映画『ONCE ダブリンの街角で』【ジョン・カーニー監督:音楽3部作①】──「音楽の魔法」が生まれた第1作。

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簡単に「ラブストーリー」と言えない理由

 

 主人公である“男”と“女”は、どちらも「二人で物語を紡いでいくには、何かが少しだけ遅かった」という関係の男女だったように思います。

 

 “男”はロンドンに渡ってミュージシャンとして成功する、という夢をまだ諦めずに持ち続けてはいるが“若者”といえる歳でもなく、ロンドンへ行った元恋人に対してまだ未練が残っている。

 

 そして“女”は実は結婚していて、亭主はチェコにいるものの離婚はしておらず、しかも子どもがいる。母親と娘と3人で暮らしており、歳はまだ若いが、自分の好きなことだけをしていられるような立場ではない。

 

 そんな“男”と“女”が、それぞれ停滞していた自身の人生から一歩踏み出そうとしたとき、二人の関係はどうなっていくのか──見ている私たちの期待するような「ラブストーリー」的な展開になっていくのでしょうか。

 

 

音楽によって動き出した二人の人生

 

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 二人が出会って、音楽という共通点によって距離が縮まり、少しずつ動き出してゆく二人の人生。これまでは1人で曲を作って1人で歌っているだけだった“男”が、“女”と出会い、自分の曲を託して歌詞を付けてもらうことで、何かが変わってゆく。

 

 “男”にとって音楽は(ストリート・ミュージシャンではあるが)生計を立てる職業であるとともに自身の夢でもある。いわばその「自分自身そのもの」である自身の曲に、“女”の人生の一部を投影させたような歌詞が入ることで、歌も、二人が心の中だけに留めていた何かも、今までとは違い外へ向かってゆくことに──

 

 このときに“女”が作った歌詞(曲名は『If You Want Me』)や、その後“男”が家で書き上げた曲『Lies』で、祖国にいる夫、ロンドンへ行った元彼女のことを二人がまだ想っていることが窺えます。

 

 ところでこの『If You Want Me』、映画ではそう感じませんでしたがサントラ盤の曲を聴くと“女”を演じたマルケタ・イルグロヴァの声がとても若く、というか幼く感じられます。それもそのはず、この当時彼女はまだ10代だったそうです(88年生まれで現在30歳)。この撮影の後、二人は実生活でも(も?)付き合うことになったようですが、実際の年齢差は18歳だったんですね。

 

 彼女の最近の曲(といっても数年前ですが)では、この映画の頃よりもさらに深みを増した美しい歌声となっています。興味がある方は彼女のオフィシャルサイトにてチェックしてみてください。

 

 ちなみに“男”を演じたグレン・ハンサードのオフィシャルサイトはこちらです。

 

 

ついに決意した“男”

 

 “女”との出会いによって、背中を押されるようにロンドン行きを決意した“男”。ついに本気で腰を上げ、ロンドンで自分の音楽で勝負すべく、デモCDを録音することになります。そのためのバンドメンバーを集め、スタジオを借り、資金を借り…というふうに話は進んでいきます。

 

 バンドで路上演奏をしている3人組みに声をかけたあとに出かけたホームパーティ?のシーンをはじめ、“男”が最初に“女”の家に行ったときや、後の録音スタジオでのシーンでも顕著に表れていますが、全体的にカメラがドキュメンタリー風の撮り方になっています。予算の関係でこうなったのだとは思いますが、ほとんど無名の俳優(というか二人とも俳優ではなくミュージシャン)が演じていることも相まって、逆にそれが物語にリアリティを感じさせてくれるものとなっています。例外的に、映画っぽいアングルで撮影された場面も出てきますが、それについては後ほど。

 

 またスタジオに入る前に、二人でバイクに乗って海を見に行くシーンがありますが、“男”の乗るバイク(父親のもの)がトライアンフなのも「あっちの映画」っぽくていいです(笑)。

 

 そしてこの海でのシーン、見ていただけでは分からなかった重要な台詞があったようです。私はWikiに出ていたのを見て知ったのですが、

 

「彼を愛してる?」と(いま教えてもらったばかりのチェコ語で)訊ねる“男”に、イルグロヴァが演じた“女”がアドリブ「いいえ、私はあなたを愛している(チェコ語で)」と言った

 

とのこと。

 

 このエピソードはニュアンス的に映画の中の“女”が“男”に向けた台詞というより、イルグロヴァがチェコ語を話せないハンサードに対して、アドリブで自分の気持ちを伝えた──という解釈でいいんでしょうかね。

 

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