三崎町三丁目通信

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【本棚通信⑦】辻 邦生全集より『基督降誕祭(クリスマス)前後』について

投稿日:2018年12月14日

 

 具体的にいつ、どこで読んだのかもう正確に思い出せない中高生時代のことなのですが、試験か問題集のどちらかに国語の読解問題?として出ていたエッセーの一節がずっと心に残っていて、ネットで色々調べられる時代になってからようやく見つけて購入した本がありました。

 

 それが今回取り上げる『辻 邦生全集 17』(新潮社:定価7,000円)です。えぇ、もちろんこの価格にはビビりました(笑)。が、それでも欲しいと当時の自分は思ったのでしょう…買っちゃいました。2005年発行とあるので、たぶん2006~2007年くらいに購入したものと思われます。

保存状態が良くなくて恐縮です

 

 この『~全集 17』はエッセーをまとめた巻の2番目で、海外の話題がほとんどです。

 その中にかつての純朴な少年(私ですw)の心に響いたのが『基督降誕祭(クリスマス)前後』というタイトルのエッセーです。個人的には「エッセイ」と書きたいところですが本の表記がそうなっているのでそれに合わせています。

 ちなみにこのエッセー内の該当箇所は、実は辻邦生氏のものではなく、フランスの女性作家の引用部分だったりするので“引用の引用”という形になります(笑)。

 

『基督降誕祭(クリスマス)前後』より

※読みやすいように一部改行を加えています。 

 

以下:引用です。

 去年(一九六八年)のクリスマス、私はパリの下町のレストランでぼんやりと雑誌を拾い読みしていた。クリスマス特集号で、いろいろ愉しそうな記事がいっぱいだった。そのなかの小さな片隅に私は新進女流作家のクリスチーヌ・ド・リヴォワールの次のような文章を見つけた。

「私には、クリスマスといえば静寂しか思いだせません。私は聖心女学院の幼い寄宿生でした。聖心女学院の先生がたは、とても詩的な方ばかりで、毎年、二十五日までの九日間の聖修(Une neuvaine de silence)を私たちに課されるのが習慣なのでした。その後、何年かたちました。けれどもクリスマスの思い出のなかで、もっとも印象に残っているのは、この寄宿学校のなかの静寂なのです。

 九日間というもの、それは死んだような静けさでした。小さな女の子たちの黙りこくった行列が、聖母マリアの像の前を進んでゆきました。聖母の足もとには二つの籠が置いてありました。右の籠はからっぽでした。左の籠はジャガイモでいっぱいでした。小さな女の子たちは一人一人左の籠からジャガイモをとり、右の籠に入れるのです。それは沈黙を守りとおした子だけがやれることなのでした。そして聖修の終る九日目に、このジャガイモは全部貧乏な子供たちに与えられるのでした。

 つまり私たちの九日間の沈黙は、こうしてこの貧乏な子供たちに与えられるジャガイモに変形していったわけですが、この沈黙が、幼い私の心を深く動かしたのです。そのとき私は自分に向かってこう言ったものでした。

<もしクリスチーヌ、あんたが一言でも喋ったらどこかの子が、あんたの不謹慎な行いのために、ジャガイモをもらえないで飢えに苦しむのよ>

私はその当時八歳でした。そして私は責任感というものを、そのとき、発見したのです。

 私は賑やかな歌にみちた多くのクリスマスを忘れました。でも、この沈黙のクリスマスだけは決して忘れることはありますまい」

 私はこれを読みおえたとき、眼がしらが熱くなるのを感じた。レストランの外を賑やかに大勢の人々が行き交っていた。しかし私は、遠く北フランスの小さな修道院寄宿学校にいる小さなクリスチーヌの姿しか眼に浮かばなかった。

 

 

 何故これが心に響いたのか、大人になってずいぶん経ってからもう一度読みたくなったのか、などをとくに説明する必要もないかと思います。どう感じるかはその人次第で、もちろん共感できなければダメというものでもありませんし…。

 

 街はクリスマスのイルミネーションで賑やかになってきました。もちろん奇麗だとは思うのですが、やはりもっと質素で静かで、そして厳かなクリスマスが個人的には好きです。それはいくら歳をとっても変わらないような気がします。まぁ質素という意味では自分自身これ以上ないくらいに質素な生活をしておりますが(笑)。

 

 子供のころは、うちの地元だと12月下旬だったらある程度積もるくらいの雪は普通に降っていましたし、ヨーロッパのどこかの国の人形劇や素朴なアニメをクリスマスの日の夕方に民放のチャンネルで放送していて、毎年それを見るのが楽しみだったんですが、今はそういった手作りの温かみが感じられるような良質な子供向けの番組もほとんどないんでしょうかね。

 

 フランス繋がり、というわけではありませんが、20代の頃にどっぷりとはまって大好きだったレオス・カラックスの映画の中で、「アレックス三部作」と呼ばれる3本のうちの1作目『ボーイ・ミーツ・ガール』に、このような台詞がありました。

 

よく「沈黙を守る」というけど、

沈黙が人を守るんだ──

 

 20代前半にこの映画を初めて見た当時は、ゴダールっぽく「実は大して深みもないようなことをいかにも意味ありげな感じで言わせてみました」といっただけなんだろうなと思っていたんですが(でも好きだったんですけどw)、今の世の中には怖いくらいぴったりな言葉だなぁと最近つくづく思います。。

 

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三崎町三丁目通信の主筆・Kです(個人運営ですが)。映画の感想を中心に、趣味で続けているスペイン語学習(DELE A2取得で止まっています)と最近始めた英語学習のことなどを書いています。本業はフリーランスのグラフィック&エディトリアルデザイナー。びっくりするくらい将棋が弱いです。

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