2回に分けて書いた『欲望の翼』のレビュー後半となる今回は、登場人物についての感想と考察の続き(ミミ、そしてタイドとサブ)と、エンディングで唐突に登場する男(トニー・レオン)の意味やマギー・チャンとトニー・レオンの演技について監督が語っているインタビュー記事の紹介、そしてYouTubeで見つけたウォン・カーウァイ監督についてまとめた面白い動画の紹介などを書いています。
ヨディと養母レベッカとの関係や、スーがヨディを愛することになるまでの感想と考察については前半をお読みください。また今作の原題である『阿飛正傳』の意味と由来についても、監督が公開当時のインタビューで語っているのを取り上げています。
主人公ヨディによる印象的な2つのフレーズのうちのもうひとつである
を体現するかのように生きたヨディと、彼の生き方の影響を受けることとなった者たちについて今回は書いていこうと思います。
登場人物②-2:スーとミミ
ミミ
カリーナ・ラウ演じるミミは、ヨディの養母レベッカが経営するナイトクラブのダンサー。ある日レベッカが交際している若い男を、ヨディがボコボコにした現場に居合わせたことをきっかけにヨディにお持ち帰りされ、そのまま一夜を共にします。
見た目も地味で大人しいタイプのスーと違い、ミミはナイトクラブでダンサーとして働いているだけあってその見た目には華やかさがあり、また夜の世界(といってもダンサーですが)で生きる女性ならではの気の強さみたいなものも持っており、言いたい事はハッキリ言うタイプ。
ヨディの態度に不満があったり彼に対して怒っているとき、その気持ちを自分の内に押し込めて自分がその場から出ていってしまうスーに対し、ミミはその場で直接ヨディに食って掛かる性格なので、男にとっては非常に分かりやすくて尚且つ付き合いやすいタイプなのかもしれません。
ちなみにミミの場合もスーと同様、自分の言ったこととその後の行動が噛み合わないという、女性特有の謎行動を取ったりしますが、こちらの場合は割と分かりやすい駆け引き的な発言だったり、所謂「イヤよイヤよも何とやら」といったものなので、そこにはほとんど不条理さを感じることはありませんでした。そういうやり取りは特に酒が入ったあとの男と女の間にはよくありそうですしね(笑)。
まぁヨディと付き合うようになってから「床を拭いたかどうか」でサラリと嘘をついてしかも軽く逆ギレする図太さはさすが中華圏! と思いましたが(笑)。
ミミは初めてヨディと過ごした夜、雨のなか自身が住むアパートの前に車を停めたヨディに向かって
「(あんたの)家に行くなんて聞いてないわよ!」
ということを言ってはみますが、結局はさっさと車を出てアパートへ向かったヨディを追ってアパートへと走っていきます。
ただこのとき車の中でひとり指を噛み、何か覚悟を決めるような表情を見せていたところに、ミミも決してあざとくて軽い女ではないということが垣間見れます。
そして「泊まれよ」という直球(笑)を投げるヨディに対して
「すぐ帰るって言ったじゃない!」
「そこらのすれっからしと一緒にしないで!」
と必死に拒否するミミですが、その直後のじゃれ合いから鼻を塞がれてのチューまでは、まさに先ほども書いた
イヤよイヤよも何とやら
であり、ここまでが全部コースメニューでございますとでも言うような予定調和な流れにしか見えません(笑)。
また途中のサブの乱入を挟んで、最終的に「今夜は帰りたくない」と言ってまたじゃれ合うまでのやり取りも印象深いものがありました。
このときミミは「帰るから送って」と言うのですが、それに答えようとしないヨディに今度は「明日電話して」と電話番号を書いたメモを渡して、この一夜限りではない関係を望んでいることを明確に態度に表します。
しかしそれにも生返事で返すヨディに「本当は電話する気なんてないんでしょ」「(メモを)なくしたら絶対に許さないわよ!」と強く出ます。
するとヨディは一転して「俺に偉そうな口をきくな」と強い口調で言い、ミミの肩を噛むのでした。ミミとヨディの場合では、このときがふたりのパワーバランス・手綱をヨディが握った瞬間となり、ミミは「あんたに逆らったりしないわ」と宣言し「今夜は帰りたくない」と一転して甘えてみせるのでした。
気の強い女が一度惚れた男にマウントを取られるや、一気に従順でしおらしくなるという展開は、夜の蝶(笑)の色恋沙汰にはよくありそうな話ですが、付き合う女に対して常に自分が上の立場でいたいと考えるタイプの男っていうのはきっとヨディのような発言や行動を迷いなく取れるものなんでしょうね。
なんだかDV男とかに居そう…なんて思ってしまいますが、この映画で女を殴った男はヨディではなかったので、どういう男がDV野郎になるのかの判断も結構難しいのかもしれません。(って映画と関係ないかw)
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