三崎町三丁目通信

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【ジョン・カーニー監督:音楽3部作①】『ONCE ダブリンの街角で』──「音楽の魔法」が生まれた第1作。

投稿日:2018年4月21日

 

 ダブリン出身で、自身もアイルランドのロックバンド、ザ・フレイムスのベーシストだったジョン・カーニー監督による音楽3部作(勝手に命名)の1作目である『ONCE ダブリンの街角で』(2007年公開)は、ストリート・ミュージシャンの“男”と、チェコからやってきた移民で、花を売ったりして生計を立てている“女”がダブリンの街角で出会い、音楽を通じてお互いの人生を前に進めてゆく──といった物語ですが、「ラブストーリー」と呼んでしまってよいものか…という、微妙というか絶妙というか、そんな距離感の二人の物語です。

 そんな「あえてはっきりさせていない」ところが物語にいい余韻を与えているところでもあるのですが、それをさらに助長しているのが二人の名前。というか名前が与えられていません。クレジットも “guy”“gurl”です。

 

二人が出会う前の出来事

 

 昼。人が多く行き交うダブリンの街角で、ギターの弾き語りをするストリート・ミュージシャンの“男”

 見るからに怪しい挙動不審な男が近づいてきて、わざとらしく目の前で靴ひもを結び直す。“男”に見透かされ「金を盗んでも無駄だぞ」と牽制され、必死にそれを否定するも次の瞬間、ギターケースごと抱えて逃げる怪しい男(笑)。結局盗みやがった(笑)。なんとか捕まえるが適当な言い逃れの末、結局5ユーロくれてやることに。

 ちなみにこのセコい泥棒、履いてるスニーカーはやけに新しいんですよね。

 またこのときの“男”の走り方が、スポーツが得意じゃない人の走り方でなんかほのぼのしました(笑)。

 

二人の出会いと楽器店でのセッション

 

 夜。昼間とは違って自身のオリジナル曲を熱唱する“男”。周りには誰もいない。歌い終わって“男”に寄っていたカメラがゆっくり引いていくと、いつの間にか目の前に1人の若い女性が立って“男”の歌を聴いていた。

 路上で手売りしている雑誌を抱えたその若い“女”は、“男”に歌っていた曲についてあれこれ質問してくる。自分の作った曲? 恋人にあてた歌でしょう? 今その人は? 仕事は何をしているの? 掃除機の修理? ならウチのも直せる? といった具合に。

 “女”の顔つきと訛りからアイルランド人ではないだろうことが推測される。“女”はチェコからの移民だった。

 同じ日の夜。“男”は部屋で自作の女々しい曲を弾いていた。

 翌日。路上で演奏する“男”の前に、掃除機を引きずった“女”が現れる。

 ランチの席で、“男”は“女”がピアノを弾けることを知る。いつも昼休みに弾かせてもらっているという楽器屋のピアノを借りて、ふたりの初めてのセッション。ここでの二人のセッションがとにかく素晴らしく、映画が始まって20分も経っていないうちに早くも心を鷲掴みされ、この先への期待が一気に高まってくる、そんなシーンです。

 画面に一緒に歌う“男”と“女”の顔がアップで並ぶ。このように演奏中の二人の顔がアップで並ぶようなカットは、次作『はじまりのうた』次々作『シング・ストリート 未来へのうた』には見られないものです。そういう意味でもこの物語はやっぱり「ラブストーリー」なのかな…という気も。。

 情熱的に歌い上げる“男”と、演奏を合わせるためにときどき相手を見やる“女”。その“女”の横顔に少しほつれた髪がかかる──静かな楽器店で弾かせてもらっているという立場上、控えめなセッションではあるものの、曲の良さとエモーショナルさが二人の距離をぐぐっと縮めたような、そんな感じがしました。もし自分が若くて、こんなシチュエーションになったら一気に盛り上がってしまい、簡単に相手のことを好きになってしまっていたことでしょう(笑)。

 

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簡単に「ラブストーリー」と言えない理由

 

 主人公である“男”と“女”は、どちらも「二人で物語を紡いでいくには、何かが少しだけ遅かった」という関係の男女だったように思います。

 “男”はロンドンに渡ってミュージシャンとして成功する、という夢をまだ諦めずに持ち続けてはいるが“若者”といえる歳でもなく、ロンドンへ行った元恋人に対してまだ未練が残っている。

 そして“女”は実は結婚していて、亭主はチェコにいるものの離婚はしておらず、しかも子どもがいる。母親と娘と3人で暮らしており、歳はまだ若いが、自分の好きなことだけをしていられるような立場ではない。

 そんな“男”と“女”が、それぞれ停滞していた自身の人生から一歩踏み出そうとしたとき、二人の関係はどうなっていくのか──見ている私たちの期待するような「ラブストーリー」的な展開になっていくのでしょうか。

 

音楽によって動き出した二人の人生

 

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 二人が出会って、音楽という共通点によって距離が縮まり、少しずつ動き出してゆく二人の人生。これまでは1人で曲を作って1人で歌っているだけだった“男”が、“女”と出会い、自分の曲を託して歌詞を付けてもらうことで、何かが変わってゆく。

 “男”にとって音楽は(ストリート・ミュージシャンではあるが)生計を立てる職業であるとともに自身の夢でもある。いわばその「自分自身そのもの」である自身の曲に、“女”の人生の一部を投影させたような歌詞が入ることで、歌も、二人が心の中だけに留めていた何かも、今までとは違い外へ向かってゆくことに──

 このときに“女”が作った歌詞(曲名は『If You Want Me』)や、その後“男”が家で書き上げた曲『Lies』で、祖国にいる夫、ロンドンへ行った元彼女のことを二人がまだ想っていることが窺えます。

 ところでこの『If You Want Me』、映画ではそう感じませんでしたがサントラ盤の曲を聴くと“女”を演じたマルケタ・イルグロヴァの声がとても若く、というか幼く感じられます。それもそのはず、この当時彼女はまだ10代だったそうです(88年生まれで現在30歳)。この撮影の後、二人は実生活でも(も?)付き合うことになったようですが、実際の年齢差は18歳だったんですね。

 彼女の最近の曲(といっても数年前ですが)では、この映画の頃よりもさらに深みを増した美しい歌声となっています。興味がある方は彼女のオフィシャルサイトにてチェックしてみてください。

 ちなみに“男”を演じたグレン・ハンサードのオフィシャルサイトはこちらです。

 

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33press管理人

2012年より某地方在住。映画と音楽と雑学とスポーツ観戦が好きで、2017年下半期はツイン・ピークスの新シリーズにはまっていました。フリーランスのグラフィック&エディトリアルデザイナーをやってます。 びっくりするくらい将棋が弱いです。16年にDELE A2に合格。A2てw

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