2018年9月21日にNetflixcで全世界同時配信されたドラマシリーズ『マニアック』の、その時点ごとの登場人物紹介と見落としがちなポイント、その他考察と補足説明などを2話ずつに分けて書いています。全体のあらすじや物語の舞台設定については第1話〜第2話の解説をご参照ください。
第5話:驚くなかれ
内容
引き続きB錠を飲んだ後の脳内の世界
1940年代のある満月の夜、詐欺師のオリーは降霊会“満月の会”が行われるネバーディーン家の屋敷を訪れる。道中で追い払ったはずの、かつての妻であり仕事のパートナーでもあったアーリーも現れ、協力して屋敷に隠されている『ドン・キホーテ』の失われた第53章を盗もうとする
オーウェンとアニーが同じ脳内世界を共有していることを危惧したアズミとジェームズは、アニーを先に目覚めさせ、診断を行う
主な登場人物
オリー・ハイタワー卿(オーウェン)
泥棒であり詐欺師。アーリーとは以前夫婦だったが、毒を盛られたうえ、罪を被って3年間を刑務所で過ごした
アーリー・ケイン(アニー)
同じく泥棒で詐欺師。オリーの元妻。オリーが狙っている“『ドン・キホーテ』の失われた第53章”がどこにあるか知っている
オリヴィア
降霊会の招待客の一人。オリーの正体を知っていて、一緒に組みたがっている
ガーティー・ネバーディーン(ガーティー)
屋敷の女主で“真の月の女神”。正体は2人の脳内世界に侵入したAIのガーティー。ムラモト博士を従えている
アズミ
オーウェンとアニーが脳内世界で共鳴し引き合うことを問題視し、何度かアニーを共有している世界から離し、オーウェンを含めた他の被験者たちよりも早く現実に戻す
ジェームズ
他の被験者より先に目覚めさせたアニーに近接試験を行う。アニーに境界性人格障害の兆候が見られることから、この実験から外そうとする
ポイントと考察
屋敷に現れたオリーを見て誰かが言う「彼は本当にセルバンテス好きか?」の台詞。セルバンテスは小説『ドン・キホーテ』の作者
屋敷にフクロウがいる。それを見ているオリーにオリヴィアが「フクロウは何の象徴だと思う?」「月の化身よ」「安全な場所へ導いてくれる」と言う
第4話でブルースが読んでいる本の中のオリヴィアは、フクロウがプリントされた服を着ていて、またブルースが着ているフットボールシャツの選手名は「MOON」である
オリヴィアはオリーと組みたがっているが、オリーはそれを拒んでいる(グリムゾンがオーウェンに「オリヴィアに気をつけろ」「親が金で自分に気があるふりをさせた」と忠告し、オーウェンはそれを信じていたことを投影)
ガーティー・ネバーディーンにオリーが「ファンです」と言って握手を求める。AIのGRTA(ガーティー)はその名が示すように、ジェームズ博士の母グレタをモデルとしており、これは第10話でオーウェンがグレタ博士に挨拶する場面ともリンクする
ガーティー・ネバーディーンが従えているムラモト博士は、錠剤の乱用による中毒で死亡したため、ここでは常に意識がぼんやりしているような状態となっている
金庫がある場所へ向かうオリーとアーニーの前にグリムゾンが現れ「自分とジェドは双子であり、ジェドのへその緒が首に絡まっていた(ために自分はこの世に存在していない)」とオリーに告げる。グリムゾンが何者なのかは第9話で明らかになる
アニーとオーウェンが脳内世界を共有したのは“法則(パターン)”と“絆”があるから
泥棒のアーリーはアニーの母の投影。母はどんな相手も「魅了して利用する」。アニーはそのことを嫌っていた
オリーがガーティー・ネバーディーンに言う「夢のような話は 必ず期待を裏切ります」という台詞で、オーウェンが何を期待していたかは第6話のアニーとの会話で判明する
屋敷を出るオリーに声をかけたオリヴィアが言う「きっとまたすぐに会うことになる」という台詞は第7話で実現する
“『ドン・キホーテ』の失われた第53章”と現実世界との因果関係
セルバンテスが1615年に執筆した『ドン・キホーテ』の最終章である第53章は、読み手を幻に永遠に引き込む力を持っている
