タイラーとザック、そしてエレノア
筏を手に入れ、ザックが「ザ・ピーナッツバター・ファルコン」というリングネームを持った翌日、エレノアが合流します。
ザックに対し分かりやすくステレオタイプな対応をし、すぐに連れ戻そうとするエレノアとタイラーは当然言い合いになりますが、ここで面白いというか「いやちょっと待てw その流れはなんだよw」とツッコミを入れたくなったのがタイラーのこの言葉。
彼を好きだから来たんだろ
それとも俺が好きだからか?
乗せてやる 一緒に行こう
どうしてそうなるw でもってエレノアも一応断るには断るんだけどその理由が
筏で川下りなんてお断りよ
というもので、一緒に行くこと自体は満更でもないんかいっていう(笑)。
結果ザックが車のキーを川に放り投げてしまったのでなし崩し的に一緒に筏で行くことになりましたが、もしザックがキーを捨ててなくても施設の車で普通に3人で旅してたんじゃね? と思えるくらいに満更でもない感じが何だよっていう(笑)。お前らなかよしか(笑)。
あと車をそこに置いたまま川下りに出てしまうテキトーさが実にアメリカらしいというか……
でも最近こういういい加減さにすごくポジティブなものを感じるようになってしまいました。別にしばらくそこに置いておいても誰にも迷惑かからないんだろうし。
旅に同行はしたもののまだ納得がいっていないエレノアは、ザックが水中で息を止めるトレーニングをしている間にタイラーと口論を始めますが(というか自分たちが言い争う内容をザックに聞かせたくないためにやらせたトレーニングですが)、ここでタイラーが語った次の台詞は、とても説得力のある強いメッセージとして映画を見る私たちに向けて投げかけてきます。
ザックのことを“ウスノロ(retard)”と呼ぶのは、彼を下に見ている連中だ
君は呼ばないだけで同じことをしている
でもエレノアの主張も決して間違っているわけではなく、彼女が施設の看護師として老人の世話をし最期を看取るという、その仕事の責任の大きさを考えればそこに入居しているザックに対してタイラーとは真逆の接し方になるのも当然のことだと思います。
タイラーもそのことは理解しているからエレノアがそのことを話しているときに両手を上げて「そのことに反論するつもりはない」と意思表示しているのでしょうし、エレノアもタイラーの言い分が間違っていないことをザックの様子を見て理解しているから、言い合いにはなったけど喧嘩になったりはしなかったのでしょうね。
そしてその後の水遊びや、夜の焚き火とダンスのシーンは3人全員が幸せを体感しているのが分かるとてもよいものでした。(BGMも含めて)
ザックは「俺の家族だ」「いつまでもこうして一緒にいたい」と言い、エレノアが「私も」と応える。そしてエレノアとザックが楽しそうに踊っているのを見つけるタイラーの表情……
家族に捨てられたダウン症の青年、若くして夫と死別した看護師、大きな存在だった兄を自身の起こした事故で亡くした男──
それぞれが失った「家族」という存在の暖かさをお互いの中に見出していくこのシーンは、多くの人の心に刺さる場面だったことと思います。
家族の絆というものが昔と比べて薄れていっているのは日本もアメリカも同じでしょうけど、あの雄大な景色とブルース、そしてカントリーミュージックの組み合わせっていうはアメリカ人としてのアイデンティティに訴える何かがきっとあるのでしょうね。
念願のソルトウォーターの元を訪れてからの展開も優しい世界といった感じでじんわりくるのですが(一部の人を除く)、昔の悪役メイクをして派手に(再)登場したソルトウォーターを見てザックが「だから言ったろ!」とドヤって車に乗り込むまでの3人の様子がすごく幸せそうで印象的でした。あまりに幸せそうな絵面なので、このときのシャイア・ラブーフとダコタ・ジョンソンの演技ってアドリブだったんじゃない? と思ったのですが、どうなんでしょうか。
これを見て思い出したのが、私が小さいときから本当に大好きな映画である『キャノンボール』のラストのシーン。それは、
キャプテン・ケイオスのマスク引っ剥がし
→しんみり……
→〜からのキャプテンUSA登場w
→みんな笑顔
→エンディングへ
といった多幸感あふれる最高のエンディングシーンでした。
「えーっ、信じられなーい!」といったような顔で笑っているエレノアと、両手を上げて大喜びしているタイラー、そして「俺の言った通りだろ」と満足げなザックの3人が本当に幸せそうに見えるんですよね。
クライマックスの試合の場面では、ソルトウォーターがインチキだとバラしていた「アトミック・スロー」をザックがここぞというところでやってのけるシーンがありますが、これ、てっきりタイラーに襲いかかるダンカンへ向けて放り投げるのかと思っていたらとくにそういうわけではなく。(ここもなんだよ、ってちょっと思いましたw ちなみにこの映画、ジャンルはコメディだそうです)
結局タイラーは「バールのようなもの」で殴られて病院送りにされてしまいますが、その病院でザックは誕生日を迎え(リング上でのサムに対しての罵り言葉が「お前は俺の誕生日パーティには呼ばねぇ!」というのもよかった)手に持ったショートケーキのロウソクの数が3本だったのも泣かせます。
で、この思わせぶりな描写から「タイラーは死んでしまったの?」という不安を抱かせてのあのエンディングもなかなかでしたが、エンドクレジットのバックに流れる曲(これもカントリー)の歌詞がまた良かったですね。
