三崎町三丁目通信

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映画『シング・ストリート 未来へのうた』【ジョン・カーニー監督:音楽3部作③】──“すべての兄弟たちに捧ぐ”

投稿日:2018年3月18日

 

捨てキャラがいないバンドメンバー

 

 前作の『はじまりのうた』でもバンドのメンバーは個性的でよかったのですが、今回は学校内で組んだバンドということもあり、さらに濃い結びつきとなっていてそれぞれキャラが立っているところも面白いところです。

 

 “校内コンサルタント”らしいダーレンは、頭のいいタイプで(勉強が出来るという意味ではなく)、ちっこいけど自分の強みをちゃんと分かっていてふてぶてしいところが頼もしいのですが、よく見るとセーターがヨレヨレで穴も開いてて縫い直した跡もあったり、家に電話がないということからも貧しい家庭の子のようです。(いじめっ子のバリーと同じアパートらしい

 

 また「黒人がいるとバンドにハクが付く」という理由で勧誘されたンギクは、いきなり知らない奴らが押し掛けてきて、割と失礼なアプローチでバンドに誘ってきたにも関わらず満更でもない様子からすると、彼もこういう仲間が欲しかったのかもしれません。最初のMV撮影のとき、なんとかカメラに映ろうと立ち位置を変えて割り込んでくるところが実に微笑ましい(笑)。

 

 メンバー募集の張り紙を見てやってきたギャリーとラリーは、何者が分かりませんがやたらと上手く、ベースのギャリーがまたこてこてのアイリッシュ顔というか、ギャラガー兄弟(とくにノエル)とかと同じ老け顔タイプなのもなんだか妙に目につきます。

 

 そして何と言ってもこの「シング・ストリート」はエイモンの存在があってこそ成立するバンドであり、ロックバンドの王道コンビでもあるボーカルとギターの組み合わせが見ていて心地いいのです。このエイモンとの曲作りのシーンは、“思春期での友達の存在”といったものを非常にうまく表現されていたように思います。シンプルで、対等で、そして認め合っていて…。いやはや、懐かしくも美しい日々。そんな時代が自分にもあったなぁ…なんて思った方もいるのでは。

 

 

 今と違ってSNSはおろかケータイもない時代なのでアポなしで押し掛けるのなんて日常茶飯事だし、当然家にいたほうの友達も普通に招き入れることが多かったです。

 

 

 今だったらどこにいたって誰とでもやり取りできるし、ネットでしか知らないような人と話すことだって簡単に出来るけど、この時代は家にいたら家の中が世界の全て。外との繋がりなんてありませんので、学校以外で友達と過ごす時間は貴重なものでした。ただ漫画や雑誌を読んだりゲームしてるだけの時間もすごく楽しかったっけ…なんてことを思い出させてくれるいい場面です。

 

 ダーレンがコナーにエイモンを紹介するところからバンドは始まっていきますが、メンバーが揃ってバンド名が決まったときに“たまり場”から意気揚々と出てくるこやつら。まだ何もしていないのにもう何か成し遂げたかのようなあのドヤ感(笑)。でもその気持ちはよく分かります。ただの少年が何者かになった瞬間なんでしょうね。

 

 あとでこれと同じような場面がもう一度出てきます。初ギグに向けていじめっ子のバリーをローディに誘って、それに乗ったバリーとコナー、ダーレンの3人がアパートを後にするシーンがそうですが、これも彼らにとってすごく重要な瞬間ですよね。敵対するだけの関係から、驚くほど自然で理に叶った方法で仲間になっていくというだけでなく、ともすれば悪役としての役割しか与えられずに終わっていたかもしれないバリーを、彼の境遇が原因となっている暴力的な部分にも優しい目を向けて、一緒に救い出してやるなんてニクい演出です。「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のビフとは違うわけですね。実際ローディとしてなかなかいい仕事をしているところを見ると、人っていうものは仲間として迎えられ、自分に向いた仕事を与えられれば変われるってことなのかもしれません。

 

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今作も健在だった「音楽の魔法」

 

 ジョン・カーニー監督作品といえば、バンドの演奏シーンがとにかく素晴らしいのが特徴です。今作でももちろんその「音楽の魔法」を堪能することができますが、個人的に一番好きなのは、コナーがエイモンの家で『Up』を一緒に作曲していて、二人で生ギターとピアノで弾き始めた曲がそのままバンドの演奏になっていく場面です。

 

 これは『はじまりのうた』でグレタが弾き語りで歌った曲がダンの頭の中でバンドアレンジになっていったときと同様に、ひとり(または二人)から生まれた小さな音が、バンドという仲間の音が加わって大きなうねりになっていく、という演出ですが、なんだってこうも高ぶるのでしょうか…。まずもって曲が良いということもありますが、ひとつの曲が生まれ、成長し、それがいろんな人を巻き込んでそれぞれの何かを変えてゆく──というところが、私たち見るものの心に響くのでしょうか。

 

 差し入れを持ってきたエイモンのお母さんの楽しそうな様子、好きな子に聴いてもらいたくてさっそくテープを届けるコナー、それを受け取って聴いたラフィーナも、自分のモデルになる夢に改めて向き合い「よし、私も」といった感じでメイクの練習?をしてみたり。

 

灰色の月曜 通りの向こう

例えようのない瞳の少女

突然 最高の日曜になり

何もかもがリアル

 

(中略)

 

高く上るよ

光を照らす彼女

壊れそうな僕

彼女が引き上げる

 

(中略)

 

彼女が星空へ案内してくれる

デイム・ストリートもジョージズ・ストリートも

はるか眼下

誰にも邪魔されない世界

 

