三崎町三丁目通信

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【ウォン・カーウァイ監督作】映画『花様年華』──封じ込めた「秘密」とは

投稿日:2018年5月9日

 

 

女は顔を伏せ 近づく機会を男に与えるが

 

男には勇気がなく 女は去る

 

 東京では少し前に『欲望の翼』をはじめ、いくつかのウォン・カーウァイ監督作品のリバイバル上映があったようで非常に羨ましかったのですが、某地方のこちらでは唯一『欲望の翼』デジタルリマスター版の上映があったのみでした。

 もちろん観てきたのですが、どうやら自分の中で『欲望の翼』『花様年華』が一部ごっちゃになっていたりして、今イチ両方の作品をちゃんと覚えていなかったようなので、勿体ないのでHuluの2週間お試しキャンペーンを利用して『花様年華』のほうも見てみることにしました。

マギー・チャンがスタジアムの売り子だったほうが『欲望の翼』、チャイナドレスの人妻だったほうが『花様年華』です(笑)。

 

 

 

 

カメラは覗き見る視線となる

 

 

 トニー・レオン演じるチャウと、マギー・チャン演じるチャン夫人はそれぞれ同じ日に夫婦で引っ越してきた「お隣さん」。

 どちらも良識ある大人であり、伴侶を大事にしている良き夫・良き妻であったが、お互いの伴侶同士が不倫していることを知り、嘆きつつも二人は徐々に距離を縮めてゆく。

 

 二人とも「潔白だ」「一線は守りたい」と、やましい関係ではないことを強調するが、二人が一緒にいるところを映すカメラは、路地の角の奥からだったり、窓の外から室内を窺う位置だったりと、二人を「覗き見る」ような視線で撮っています。

 また、誰かの台詞と画面が一致していないとき(回想であったり、その内容とリンクする別の場所にいる誰かだったり)は、まるで覗き穴から対象を見ているような、周りがぐるっと暗くなっていて視野が狭い絵面になっています。

 隣に住むもの同士、お互いの伴侶が不倫しているという絶望的な状況であり、ともに被害者であるはずの二人ですが、その二人を映すカメラ=「それを見る私たちの視線」は、その後の二人の変化を象徴するような背徳感のある視線となっているところが、なるほどなぁと思いました。

 

 

マギー・チャンの魅力全開の今作品

 

 

 

 90年代に『欲望の翼』を観たときは、自分も若かったこともあり(笑)、マギー・チャンのあの独特の色気というか、魅力があまり分かっておらず、単純に顔の好みで(薄味のマギー・チャンよりも)くっきりはっきりの濃い味系のカリーナ・ラウのほうがいいなぁと思っていたように記憶しています。

 が、先日『欲望の翼』デジタルリマスター版を観て、自分がより感情移入して見ていたのは、決して好みのタイプではないはずのマギー・チャンのほうだったのでした。

 カリーナ・ラウ演じるミミ/ルルの愛の形や悲しみも、その容姿とともに美しいものでしたが、マギー・チャン演じるスー・リーチェンの、あの「女の業」みたいなものは生々しいものがあり、いかにも蒸し暑そうな香港の空気感も相まって、まだ若いながらも匂い立つような色気を感じました。最初はまるっきりつれない態度だったくせに、「あのセリフ」でコロッと落とされて、次の部屋のシーンではすっかりほだされた女の顔になりやがって! みたいな(笑)。

 

 ちなみにデジタルリマスター版パンフレットの、やや後半に載っている赤白チェックのワンピース姿の写真がすごく可愛くて映画の印象のまま見るとまるで別人みたいです。

 

 なんというか、派手な顔立ちではないぶん、薄幸さみたいなものを持った女の役が似合うのでしょうかね。もちろん美人は美人なんだけど、いい意味で地味というか。ちょっとズレますが、映画『モテキ』の麻生久美子の役柄がちょっとだけ近いような…なんてふと思いました。(もちろんここで比べていい作品・役柄・設定だとは思っていませんが 笑)

