三崎町三丁目通信

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映画『ONCE ダブリンの街角で』【ジョン・カーニー監督:音楽3部作①】──「音楽の魔法」が生まれた第1作。

投稿日:2018年4月21日

 

ついに決意した“男”

 

 “女”との出会いによって、背中を押されるようにロンドン行きを決意した“男”。ついに本気で腰を上げ、ロンドンで自分の音楽で勝負すべく、デモCDを録音することになります。そのためのバンドメンバーを集め、スタジオを借り、資金を借り…というふうに話は進んでいきます。

 

 バンドで路上演奏をしている3人組みに声をかけたあとに出かけたホームパーティ?のシーンをはじめ、“男”が最初に“女”の家に行ったときや、後の録音スタジオでのシーンでも顕著に表れていますが、全体的にカメラがドキュメンタリー風の撮り方になっています。予算の関係でこうなったのだとは思いますが、ほとんど無名の俳優(というか二人とも俳優ではなくミュージシャン)が演じていることも相まって、逆にそれが物語にリアリティを感じさせてくれるものとなっています。例外的に、映画っぽいアングルで撮影された場面も出てきますが、それについては後ほど。

 

 またスタジオに入る前に、二人でバイクに乗って海を見に行くシーンがありますが、“男”の乗るバイク(父親のもの)がトライアンフなのも「あっちの映画」っぽくていいです(笑)。

 

 そしてこの海でのシーン、見ていただけでは分からなかった重要な台詞があったようです。私はWikiに出ていたのを見て知ったのですが、

 

「彼を愛してる?」と(いま教えてもらったばかりのチェコ語で)訊ねる“男”に、イルグロヴァが演じた“女”がアドリブ「いいえ、私はあなたを愛している(チェコ語で)」と言った

 

とのこと。

 

 このエピソードはニュアンス的に映画の中の“女”が“男”に向けた台詞というより、イルグロヴァがチェコ語を話せないハンサードに対して、アドリブで自分の気持ちを伝えた──という解釈でいいんでしょうかね。

 

 

『はじまりのうた』『シング・ストリート』と異なる部分、共通する部分

 

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 次作『はじまりのうた』、次々作『シング・ストリート 未来へのうた』では、主演以外のバンドメンバーもそれぞれキャラが立っていて面白かったのですが、この『ONCE ダブリンの街角で』ではあまり目立つ存在ではありませんでした。

 

 これも予算や制作スケジュールの都合なのかもしれませんが、この作品では主演の二人にはっきり焦点を当てたほうが話がぼやけないと思うので、これで良かったのかもしれません。

 

 それにバンドメンバーのキャラが立っていることの面白さは、後に続く2作品でのお楽しみということで(笑)。

 

 

 それとは逆に、共通する部分としては何といっても

 

“ギター1本で静かに始まった「歌」に、少しずつバンドの音が重なってきてひとつの「曲」になっていくときの高揚感”

 

でしょう。これこそがジョン・カーニー監督作品の醍醐味であり、監督お得意の「音楽の魔法」というやつですね。

 

 

 また、細かいところではありますが、“男”の部屋でリハーサルをしているときに父親がお茶を持ってきてくれる場面がありましたが、これと同じような場面が『シング・ストリート 未来へのうた』でも出てきます。息子の音楽活動に理解のある親……こういうのって地味にいいですよねぇ。『はじまりのうた』の屋上レコーディングでも親子競演のいいシーンがありましたが、監督自身の経験が反映されていたりするのでしょうか。

 

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優しいサブ(またはモブ)キャラたち

 

 他にも今作の作品の素晴らしいところのひとつとして、「サブ(またはモブ)キャラが二人に対して優しい眼差しを持っている」という点が挙げられます。

 

 

 最初のセッションでの楽器屋のご主人は、熱を帯びて歌声が大きくなってきた“男”(と“女”)の演奏に嫌な顔をするどころか「若ぇの、なかなかやるじゃないか」みたいな優しい微笑みを浮かべていました。

 

 またそのセッションの後、“男”の家へ掃除機を持って行くバスの中でもつい大声で演奏してしまった“男”に対して、同乗していた老婦人もやはり怒ることなく微笑んでいます。

 

 