 『モデルの謎』のテープを渡したときは、曲名を聞いて「うれしいわ」というラフィーナに「君じゃない。知り合いの別のモデルさ」なんて見栄を張っていたコナーですが、このときにはもう堂々と気持ちを曲に込めていますね。(ジェネシスを聴く)彼氏がいるラフィーナもそりゃあ悪い気はしない…っていうかそれ以上ってもんでしょう。

 

 あとはギグでの演奏も良かったのですが、面白く、そして泣かせてくれたのは『Drive it Like You Stole It』の演奏&撮影のシーン。コナーとラフィーナの間では共有できた「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のライブシーンもエキストラの子たちは見ておらず、「こんな感じで」とダンスの指示をするも絶望的にリズムに乗れてなくて、拍の取り方がまさかの前ノリw 演歌かっていう(笑)。

 

 そうかと思えばコナーの妄想の中では「こうなってくれたらいいのに」っていう願いと現実との違いに切なくなります。仲良く踊る両親、ノリノリのバクスター校長、ラフィーナにしつこく絡むエヴァンを追っ払う、バイクに乗って現れたジェームス・ディーン風のブレンダン…

 

 

初ギグ成功のあとに

 

 ギグのあと、ブレンダンに港まで送ってもらい祖父の船で英国へ渡ることにしたコナーとラフィーナ。じつに青春映画らしいエンディングですが、ここでもブレンダンの兄としての大きさみたいなものがよく出ています。「向こうに知り合いは?」「金はあるのか?」と訊く場面、おそらくどっちも無いだろうということを分かっていて笑いながら訊いていますが、その笑いは決して馬鹿にしているものではなく、「どっちもないんだな? でも行くんだよな?」っていう優しさに満ちたいい笑顔をしています。

 

 港で二人とのお別れ、そのあとでの拳を突き上げ心から弟の(文字通り)船出を喜ぶ姿で涙腺崩壊しました。長男としてつらいことは全部自分が受け止め、自身の夢も諦めることになったのに、弟の旅立ちを全力で喜び応援する兄………落ちぶれていようと引きこもりだろうと、

 

 

アンタめちゃくちゃ格好いいよ!

 

 

 

 

 そして最後にはこんなメッセージが。

 

 

 

すべての兄弟たちに捧ぐ

 

 

 

 

泣くわそんなのここで出されたら。

 

 

 

 数十kmの距離とはいえ、あんな小さい船で無事にたどり着けるのか心配されるところでしたが、以前ラフィーナと小島へ行ったときに見た英国行きの客船が現れ、その後ろを客船が進んだ流れに乗って追うことで、おそらくは英国へ行くことができたのでしょう。「レコード契約を取って俺たちを救い出してくれ」というエイモンの願いは叶うでしょうか。でもその後どうなったのかはまた別の話、ってやつですね。

 

 夢は誰もが見ることができますが、実際に行動に移せる人は少なく、実現させることが出来る人はもっと少ないです。コナーの旅立ちを見て改めて思ったことは

 

 

“いざという時に自分を前に進めてくれる何らかのスキルを持つことの重要性”

 

 

です。コナーにとってのそれは、音楽の才能に加えて「船を(持っていて ※祖父のものですが それを)操縦出来る」というスキルですね。

 

 映画 『LIFE!』(原題:『The Secret Life of Walter Mitty』)でのウォルター(ベン・スティラー)も、冴えない男が一歩踏み出す勇気を持って、あれよあれよという間にどえらい経験を世界中ですることになりますが、その“冴えない男”も、スケボーで子どもの頃に大会で賞を取ったことがあり、そのスキルが、愛する女性の息子の心をガッチリと掴み、そして自身の冒険でも身を助けることとなっていました。

 

 もちろんそれに加えて、彼の場合は(本人がそう思っていなかったとしても)その実直な仕事こそが実は一番のスキルであり、評価されていたことだったわけですが…。

 

 ずっと続けている自分の本業(コナーにとっての音楽、ウォルターにとってのフィルム管理の仕事)でのスキルと、いわゆる「昔取った杵柄」的なスキルのふたつが人生の岐路に立ったときに自分を後押ししてくれる──ということを考えると、人生仕事だけでも、遊びだけでも何かが足りない。そして何でもいいから一生懸命になれることと、長く続けられるものを持つことが大事なんだということを、身にしみて感じられました。

 

 

最後に

 

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 余談ですが、この『シング・ストリート 未来へのうた』のパンフレットはLPレコードのような仕様になっていて、LPサイズの紙ケースの中に歌詞カード&ライナーノーツ風のパンフレットが入っている、というものでした。紙ケースももちろんレコードジャケット風のデザインでシャレてます。ちなみにベル・アンド・セバスチャンのスチュアート・マードックの映画『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』のパンフはシングルレコード仕様となっていて、ふたつ並べるとなかなかイイ感じです(笑)。

 

 そういえば最近『オリエント急行殺人事件』の資料を見ていて、ラフィーナ役のルーシー・ボイントンが出演しているのを今頃になって知りました。12月に公開されていたときに見たいなぁとは思っていたものの、結局行けなかったので今度ぜひ見てみたいと思います。クィーンの伝記映画にも出演するそうで、そちらのほうも楽しみです。

 

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  • この記事を書いた人

三崎町三丁目通信主筆・K

三崎町三丁目通信の主筆(個人運営ですが)をしておりますKです。映画の感想を中心に、趣味で続けているスペイン語学習(DELE A2取得で止まっています)と最近始めた英語学習のことなどを書いています。本業はフリーランスのグラフィック&エディトリアルデザイナー。びっくりするくらい将棋が弱いです。

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