 先にも書いたように、カシエルは「人間の目で世界を見てみたい」と願ってはいたものの、摂理に則った方法・流れを経て人間となったのではなく、子供の命を助けるという“この世界への干渉”を行ってしまったことで人間となりました。

 しかしそれは「本来この世界に人間として存在するべき者ではない」ことに他ならず、そのため彼は長くはこの世界に留まれません。

「留まれない」ということはつまり「死ぬこと」であり、その運命は変えられません。

 大いなる時の流れの輪から外れたものが再びその輪へ還っていくために、カシエルは何かしら定められた行程というか連鎖というか宿命というか、何らかの「すべきことを為す」必要があるように見えました。ただ死ねば終わり、ということではないようです。

 前作と今作の両方ともそれぞれ「現在の」ベルリンが舞台となっていますが、どちらも第二次世界大戦時の描写が少なからず登場します。この時代にベルリンを舞台にした物語を描くうえで避けては通れないものであり、また絶対に外せないテーマ・要素であることも想像がつきます。

 今作でカシエルに課せられたものとは、再統一を果たしたドイツ・ベルリンで、戦争によって引き離され数奇な運命を辿ることとなった(これまで彼が見守ってきた)一組の家族とそれに関わる人たちの不遇な人生や間違った行いを正すことだったのかもしれません。

 天使だったころには許されなかった人間への干渉も、自身が人間となった今なら可能です。

 

 さらに天使だったころには理解することができなかった「人間の立場での視点や行動、考え方」を身をもって体験するということは、自身の体験を通じてそれを見ていたラファエラも知ることとなる──という副産物的な側面も持っていました。

 

 

 ルー・リードが本人役で登場し、酒に溺れて物乞いをしていたカシエルの前に現れ、手を差し伸べて勇気づけます。そしてそんな彼が歌う

「なぜ善良になれない」

「なぜいっぱしの男になれない」

 という言葉を、カシエルは何度も自分自身へ問いかけます。

 もともと天使でありながら何故か悪行を働くほうへ向かってしまうカシエル。

 そのことにもがき苦悩しながらも、正しい道を見つけ、すべきことを為したことにより、天使は人間というものを理解することとなったのでしょう。

ハナの家族とそこに関わる者たち

 人間となったカシエルが関わることとなる一組の家族と、彼らに関係する者たちはみな天使だった頃から見守ってきた者たちであり、彼らの物語は第二次世界大戦末期まで遡ります。

 (ドイツにとっての)第二次世界大戦が終わる直前、コンラートは運転手としてベッカー医師とその妻ゲルトルート、息子アントン、娘ハナの4人を乗せてアメリカへ亡命するべく飛行場へと車を走らせていました。

 しかしベッカーとアントンが飛行機へと乗り込むなか、アメリカ行きに反対していたゲルトルートは娘ハナとともにドイツに残ることを選択し、急いで車を出して空港から離れるようコンラートに命じます。

 一方、ベッカー医師と一緒にアメリカへ渡った息子のアントン(トニー)は、アメリカ人となってベイカー姓を名乗り、90年にビジネスマンとしてベルリンへやってきましたが、映画関係の会社を経営しているというのは偽りで本当はポルノビデオを違法で複製し裏でさばいて利益を上げており、さらに武器商人(ビデオを旧東側へと売り、旧東側からは武器を入手)という裏の顔も持っていました。

 そんな彼はベルリンで地元の探偵・ヴィンターを使って密かに誰かを探しています。ちなみにトニーが滞在しているホテルの同じ階にはルー・リードも宿泊していて、天使だった頃のカシエルは彼の元も訪れています。

 ヴィンターは人生に希望を見出せず、探偵というコソコソと人の裏側を探る仕事につくづく嫌気がさしていてトニーから受けた仕事もやめようとします。

 このヴィンターが調べた情報によって、トニーはアメリカで結婚と事業に失敗しドイツへやってきた(帰ってきた)こと、トニーとハナの母・ゲルトルートは戦後行方不明となったこと、東ドイツに住んでいるハナとは音信不通になったことなどが明らかになります。(アメリカに暮らすトニーが東ドイツに住むハナと連絡が取れなかったことは容易に想像できます)

 また現在のハナとコンラートとのやり取りから、母ゲルトルートが行方不明となって両親を失ったハナが戦後の東ドイツを生きるにあたって、コンラートの助けがあったことも想像に難くありません。独身のまま養父としてハナを育てたのでしょうか。ハナの言葉からも、コンラートは自分を育ててくれた大切な恩人といったような位置付けであるように感じられます。

 戦後のコンラートとハナについては、後半のラファエラとの語りで明かされることとなります。

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