 どちらの作品でも言えることですが、「恋愛」という世界・時間の中で生きているときは、たとえどんなにきちんとした分別ある男や女であっても、信じられない程みっともない姿をさらしてしまったりするものですから、絶対にそれを笑ったり馬鹿にしたりはできないし、「いるいる、わかるわ~」と妙な共感(?)もしたりするわけです。

 

 そういった「業」のようなものを演じるとハマるタイプなのかなぁと、『欲望の翼』を観ていて思ったわけですが、今回の『花様年華』ではそういった「女の業」とはまた別の、もう少し歳を重ねた、貞淑な大人の女性としての色気みたいなものが出まくっていて、まさに「マギー・チャンの魅力全開」な作品となっています。

 

 全編を通して衣装は全てチャイナドレス。色や刺繍も美しく、フレンチスリーブかノースリーブで、丈も膝上でスタイルの良さが際立ちます。職場であんな格好した人妻がいたらむさ苦しいおっさん達は仕事に集中できないのでは(笑)。

 

 また今作での彼女は容姿に限らず、この作品で見せる表情の変化や、微妙なしぐさによって表現される演技も素晴らしいものがあります。

 夫の浮気を確信するところや、トニー・レオンと過ごす時間のなかで自身の気持ちが変わっていくところ、シンガポールでトニー・レオンの部屋に行ったときにとった行動などなど。

 

 ちなみに80年代のフランス映画『汚れた血』について、監督のレオス・カラックスは「この映画は、いかにジュリエット・ビノシュを美しく撮るかに重点を置いて作った」といったようなことを語っていましたが、この『花様年華』でのマギー・チャンにも、何かそういった“特別な存在感”のようなものを感じてしまいます。

 

 

ちょっと気付いた細かいところ

 

 

 

 ストーリーとは関係ありませんが、二人がお茶したり食事をしたレストラン?で使われているマグ&ソーサー、プレートは類似品じゃなければファイヤーキング『ジェーン・レイ』シリーズではないかと思われます。

 

 この映画の公開は2000年でしたが、ちょうどその頃、偶然にも(?)日本ではファイヤーキングの食器(とくにマグカップ)がブームとなっていて、新古品から使い古して着色シミがついたものまで、当時はミッドセンチュリーものやヴィンテージ系のものを扱う雑貨屋に行けばどこにでも多少は置いてあるような状態でした。

 

 私も知人からもらったのを機に一時期ちょっと集めてみたりもしましたが、欲しいものが手に入らないことと、イッタラやアラビアのマグに興味が移ったために買い足すのはやめました。ただ当時のカタログ本はまだ持っているのでたまに眺めています(笑)。

 

 で、そのファイヤーキングですが、まぁだいたいそういう流れになってるんだろうなとは予想していましたが、今回改めてググってみたら2011年に「ファイヤーキング ジャパン」社として復活していたようです。

 底面の「MADE IN JAPAN」が不思議な感じですが、悪い気はしません(笑)。まぁ値段的に私は買えませんが…

 

 あとトニー・レオンが“書斎がわりに”と借りたホテルの部屋ナンバーは「2046」です。もちろん2004年の映画『2046』と関連があり、『花様年華』のチャウ(トニー・レオン)が、とあるホテルの2046号室で「2046」という近未来小説を書き始め…というのが『2046』の設定となっています。

 また『欲望の翼』から引き継いだ役名や人物設定などもあるので、この3作は部分的に繋がっている作品といえるものとなっています。続編と言ってしまっていいかというとそれはちょっと…という感じですが。

 

 

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33press管理人

2012年より某地方在住。映画と音楽と雑学とスポーツ観戦が好きで、2017年下半期はツイン・ピークスの新シリーズにはまっていました。フリーランスのグラフィック&エディトリアルデザイナーをやってます。 びっくりするくらい将棋が弱いです。16年にDELE A2に合格。A2てw

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