【レオス・カラックス】映画『ポーラX』──公開から20年。④「尊き天使(みつかい)と悪しき天使、そしておわり」【さよならカテリーナさん】

Pola X ENTERTAINMENT
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光と闇の描写

 レオス・カラックス映画らしからぬ(?)ピエールたちブルジョワの全てに恵まれているような日々の映像と、イザベルと出会ってピエールが変わってゆくところからの映像とでは、35ミリと16ミリというようにフィルムを替えて撮影されていて、その映像の質感もずいぶん違ったものになっていました。映像の質感が明らかに変わるので、当時も観ていて「あっ」と気付いたのを覚えています。こういうのはテレビで見るより映画館の大きいスクリーンのほうが気付きやすいように思います。

 

 また前半のノルマンディーの美しい風景や、目一杯の光が差し込むピエールが暮らす城と庭の光景であったり、ピエールとリュシーが着ている清潔そうな白いシャツとそれによく映えるふたりの金髪、リュシーのウエディングドレス、ピエールの白いバイクなど、「光の中で」暮らしているブルジョワジーのキラキラしたイメージが、気持ち悪く感じるくらいに分かりやすく表現されていました。

 そしてそれらの光の象徴のような明るい色たちは、物語が進んでいくにつれて徐々に輝きを失っていきます。

 ピエールのバイクはイザベルとの二度の遭遇によって転倒し凹んで汚れていきます。ハンドルも曲がり、最終的にはエンジンもかからなくなってしまいました。

 それまで白を基調とした明るい服を身につけていたピエールはグレーのシャツとジャケット、そしてその後は黒い服へと変わっていき、美しい金髪も伸びるがままになっていって鈍い色合いへと変化していきます。

 さらにピエールは、先の見通しが立たなくなっていく生活に比例して視力も徐々に落ちていき、先へ進むことが困難になっていくことを可視化するかのように、自身の足も杖が必要なほどに悪くなっていくのでした。

 母マリーがピエールを失ったあと、泣きながら夜の森をバイクで走っているときに着ていたのは黒のコート(ガウン?)で、彼女の葬儀の日は暗いグレーの空で雨が降っており、光は射し込みません。

 

 唯一「光」を手放さなかったのはリュシーで、彼女もピエールたちと一緒に暮らすことになってからは黒い服を着ることもあったものの、白のコートも着続けていて最終的に彼女だけが無事(といっていいのかはわかりませんが…)に生き残ったことを象徴しているかのようにも思えました。

 あと今回DVDを見ていてふと気づいたのが、イザベルはもちろんのこと、ピエールもどんどんみすぼらしい格好になっていく中で、リュシーだけは最後までこざっぱりしていて可愛いかったということ。

 公開当時は自分も若かったので、リュシーは邪魔な存在としか感じられなかったため(ごめんなさい)、そんなところには目がいっていなかったようです。でも20年経ち、中年となった今は映画のリュシーと小説のルーシーの両方とも、その天使性みたいなものに素直に感動できるようになったのかもしれません。装飾品は全くなく身体にぴったりあったサイズ感のあのコート姿は、ピエールとイザベルに仕える守護天使のようでもありました。(実際にリュシーはピエールを守るためにやってきた)

 

 またDVDの中にはメイキング映像集も収録されていて、ホテルの前で女の子(ミハエラ)が立っているシーンの撮影時にジュリエット・ビノシュがちらっと顔を出したときの映像も入っています。別れてからすでにかなりの年数が経ち、ジュリエット・ビノシュは『ポンヌフの恋人』以降、女優としてのキャリアを順調に積み上げている最中ということもあるのか、余裕のやり取りといった印象でした。

 

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『ポーラX』劇場公開時のチラシ(裏面)

ピエールとイザベル、ギョームとカテリーナ

 ピエール役のギョーム・ドパルデューとイザベル役のカテリーナ・ゴルベワ

 残念ながらどちらもすでにこの世にはいません

 

 『ポーラX』以降にギョーム・ドパルデューの身に起きたことや死因についてはネットですぐに見つけることができます。

 亡くなったというニュースをネットの記事で見たときは残念で悼ましい思いでしたが、例えばドニ・ラヴァンのように思い入れがある俳優というわけではなかったので正直なところ大きなショックを受けるというほどではありませんでした。

(余談ですが“アレックス三部作”以降の空白の期間に公開された、ドニ・ラヴァン主演のファイト・ヘルマー監督作『ツバル』も速攻で観に行きましたw チラシや宣伝用のリーフレット、パンフなどがなかなか可愛くてお気に入りです)

 

※『ツバル』に関してはこちらのレビューでパンフ画像も入れて少し触れています。

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 ですがカテリーナ・ゴルベワさんが亡くなっていたことを知ったときは、どう表現すればよいのか分からない不思議な気持ちになりました。

 自分の心の中にずっとその場所を空けておいた、何か大切な思い出のようなものがふっと消えてしまった──そんな感じとでも言えばよいでしょうか……。

 カテリーナさんが亡くなったのを知ったのはかなり遅くて、2012年か2013年になってからだったように記憶しています。

 彼女が亡くなった2011年当時、私はまだ東京に住んでいましたが、3.11と自分との直接的な関わりによって、少なくともその年は映画のことは考えられる状況ではなかったため、自分の頭がそういった情報をキャッチすることが出来なかったのかもしれません。

 そんな状態は翌年も続いていたので、カラックス監督の次作『ホーリー・モーターズ』も映画館では見ておらず、数年後にWOWOWだったかスターチャンネルだかで一度見ただけです。(『TOKYO』は公開時に劇場で見ています)

 

 カテリーナさんの死因は公式には発表されておらず、読むことができるものはアンオフィシャルな情報だけのようです。

 

 第三者があれこれ詮索するものでもないのでそれについては探りたいとも思いませんが、亡くなったというニュースを読んだあとに調べてみたら、彼女が『ポーラX』ののちにレオス・カラックスと結婚して娘が生まれ、彼女の死後はカラックスが娘を育てているというのを知って驚いたのを覚えています。(ふたりが離婚したのが2011年だそうで、それも胸が痛むところですが……)

 映画公開時に読んだ雑誌のインタビューで彼女に子どもがいることはすでに知っていましたが、ロシア人の最初の夫との間にひとり、2番目の夫である映画監督のシャルナス・バルタス(今作で謎の組織のリーダー役として出演)との間にも子どもがひとりいて、そしてカラックスとの間に授かった娘と、合わせて3人の子どもがいたというのは知りませんでした。

 レオス・カラックス映画のヒロインで、のちにカラックスの妻となった人であるにも関わらず、カテリーナさんの情報は非常に少ないのですが、数年前に見つけた(ファンが作ったものと思われる)Flickrに写真がたくさんあるので、時々思い出したように眺めてみたりしています。亡くなる数年前の映画の画像もありますが、年齢よりずっと若くて奇麗で、亡くなったのが本当に残念です。

 

 エンドクレジットを見て「えっ!?」と思った『ホーリー・モーターズ』も、一度しか見ていないのでどこかでまた見てみたいなぁと思っています。

 というわけで、こんな読みづらくてくどいレビューを最後まで目を通していただきましてありがとうございました。(もちろん全部読んだとは限らないのでしょうけどw)

 大変思い入れのあるこの『ポーラX』についてようやく書くことができて、自分でも満足しています。“アレックス三部作”についてもDVDを持っている『汚れた血』以外の2作をまた見ることができたら感想を書きたいと思います。

 

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