私たちが知らない、東西統一のもうひとつの側面
そんな夢は多くの(もしくは一部の?)東側の人たちにとっては幻想となりました。統一後、かつての東側の物や商品、文化などは時代遅れでダサいものとされてきましたが、その後
という見直しがされ、先述の「オスタルギー」と呼ばれる流れへと繋がっていきます。
大型スーパーで大量に消費されていく飲料や菓子、食品などは、まさに資本主義社会の根幹となる大量生産と大量消費(期限切れだがまだ食べられる商品を廃棄していたりもする)を象徴するものであり、そこで在庫管理係として働く彼らのような存在もまた、いくらでも代わりのきく使い捨て要員でしかありません。
生まれたときから資本主義社会の中にいた私たちには、彼らの東西統一がはたして全面的に良いことであったのかどうかを簡単に言い切ることは出来ません。ドイツ以東の旧共産主義国家の民主化とはまた違い、ドイツの場合はもともと同じ国だったのが戦後ふたつに分断され、それがまたひとつの国となったわけですから、他国とはまた異なる不平等や軋轢、(同じ国の人同士での)差別意識などがあるのでしょう。
そういった背景もあり、決して先の見通しが明るいわけではなさそうなクリスティアンと同僚たちではありますが、それでもあの「通路」での日々の中にささやかな喜びや幸せを見出すことも出来る──ということをエンディングで伝えているのではないかと、私は思いました。そしてそういったささやかな喜びや幸せは、彼らの周りにだけ存在するのではなく日本も含めた世界中のあらゆる場所でも見出すことができるものなのでしょう。
ブルーノとクリスティアンはお互いに孤独な身同士でしたが、親子のような関係を築いていてどちらにとってもプラスな存在となっていただけに、ブルーノが自らこの世界から去っていったことは残念でなりません。このブルーノの喪失だけが穏やかだった「通路」の人たちの日常に暗い影を落とすこととなりましたが、それでも彼らは悲しみを乗り越え少しずつ日常を取り戻していくのでしょう。
あとこれはどう解釈すればいいのか分からなかった点なのですが、
クリスティアンとマリオンが最初に休憩室で喋ったとき、クリスティアンがマリオンのネームプレートの他に意識して目を向けていたのはピアスとネックレスでした。これにどのような意味を持たせていたのか、うまく解釈できていません。彼女の中に女性らしさのようなものを見ていた、ということなのでしょうか。
ちなみにこのとき彼女は指輪をしているので、ちゃんと見ていればマリオンが既婚者であることに気付くことが出来たのかもしれませんが、このときのクリスティアンは指輪には視線が向かっていませんでした。もしかしたら既婚者だと気づかなかったことを強調するためのあの視線の描写だったとか??でもそれだったらなぜピアスやネックレスには注意が向いたのに指輪に目がいかなかったのか…謎です。空き巣をやっていた頃の癖で取り外す装飾品には目がいくが、つけたままの指輪は盗む対象にはならないから……なんてことはないですよね。空き巣だって少年時代に数回やっただけだそうですし。
最後に、レビューを書くためにもう一度最初から見直していて「あぁ、なるほど…」と思った台詞がについても触れておこうと思います。
よそよそしくなったマリオンにクリスティアンが「僕が何か…」と声をかけたらすかさずマリオンが
何でも自分のことだと思わないで!
と言って去っていったこの場面。きっとマリオンは夫とのことで辛い状況にあり精神的にもいっぱいいっぱいだったのでしょう。本当はクリスティアンと今までのように仲良くできたらいいんだけど、そんな精神状態じゃないしそもそも自分は結婚している身だという意識もあったはず。
だからクリスティアンに相談するわけにもいかなくて苦しんでいるんだけど、クリスティアンはあまりにも素直かつ純粋に「自分のせいなのか」と気にしてくる。でもそれに対して優しく対応する余裕がそのときのマリオンにはなかったから、半ば逆ギレのような形となってしまった──という感じなのではないでしょうか。
マリオンのほうが年上だし、職場内でも先輩だからいつも余裕のある大人の対応をしていたけど、このときはそれができないくらいに追い込まれていたのでしょうね。
そこから彼女は仕事に来られなくなりましたが、復帰したときには肩まであった髪をバッサリと短く切っていました。何か良い変化があったのかもしれないし、何もなかったのかもしれないけど、彼女が休職している間に自身の内面で何か区切りをつけることだけはできたんだろうなとは思います。
またクリスティアンが花束を置いたまま出ていったときにはどうなってしまうんだろうとハラハラしましたが、マリオンがポジティブに受け取ったみたいで安心しました。あれはたとえ相手が誰であっても普通はみんな「怖っ!」ってなるところでしょうからこの都合の良い展開はさすがフィクションといった感じでしたけど(笑)。
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