結局このあと3人はどうなるのか全然分からないし、タイラーが支払わなければならない賠償金の問題なんかもありますが、
それはまた別の話──
ということになるんでしょうかね。最初に見たときはこの辺の都合の良さが気になったのに、一度この映画の良さを認識してしまったらコロッと印象を変えてしまうという(笑)。
エンディングで流れる曲
Netflixではエンドクレジットが流れ始めるとすぐにメニュー画面に戻そうとするところが難点ですが(笑)、エンディングで流れる曲の歌詞が映画とめちゃくちゃリンクしていていいんですよね。
この動画だったか別の動画だったか忘れましたが、コメント欄にこれまたグッとくるようなことを書いてる野郎がいて困るんですよ…
私はこの言葉のいくつかをタトゥーにしています。私は最近、兄弟を亡くしました。彼もまたダウン症でした。この曲とこの映画は私の心に響きます。
字幕で出ていた歌詞はこんな感じ。
Running For So Long (House A Home)
ああ神様 これ以上待てません
僕らは身も心も すり減らしてきた
長い夜が明けて 分かってきたんだ
僕は皆が言うほど 壊れていないと
きっと ここが僕の家
ずっと 逃げ続けてきたけど
君に会って 離れられなくなって
僕に家ができた
時にはタイヤのように 転がり始めた
でも僕は怖くない 旅を夢見ていたから
長い夜が明けて 分かってきたんだ
僕は皆が言うほど 壊れていないと
きっと ここが僕の家
ずっと 逃げ続けてきたけど
君に会って 離れられなくなって
僕に家ができた
きっと ここが僕の家
ずっと 逃げ続けてきたけど
君に会って 離れられなくなって
僕に家ができた
ずっと 逃げ続けてきた
ずっと 逃げ続けてきた
ずっと 逃げ続けてきた
たった1人 さまよってた
きっと ここが僕の家
ずっと 逃げ続けてきたけど
君に会って 離れられなくなって
もう1人では いたくない
ああ神様 これ以上待てません
僕らは暗闇を抜け ここまでやって来た
長い夜が明けて 分かってきたんだ
僕は皆が言うほど 壊れていないと
きっと ここが僕の家
ずっと 逃げ続けてきたけど
君に会って 離れられなくなって
僕に家ができた
きっと ここが僕の家
ずっと 逃げ続けてきたけど
君に会って 離れられなくなって
もう1人では いたくない
ずっと 逃げ続けてきた
ずっと 逃げ続けてきた
ずっと 逃げ続けてきた
たった1人 さまよってた
君に会って 離れられなくなって
もう1人では いたくない
ずっと 逃げ続けてきた
ずっと 逃げ続けてきた
出演者について
今回は前情報をほとんど頭に入れずにとりあえず映画を見てみたいのですが、見終わってNetflixの作品詳細とかWikipediaを見るまでタイラーを演じていたのがシャイア・ラブーフであることに気付いていませんでした(笑)。
タイラーの兄・マーク役の人は誰だかすぐ分かったのに何てこった、って話ですがあんな髭もじゃ姿は今までたぶん見たことなかったもので。。。
で、このシャイア・ラブーフとマーク役のジョン・バーンサルという組み合わせが兄弟役としてあまりにも出来過ぎというか、全然違和感なくてかなりうまい配役にしたもんだなぁと思いました。見た目や雰囲気に近いものを感じるし、タイラー役のシャイア・ラブーフはちゃんと弟っぽいしマーク役のジョン・バーンサルはちゃんとお兄さんっぽいしで、なかなか絶妙。
ジョン・バーンサルって割といろんな映画やドラマでちらほら見かけますが、やっぱり『ウォーキング・デッド』のショーン役の印象がものすごく強いですよね。でもこの人が出ていたシーズン1~2ってもう10~11年も前だというのが驚きです。『ウォーキング・デッド』はもう数年前から面白くなくなったものの惰性で見続けていたんですけど、このコロナ禍での長期中断を期に見るのをやめました。
あとはもう何と言ってもダコタ・ジョンソン。まったくこの人の可愛さは一体何なんでしょうか。アホみたいに可愛いんですけど…。世代的に両親の顔がすぐに浮かんでしまうのがちょっとアレですけど、2000年代以降に出てきた2世セレブ(ってかこの人の場合は3世?)の中ではこの人がダントツなんじゃないですかね。。あとはリリー・コリンズとかもかなり美形なのかもしれませんが、個人的にはこっちかなぁ…。だからこそ、
なんでこの人は『フィフティ・シェイズ~』シリーズなんかに出ちゃったんだろうか
と、つくづく思ってしまいます。
最後に、今年の夏から急に興味を持ち出したMBTIネタを持ち出すと、今作の主要登場人物の性格タイプは以下のようになっているそうです。(データベースサイトでの投票結果によるもの)
タイラー:ISTP
エレノア:ISFJ
ザック:ISFP or INFP
クリント“ザ・ソルトウォーター・レッドネック”:ESTP
なんか映画のキャラでISFJと見なされる人ってすごい分かり易いような……。献身的で人のために尽くすタイプで、そして幸薄いという(笑)。いや、世の中のISFJが幸薄いと言っているわけではないので誤解なきよう……
あと小説だと例えば『アルケミスト』のファティマもISFJとされていて、こちらもなかなか分かり易いです。
※MBTIが何なのかを知らない方はいくつか記事を書いていますのでMBTIのタグからどうぞ。ちなみに最初に書いたのがこちらです。
いくつかの記事にもリンクを入れていますが、無料の診断サイトだとこの2つがよいのではと思います。
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