 スタジオで録音する費用を捻出するため、中古のスーツを着込んで(このスーツ姿が見事なまでにダサいw)会いに行った銀行の融資担当の男に至っては、自身の音楽好きにスイッチが入ったのか(笑)、目の前でギターを弾きながら歌い出したりして、まさかの即決(笑)。曲はもちろん素晴らしいんだけど、こういう場合は大抵まともに相手してもらえなかったりするものですが…うまくいくもんですね(笑)。

 

 

 そして録音当日、最初は彼らをナメていたエンジニアのエイモンも演奏を聞いて態度を豹変(笑)。一転してとことんレコーディングに付き合い、朝にはカー・テストを兼ねたドライブにまで連れ出してくれる。実力主義といえばそれまでだけど、認めた相手には絶対手を抜かないのはプロとして流石だなと思いました。

 

 ちなみにエイモンの車はベンツの300TDでしたが、フロントのエムブレムがちょっと曲がっています。どこかの悪ガキにでもやられたのでしょうか(笑)。

 

 

 あとはやはり“男”の父親。これに尽きます。作品の中には出てこない設定なので分かりませんが、おそらく息子の音楽への情熱や夢に対して、反対したことなどなかったのでは。温かく、そして威厳を持って息子を送り出すお父さん、とっても格好いいです。

 

 

余韻を残すエンディング

 

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 終盤からエンディングにかけては、美しい映像が続きます。

 

 徹夜のレコーディングを終えて、カーステレオでの聴き具合を確認するという名目で海までドライブに行くご一行。いい大人が徹夜明けに朝日に照らされながら海で戯れる姿はなんとも微笑ましい(笑)。でもこういうときってすごく疲れてるんだけど、テンションが上がってて楽しいんですよねぇ。わかります。

 

 

 結局二人が結ばれることはありませんでしたが、この出会いは二人にとってかけがえのないものとなったはずですし、恋人同士にならなかったからこそ残った絆みたいなものもあったでしょうから、こういう関係でお別れするのも素敵なのかなと思ったりもして。

 

 

 ロンドンへ旅立つ前、“男”は“女”の家に立ち寄るが“女”は仕事に出かけていて不在。

 

 いつも花を売っていたストリートや初めてセッションした楽器屋にも足を運ぶが彼女には会えない。

 

 

 ここでかつて一緒の時間を過ごした場所を短くパン、パンと映していくカットが、リチャード・リンクレイター監督の『ビフォア~』3部作みたいでいいなぁと思いました。物語がエンディングを迎えるときのちょっとした寂しさと、素敵な映画を見たときの心地良い余韻みたいなものが味わえて、個人的にとても好きな場面のひとつです。

 

 

 あと、これまでずっとドキュメンタリー風の撮り方で映画は進んでいたのが、エンディングで初めて違った撮影の手法をとっています。

 

 “女”の家にピアノが届いたところ、そして“女”が家族に囲まれてピアノを弾きながら外を見る場面──高いところから撮っているカメラがそのまま引きのショットになっていって、建物~街のほうへとフォーカスしていきます。

 

 “男”は故郷であるこの街を離れ、ロンドンへと旅立って行きましたが、逆にチェコからアイルランドへやってきて、ここダブリンに根を下ろし、今ようやく家族が揃って共に生きてゆくことになった“女”にとって、このダブリンという街が優しい場所であってほしいという願いが込められているかのような、暖かな日差しに包まれた美しい風景をバックに映画は終わります。

 

 

 主演の二人はともに役者ではなく、その後も俳優としての活動はしていないようですが、どちらもそれを感じさせない素晴らしい演技だったように思います。グレン・ハンサードの好青年ぶりも良かったですが、とくにマルケタ・イルグロヴァの、嘘とか駆け引きみたいなものとは無縁の、真っすぐに相手に届くあの視線は、プロの役者ではないからこそ、出せたものなのかもしれないですね。

 

 

 いやー、それにしても、よくもまぁこんないい曲ばっかり作れるもんだ。

 

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  • この記事を書いた人

三崎町三丁目通信主筆・K

三崎町三丁目通信の主筆(個人運営ですが)をしておりますKです。映画の感想を中心に、趣味で続けているスペイン語学習(DELE A2取得で止まっています)と最近始めた英語学習のことなどを書いています。本業はフリーランスのグラフィック&エディトリアルデザイナー。びっくりするくらい将棋が弱いです。

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