→グレタ博士は著名なセラピストであり作家でもある。そのグレタ博士をモデルとして作られたガーティーは、被験者の睡眠状態をコントロールする能力を持っている
セルバンテスの友人は昏睡に陥り、隣人は目覚めることなく死ぬまで夢物語の世界にいた
→ガーティーと親しかったムラモト博士は度々昏睡状態に陥り、最後はそのまま死亡した
セルバンテスにとって、それは死よりも過酷な運命であった
→ガーティーはムラモト博士の死を悼み、ひどく落ち込んでおり重度のうつ状態である
第6話:構造的な問題
内容
AIのGRTA(ガーティー)に深刻な問題が生じ、その原因を突き止めたアズミはジェームズの母で著名なセラピストであるグレタに協力してもらうよう、ジェームズにけしかける
アズミは過去にCフェーズでの実験で問題が発生し、昏睡状態になった被験者が出たことなどから、ガーティーにセーフティネットとして「感情」をインストールしていた
ジェームズは確執のある母を呼ぶことに抵抗があったが、しぶしぶ受け入れる
Bフェーズの実験から戻ったオーウェンは、同じ脳内世界を共有したことで特別な結び付きのようなものを感じているアニーとは反対に、彼女を避けるようになり、この実験から離脱しようとする
主な登場人物
オーウェン
2日目の実験から目覚めたあとからアニーを避けるようになる
アニー
2度にわたって同じ脳内世界を共有したことでオーウェンに対して特別な結び付きのようなものを感じる
アズミ
ジェームズとは以前は深い仲だったが、ジェームズが抜けたあとも研究を続けるために施設に残っていた
ジェームズ
実験を完成させるため、ガーティのモデルである母グレタを呼び寄せる
GRTA(ガーティー)
AIであるが、ロバートの死を悼んでいる。うつ状態
グレタ・マントルレイ博士
有名なセラピストで、ラテン系の若いイケメンを囲っている。息子との関係や接し方が独特
ポイントと考察
オーウェンはこの実験でさらに妄想と現実の区別がつかなくなってくる。現実世界でも脳内世界でもグレタ博士の本を読んでいたが、その本人がここに現れたことも、どれが妄想でどれが現実なのか解らなくなっていることの要因のひとつ
脳内世界で度々登場した『ドン・キホーテ』はアニーの空想の投影。妹が12歳で『ドン・キホーテ』を読んで以来、父がそのことをずっと自慢していたことが発端
現実と空想の区別がつかなくなった男の物語である『ドン・キホーテ』は、統合失調症に苦しむオーウェンとも重なる
第5話でオーウェンが『ドン・キホーテ』の失われた第53章を手に入れて実現させようと思っていたことは、最終回の第10話と繋がってくる
「マクマーフィ」とは
ジャック・ニコルソン主演の映画『カッコーの巣の上で』で、主人公マクマーフィが精神病院でロボトミー手術を受けさせられ、廃人のようになってしまったことに由来しているものと思われます。またグレタとジェームズ、アズミとの会話のなかでもロボトミー手術についての発言が出てきます。ちなみにロボトミー手術については映画『エンジェル・ウォーズ』でもその描写が出てきます。
第5話でオリー(オーウェン)がガーティー・ネバーディーンに言った「夢のような話は 必ず期待を裏切ります」という台詞
オーウェンが「期待」していたこととは何だったのか
アニーと一緒にどこかへ行こうと計画した
車に乗ってスピードを上げると知らない誰かが追ってくる
逃避行みたいで僕は笑っているんだ
顔は満面の笑みで、笑いすぎて苦しくなる
僕らは2人だけで助け合うんだ
「期待を裏切る」とは
「彼女は他のことに夢中で仲直りできなかった」(第5話のラストでの運転手のボビーとの会話より)。
また、同じくボビーとの会話での「伴侶ができる前、人生は楽だった」という台詞は、第10話の「2つ目の可能性」をオーウェンが考えてしまっていることからくるものと思われます。
Netflixドラマ『マニアック』解説
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