ミミがヨディの部屋にいたとある夜に彼に会いに来たスー。「結婚はできない」というヨディの言葉に
「結婚はどうでもいいわ」
「一緒にいたいの」
と伝えます。以前「もうここへは来ないわ」と捨て台詞を残して出ていったスーですが、やはり理屈よりも「一緒にいたい」という感情が前にきます。
ヨディはそれには何も言わず、持っていた鍵らしきものを窓枠の下にただ何度も何度も叩き付けるのでした。このイライラが伝わってくるような行為に、ヨディの冷たさみたいなものが感じられます。
出ていった相手を嫌うこともなければ暴力をふるうようなこともしない。でも一度出て行った女に執着することも絶対にないので、この話し合いの時間は彼にとっては無意味でしかないのでしょう。
そしてその直後の
「今はともかく、いずれ俺が嫌いになる」
「不幸になるぞ」
という台詞も、
でも「出ていけ」とか「帰れ」という直接的な拒絶の言葉を自分から言うことも決してしない
という点から「お前が決めろ」という、自分は一切責任を負わないようにする狡さみたいなものも感じ取れます。
するとスーは
「私を愛したことある?」
と、付き合った女との別れに対して責任を負おうとしないヨディにとっては非常に重いド直球(もちろんスーはこの問いがヨディにとって重くて答えづらいものであることを分かって言っている)を投げつけるのですが、それに対してもヨディは
「誰を愛したかなんて忘れたよ」
「死ぬまでこんな調子さ」
と、最後までイエスかノーか答えずに、「自分はこの先もこの生き方は変えられない(=だからお前が決めろ)」という曖昧かつ残酷な言い方で切り上げるでした。
そして部屋の中でふたりの会話に聞き耳をたてていたミミは、最後のヨディの言葉に動揺します。今は自分が彼の恋人だけれども、彼の本質は
「今はともかく、いずれ俺が嫌いになる」
「不幸になるぞ」
「誰を愛したかなんて忘れたよ」
「死ぬまでこんな調子さ」
であって、ヨディは自身のその生き方・考え方を変える気がない以上、いつかは自分が外にいる“馬鹿な女”と同じ立場になる日がくるかもしれない──そういう不安に襲われていたのでしょう。絶対に自分はあの女と同じ目に遭いたくない、ヨディを失いたくないという不安と焦りと執着が、そのあとのヨディとの喧嘩に繋がるわけですが、「帰る!」と言いつつも結局は帰らずに、なんだかんだとうやむやにしてまたじゃれ合うのでした。
スーがヨディを忘れる事が出来ずに苦しんでいる間、ミミはヨディとともに過ごしていましたが、彼女の不安は現実となりヨディはミミの前から姿を消してしまいます。
実際にはヨディは実の母に会いにフィリピンへ旅立ったので、他に女が出来たわけでもなければミミのことを嫌いになったわけでもありませんでした。
ですがミミは彼を探してヨディの元彼女・スーの仕事場へ押し掛け、スーを一方的に罵ります。
愛した男が突然姿を消してすっかり取り乱した女が、かつて自身が“馬鹿な女”と言い放った女に詰め寄り「自分の男を返せ」と必死に問いつめる姿は無様そのものです。そしてそれは本人もよく分かっていることでした。
でもどうしようもない、辛くて仕方がない──
その辛さを誰よりもよく分かっているスーは、そんなミミの無様な様子を見てもあざ笑ったりしません。ただ「自分はもう乗り越えた、次はあなたが泣く番」と返すのみでした。
映画の最後で、スーは(結果はどうであれ)次へ進む行動を起こしているのに対し、ミミはもうこの世に居ないヨディを求めてフィリピンへと旅立ちました。もしかしたら立ち直らせてくれる男も同じ男──という展開になったりして……なんて考えたりもしますが、その前にフィリピンでむやみにヨディのことをあれこれ聞いて回ると危険なんじゃないか? という気もしなくもなかったり……
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